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兄への不安

茶屋ひろし2018.05.28

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父が経営していて兄がその後継者としている会社に入ることになったとき、私が気がかりだったのは、父のことより兄との関係でした。
20歳で実家を出てから、兄とはあまりかかわりのない日々を送ってきました。5歳離れていますが、頼りたいとか相談したいと思ったことがありません。というか、ずっと苦手でした。
たまに飲んでも、父や会社の人たちへの愚痴が多く、離れていてよかったとそのたびに思うほどでした。

入社してからも、やはりそのままで、兄と話をしなくなるのに時間はかかりませんでした。
一度、文書にてその態度を非難しました。
放っておくと兄の世界観に巻き込まれてしまうので、自分を見直すためでもありました。
そのとき言葉にできたのは、兄がテンプレと嫉妬とマウンティングで生きているということでした。

会社の経営に関して口当たりのいいことを言いますが、中身がない。「ここを普通の会社にしたい」とか、「みんなで一丸となって」とか、「社会に貢献しなければならない」とか、「これからは若い人たちの時代だ」(これは働いている人たちに失礼だった)とか、聞いていてくらくらするような経営方針ばかりです。何をつくりたいか、どういう仕事をしたいかが欠落しています。たまに出るアイデアは誰かが言った借りものばかり。これがテンプレ部分。

嫉妬は、一見、よく人を褒めていますが、私が彼の前で誰かを褒めると、すぐにその人を否定するようなことを言い始めます。いま褒められたいのは俺だけ、の世界。いまアイツを褒めている俺を褒めろ、という倒錯。

そこからマウンティングにつながっていきますが、彼は基本的に自分以外の人間を見下すことによって自分を維持しています。
相手が精神的に幼いとか、年いっているから、女だから、偏屈だから、容姿がどうだとか、驚くほど簡単に相手をバカにしていきます。
それに不快感を覚えない人はいませんが、彼が次期経営者という立場のせいか、あえて指摘されず、どんどん周りにスルーされます。
それが原因で辞めていった人も何人かいます。本人はそのことに気づいていません。

そういう人がいると場が腐る。どんなにやる気があって、自分の仕事にプライドがある人でも、彼はそれを自分の体裁に回収してしまうからです。
手柄を盗るとか、そんなわかりやすいいけすかなさではなく、自分がないというか、闇が深い感じです。
自信がなかったり弱かったりする自分を見つめることができず、それが露出しようとするたびに周囲の人や環境のせいにして生きてきたのだとわかりました。

昔から小説をよく読む人だったのにどうしてこんなに洞察力がないのか、と疑問も浮かびますが、そうか、「自分は何も悪くない人」にするためのキャラ設定や、相手との関係を型にはめるためのテンプレを増やすために読んでいたのか、と思いました。

父には、兄についての不安を語ってきましたが、「おまえの言う通りや。あいつは一度失敗しないと気づかん」としか言いません。「それ、いつやねん」と突っ込んで終わります。でもたしかに、兄を変えることは兄にしかできないことです。
父にしてみれば、対外的にも内面的にも、自分が経営してきた会社を息子たちに継がせて引退する、という青写真を壊したくはないようです。
他の経営者の話を聞いても、兄弟で会社を継ぐことはいいことだという反応が返ってきます。

やっぱり一緒にやるのはむりやわ~、と飲み屋で愚痴っていると、酒の勢いも出てきて、やっぱ辞める、会社辞める、あの人は社長になりたがっているんやから、もうやってもらったらよろしいやん、となります。
そうすると、ウチの事情を昔からよく知っているマスターが、「辞めてもいいけど、お父さんが抜けたあとの会社が、組織として成り立つようにしてから辞めなあかん」と言います。なにそれ、どうやんの。

父に会社へ誘われたとき兄が出版部の営業をしていて、「いずれ経営を任したいと思っているが、書店のほうを見ようとしないから、代わりにお前が書店を見てくれないか」と言われました。
入社してから兄が書店を気にしていないわけがわかりました。
書店はずっと赤字経営で、出版の売り上げで経営が保たれていました。兄は社長になって、赤字部門を切ってしまいたいと考えていました。
それは判断のひとつとしてアリだとは思いましたが、そもそも書店があったから出版が生まれた、いま書店をやめてしまうと出版もダメになる、という父の考えを覆すことはできていませんでした。

そればかり主張していたらいつまでたっても社長にしてもらえないことがわかったのか、最近は「書店と出版と両輪で会社を支えていかなければならない」などと言い出すようになりました。それは父の言っていたことで、欲望は変わっていないように見えます。加えて、書店を見ると言い出して、この春から週に一度店に立つようになりました。

書店をどうにかしようという気はなくて、これだから書店は閉じてしまわなければならない、という理由を探しに来たとしか思えません。
ただでさえ黒字回復してへんのにそんなネガティブいらんわ、という思いと、スタッフの人らにマウンティングを始めるのかと思って気鬱です。
それを弾き飛ばす方法を探しています(人生相談みたいになってしまった)。

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茶屋ひろし

茶屋ひろし(ちゃや・ひろし)

書店員
75年、大阪生まれ。 京都の私大生をしていたころに、あたし小説書くんだわ、と思い立ち書き続けるがその生活は鳴かず飛ばず。 環境を変えなきゃ、と水商売の世界に飛び込んだら思いのほか楽しくて酒びたりの生活を送ってしまう。このままじゃスナックのママになってしまう、と上京を決意。 とりあえず何か書きたい、と思っているところで、こちらに書かせていただく機会をいただきました。 新宿二丁目で働いていて思うことを、「性」に関わりながら徒然に書いていた本コラムは、2012年から大阪の書店にうつりますますパワーアップして継続中!

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