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煙草を吸いに家のベランダに出ると、向かいのマンションの窓に猫の姿を見かけます。じっとして飽きることなく外を見ている様子。たまに二匹になりますが、たいていは一匹で色は白。こちらは五階であちらは二階なので、たぶん私の姿は見えていないはず。電線に止まるスズメや、眼下を行き交う人や車を観察しているものと思われます。
猫が窓際で外の様子を見るのは、動くものを目で追うハンティングの仕草なんだとか。

猫が好きなのにアレルギーで近づけない私は、猫の生態に関する本を読んでは、いつか猫と暮らすための知識を無駄に蓄えています。

先日は小雨の出勤時に、街路樹につながれたまま鳴いている子犬を見かけました。黒い、ダックスフント? 自転車でその横を通り過ぎてしまいましたが、近くに飼い主らしき人物は見当たらず、捨てられているのか、とその鳴き声に後ろ髪をひかれるように職場にたどりつきました。

お昼時になって、やっぱり気になるわ、もう遅いかもしれないけれど、と、事務所に大量にある、女性誌の付録としてついてきて返品時には処分するトートバッグの中から一番でかいやつを選んで、まだ、あの子が濡れそぼっていたらこの中に入れて戻ってきますから! と職場の人に宣言して自転車で現場に向かいました(近所)。

雨はすでに止んでいて、光でキラキラした歩道の上に、その姿はもうありませんでした。誰かに拾われたか、それとも飼い主が近くにいたのか・・もやもやする気持ちを抱えながら、少し残念な気分で職場に戻ると、話は隅々まで伝わっていて、どうやったん? とみなさん笑顔で訊いてきました。自宅で犬や猫を飼っている人たちばかりです。
なぜ私はペット可の部屋に住んでいないのか、後悔するほどの気持ちになりました。

以前書いていた「駐輪場の黒猫」も去年の夏を過ぎたあたりから見かけなくなり、寂しいというより、なんとかできなかったのかしらという気持ちが勝っています。
「野良猫を保護する方法」みたいな本も出ていて、それを読んで一人シュミレーションをしてみたり・・。

今の私にできることといえば、そうした想像と、人々がネットに挙げている犬猫の動画を見ることくらいです。
なかでも好きなのは、人間の赤ちゃんとペットたちのコミュニケーションで、大きな犬が赤ちゃんをあやすようにしていたり、猫がその小さな手に肉球を押し当てたりしている動画です。
それを見ながら、結局この世で最強なものはベイビーなのよね、と思ったりします。

話は変わって、先月作家の橋本治が亡くなりました。70歳だったそうで、前回書いた一条ゆかりさんと同い年でした。
90年代にたくさん本を買ったものの、最初から最後まで読んだのは数冊という程度のファンですが、それでも何かと心の拠り所にしていた人でした。

今や、仕事で東京に行く際の新幹線でしか本を読み通すことなどないのですが、ちょうど去年の年末から、橋本治の小説をお共にするようになっていました。
何かを察知していたのかも知れません。
松本清張や有吉佐和子など、今まで読みたかったけれど読んでなかった文庫本を読むのが定番になっている新幹線(というか旅の読書)ですが、どちらかというと純文学よりエンタメが読みたい、ぐいぐい引っ張ってくれないと、一度寝たあとにまた読もうという気にならないから、というぐうたらな理由で「積読」の中から引っ張り出してきます。そういえば、と橋本治を試してみたら、純文学のはずなのにとてもドラマティックで、読み始めたら止まりませんでした。

ゴミ屋敷の住人を描いた『巡礼』や、明治生まれの男(官僚)の家族を描いた『リア家の人々』などを立て続けに読んでしまいました。

どちらもその登場人物が生きてきた時代背景を丹念に描いていて、その時々でその人物がどう思ったかについてはさらりと流すくらいで、それよりも時代考証や風景描写に筆を費やしています。それなのに、というか、それだからか、その人物がとてもリアルに浮かんできて、物語を追うことがやめられなくなって、読み終わった後に抑えられていた感情が湧き出てきてそれに満たされる・・といった具合でした。

ここ数年、毎月のように新刊が出ていて、たいていは新書で、時評や生き方指南が多かった印象ですが、その中でよく、「幼稚になった日本人」を憂いていたように思います。
たとえば、こんな文章。

~「幼児性がある」というのは、別に悪いことではない。誰の中にもそれはある。それを弾圧してしまうと、人間は錆びついてしまう。でも、幼児性は誰の中にもあるもので、成長した人間は、自分の幼児性を守るために、そして暴走させないために、幼児性を覆うカバーを持っている。そう進むのが「成長の方向性」というもので、日本人はそれをいつのまにかなくしたらしい。
「大人にならなくていい。大人にならずにいれば、消費経済を支えるいい消費者になれる」でいいんだろうか?

*『思いつきで世界は進む』(ちくま新書、2018、引用は2017年に書かれたもの)

自分の中にある幼児性をコントロールできることが大人の証。白髪染めをやめて三か月、「コントロール・・」と浅川マキばりにつぶやいて、いよいよ私も、赤ん坊に叩かれても蹴られても引っ張られても抵抗せず、困ったようにひれ伏する、あの動画の犬たちのようになろうと思います。

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茶屋ひろし

茶屋ひろし(ちゃや・ひろし)

書店員
75年、大阪生まれ。 京都の私大生をしていたころに、あたし小説書くんだわ、と思い立ち書き続けるがその生活は鳴かず飛ばず。 環境を変えなきゃ、と水商売の世界に飛び込んだら思いのほか楽しくて酒びたりの生活を送ってしまう。このままじゃスナックのママになってしまう、と上京を決意。 とりあえず何か書きたい、と思っているところで、こちらに書かせていただく機会をいただきました。 新宿二丁目で働いていて思うことを、「性」に関わりながら徒然に書いていた本コラムは、2012年から大阪の書店にうつりますますパワーアップして継続中!

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