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No Women No Music 第10夜 ポストロックを超えてゆくフロンティア/ローウェル

ほんま えつ2014.11.10

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90年代以降「ポストロック」と称されるロックミュージックが盛んになった。従来のロックにはあてはまらないような実験的な音響、変調、エレクトロニカの多用などなど。シカゴの音響派といわれたトータス、アイスランドのシガー・ロスなどはその代表格。レディオヘッドの中期以降も多分にポストロックだと私は思う。彼らの生み出したサウンドは芸術的なまでのクオリティの高さもさることながら、限りなくセンチメンタルであり、私などは自覚的に悲しみに浸かりナルシスティックに癒されたい…そんな落ち込んだ自分に酔いしれ泣きたいときの音楽だった。ただでさえ少ない女性アーティストのさらにさらに輪をかけたくらい女性ミュージシャンがほとんど見当たらない分野でもあった。ポストロックの感傷と、時に垣間見えるエレクトロニカの攻撃性は彼らの内に秘めた怒りのメタファーのようでもある。緻密で細部にまで行き届いた完璧な音へのこだわり方も、どこか脆弱なものを抱え込んだ男の世界の裏返しと感じてしまうときすらある。

心あたりの数少ない女性アーティスト、アイスランドのムーム、アルゼンチンのファナ・モリーナ、アメリカのタラ・ジェイン・オニール・・・。彼女らが織りなすサウンドスケープをあえてポストロックと捉えてみて思うのだが、そのエクスペリメンタルな音響世界は、音楽というよりもアートという感触。紡ぎだされる言葉は多くを語らず抽象化されたポエトリーのようだった。

カナダから届いたローウェル(Lowell)のデビューアルバム「ウィー・ラヴド・ハー・ディアリー」We Loved Her Dearlyはそんな私のポストロック・エレクトロニカに抱いていた固定観念を覆してくれるまったく新しい女性アーティストとの嬉しい出会いである。

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アルバムの1曲目Ward Were The Warsからきこえてくるエレクトロニカの残響と囁くようなヴォーカルは次第になだらかな大地に足をつけてずんずんと分け入っていくたくましさへと変化し、従来のポストロック・エレクトロニカのセンチメンタリズムを吹き飛ばしていく。薄暗い曇り空のなかを漂うかのようなサウンドのなか、2曲目Cloud69で〈私はダイナマイト 応援してくれるチアリーダーが必要ね 彼女を見ながらきみを投げ飛ばしたい・・・悪い男の子たちなんてファックユー〉とローウェルの音と言葉の世界はダイナミックに広がっていく。曲が続くにつれ聴く耳をぐいぐいと引きつけ、6曲目The Sunにてそのスリリングで不穏な導火線は着火され、8曲目においてはI Killed SARA V.で性暴力の惨さを俯瞰した冷静さで伝えていく。9曲目のI Love You Money、〈きみは男の世界で生きている~もうウンザリなの… きみは男の世界で生きている 私は自分の世界で生きている もうきみなんていらない…〉と軽快さにユーモアを交えてミソジニーな男社会を斬り捨て、10曲目のLGBTに流れ込む。〈こんにちは 私の名前はLGBT~私はハッピーで自由なの 私はハッピーでハッピーでLGBTなの〉。70年代のゲイコミュニティのディスコサウンドへのオマージュのような間奏をはさみ“L” “O” “V” “E”をくりかえす下りはマッチョゲイグループ、ヴィレッジ・ピープルのパロティのようでニヤリとなる。


『性的虐待やレイプ、中絶、女性の人権などについて開け広げに書くことでローウェルのアルバムはこの男性優位社会において必要とされている会話のためのプラットフォームになっている…フェミニズムに加えて祝賀的なムードの「LGBT」で彼らの権利の保障が社会に欠けていることについて、そしてホモセクシュアリティに対する無知(と同時に異常なまでの関心)について触れている。しかし、そこにこれ見よがしなスタンドプレーは一切ない。…歌われる内容の緊急性を伝えながらもメロディーが曲を楽しく親しみやすいものにしている。その結果、社会を取り巻く状況に対面しながらも踊ることができ、楽しみながらも平等を守るために闘うことができるのだ。それを可能にしているのは、底に流れるローウェルの音楽的楽観性だ』Anne T.Donahueはこう語る(CD解説より)。
あからさまな主義主張を排したかのようなポストロックの到達点を超え、ローウェルは詞に何度も登場する「太陽」をメタファーに一匹オオカミのごとくフロンティアを踏出した。プロモーションビデオだけでなくぜひアルバムを通して聴いてほしい。そこにはローウェルという女性アーティストが果敢に挑んだ魂のドラマがある。


http://www.arts-crafts.ca/artistspage.php?search=Lowell

 



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ほんま えつ

ほんま えつ(ほんま・えつ)

音楽、映画、本をこよなく愛して生きる趣味人女。
小学5年生のとき同級生の友達宅で聴かせてもらった「クィーン」に感動。
以後、洋楽を貪り始める。初めて買ったLPレコードは「アバ」のベスト盤。
いまではこれぞと思った音楽はジャンルを超えてなんでもござれの雑食派。
本連載、約10年ぶりのカムバックです。

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