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初めてのペニス選び

アンティル2017.09.29

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私のカラダの変容はFTMだ。女性から男、female to male。
そんな私が初めて、そして唯一買ったパスグッズは“バリバリ”だ。パスグッズとは見られたい性に見られるためにサポートしてくれるグッズで、“バリバリ”とは胸を潰すコルセットだ。2017092903_01.jpg今では “バリバリ”はもう死語になり、その存在はナベシャツにとって代わられた。ナベシャツ→“バリバリ”は本来、腰をサポートするために巻くコルセットで、パスグッズとして当時使われていた。巻いたコルセットを剥がす時のマジックテープの音“バリバリ”が語源だ。

2017092903_03.jpg
今、パスグッズのバリエーションは多いようで、女性の体のラインを隠すための下着や、シークレットブーツ、ナベシャツと一体型になっている水着、そしてペニスの変わりに入れるもの、立ちションができるものまである。サポートグッズはその機能だけでなくそれを纏っていることで安心できるお守りのような存在である。

そんなことを言いながら、私はバリバリ以外のサポートグッズを買ったことがなかった。しかし先月初めて、ラブピースクラブでペニス状に型取られたシリコンのディルドを購入した。パス歴が長く、安心しきった日常を送っている私はペニスを入れる必要性を考えたことがそれまでなかったのだが、20年ぶりくらいに、私の性別を疑る男が現れ、それが取引先の相手で、周りにも言いふらしかねないその男に股間を触られ、確かめられる恐怖に耐えきれず、私はパスグッズにSOSを出した。

しかしどれを選んでいいのかわからない。私は本物のペニスを知らない。リアルペニスの感触、大きさ、形などわかるはずもなく、ラブピースクラブのペニス通に各種見せてもらいアドバイスを受けた。“タオルでも入れて膨らませておけばいいじゃん”ペニスの凸なんてそのくらいのもんだと思っていた私は、出されたディルドのバリエーションに驚いた。
2017092903_04.jpg
包茎か包茎じゃないかなんてバリエーション必要なの?大きさにバリエーションがあるのはなぜ?堅さなんてどうでもいいじゃん?!でも、包茎の形のペニスよりそうでないものの方が売れている所をみると、こだわりポイントらしい。でもちょっと待って?選んでいるのはFTM。そのFTMが男の理想のペニスに基準を置いてる?!なんだかもやもやしながらも、ラブピースクラブのペニス通にあれこれ質問をしてみた。

「日本人のペニスに近い大きさと感触を持つサポートグッズはどれ?」
「これに近いかな」2017092903_05.jpgのサムネール画像
「こんな形してるんだ」
「いや、こんなにかわいいペニスはないけどね」
「じゃあこんな大きくて固いのは売れないでしょう?」
2017092903_06.jpg
「いやそんなことなくて、それなりに出るよ」
「じゃあこれセックス時にも使えるの?」
「使うには柔らかいかな」
「じゃあこれ買って人はみんなパス目当て?」

2017092903_02.jpg私自身、FTMとして生きていて“男”に近づく努力をした経験がある。それはファッション、言葉遣い、そして思考。80年代のバブル期には館ひろしばりに肩パットを入れてダブルスーツを着ていたし、リーガルの男用の革靴を履いて、バレンチノのセカンドバックを持って、「うーす」なんて言っていた。でもそれは全然私の趣味ではなかった。白かグレーの世界。赤やピンクなんて男ならありえない。うーすでだいたいの会話ができる味気ない世界。

そんな単純で色彩のない世界で、「男は女を守るもんだ」そんな男イズムに感化され、会社では男の組織の中でうまく生きられない自分を人間的にだめな奴だと思って苦しんだ。中高大と女子校で、男友達もいない私に男の思考などわかりはしない。それでも必死にそれが社会だと思ってがんばっていた。そして気が付くと、私の脳は男にやられ、女の社会で謳歌していた自由や柔軟な考え方が減っていた。会社でどんなに理不尽なことがあってもそれが社会だ。と思って納得しよう近づこうと必死になり、それが馬鹿な男の戯言や従う必要も価値もない暗黙の男社会の約束ごとだとわかるまで10年を要した。
そんな自分を思い出しながらその日私はディルドを前にして思った。

売れ切れてしまった包茎じゃないペニスの入荷を待つFTMに言いたい。どーでもいいじゃん。偽ペニスだよそれっ!膨らむなら、触られても疑られてもパスできる膨らみなら何でもいいじゃん!パンツに入れて見えなくなる偽ペニスにまで男が望むペニスの形を求めなくていいじゃん!

2017092903_07.jpg私は包茎のペニスをを5,832円で購入し、そしてパンツに入れて私の性別を勘ぐる男に会った。どんなに邪魔に感じるかと思ったら、存在すら忘れる大きさで、私をじろじろと点検するような視線を向ける目の前の男が埃ほどの存在に見えた。その男の口から私の性別について話しが広まれば、私の仕事も奪われ兼ねないという不安は、なくなりはしなかったけれど、なんだかちょっと馬鹿らしく思えていきた。
「絆が大事だ 仲間が大事だ」とその日、そんなことを豪語する男がパンツの中の小さなディルドよりも小さく、そしてこっけいな形をするペニスそのものに見えて人間じゃないならまともに相手してもしょうがないと少し思えた。

FTMとして生きることは簡単ではない。私だって、FTMだということで仕事を奪われ生活を壊されることは怖い。でも怖くなったらサポートグッズにSOSを出して、どうにかこの社会を自分の意思で思考でスタイルで乗り切っていけばいい。怖ければ怖いと言おう。男という記号に自分の人生を預けるのではなく、自分を預けるのは常に自分でありたい。

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アンティル

アンティル(あんてぃる)

ラブローター命のFTM。
数年前「性同一性障害」のことを新聞で読み、「私って、コレかも」と思い、新聞を手に埼玉医大に行くが、「ジェンダー」も「FTM」という言葉も知らず、医者に「もっと勉強してきなさい」と追い返される。「自分のことなのに・・・どうして勉強しなくちゃいけないの?」とモヤモヤした気持ちを抱えながら、FTMのことを勉強。 二丁目は大好きだったが、「女らしくない」自分の居場所はレズビアン仲間たちの中にもないように感じていた。「性同一性障害」と自認し、子宮摘出手術&ホルモン治療を受ける。
エッセーは「これって本当にあったこと?」 とよく聞かれますが、全て・・・実話です!。2005年~ぶんか社の「本当にあった笑える話 ピンキー」で、マンガ家坂井恵理さんがマンガ化! 

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