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No Women No Music 第22夜 クルド音楽の新たなる調べ~オルジャイ・バイール/ニシュティマン

ほんま えつ2015.11.02

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去る9月6日、SEALDs主催の新宿伊勢丹前の歩行者天国で行われた安保法案反対集会で、私の目の前にトルコの海岸に息絶えて漂着したシリア難民の少年の写真を掲げて抗議する外国人がいた。後の情報で彼はクルドの人であったと知った。
クルドのこと、クルド人のこと、クルド問題のこと、クルディスタンのこと、それらに関して積極的に知りたい、知らなければと思い始めたのは恥ずかしながらほんの数年前のことである。

昨年の難民映画祭で上映された『イブラヒムとミツバチ』というドキュメンタリー映画を観たのがきっかけかも知れない。トルコ政府の軍と対立するクルド労働党PKKの衝突が激化する最中、息子が反政府運動に加わったことで、イブラヒムはトルコ東部のクルディスタン地域で暮らすことが出来なくなってしまう。
映画ではトルコを追われ家族と離れ離れになりスイスで難民申請をする初老のクルド人イブラヒムの哀しみが切なく映し出される。

中島由佳利さんの著書『新月の夜が明けるとき 北クルディスタンの人々』によると、クルド人は、国を持たない民族としては世界最大で、トルコ、イラク、イラン、シリア、アルメニアの国境沿いの山岳地帯に居住し、独自の言語と文化を持っている、アラブ人でもトルコ人でもペルシャ人でもない、中東の先住民族であるという。
トルコでは十数年前まで政府によるクルド人への弾圧が行われ、トルコ国内でクルド語をしゃべってはいけない、クルドの民族音楽を聴くことも歌うことも禁じられていたという。

ちょっと前にサンビーニャから発売された二つのクルド関連のCDを紹介したい。
一枚はオルジャイ・バイールOlcay Bayirという女性歌手の『アナトリアの娘』Neva/Harmony。トルコの吟遊詩人であったというクルド人の父を持ち、トルコの東に位置するアナトリアの民謡をはじめ、クルド、アラブ、アルメリア、バルカン周辺の東欧地域の音楽を幅広く歌う。
収められた曲のなかで‘MIN BIRIYA TE KIRIYE’という歌は、アイヌールというクルド人女性歌手が2004年にリリースした『クルドの娘』というアルバムでも歌われているので、クルド系の人たちの間では有名な曲なのだろう。残念ながら対訳がなくどのような内容かはわからないが、一度きいたら忘れられない抑揚のある哀歌だ。
オルジャイ・バイール、アイヌール、どちらのボーカルにも堰を切ったかのような情熱を深く感じる。先記の中島さんの著書には、クルド音楽は哀愁のあるメロディをサズという中東の弦楽器で弾き語るものが歌い継がれているようだが、オルジャイ・バイールの音楽は、その伝統的な部分を大切に伝承しながらも、多国籍からなるバックミュージシャンの洗練された美しい演奏で、時を癒す。彼女は現在イギリスを拠点に活動しているという。

もうひとつはニシュティマンNishtimanというグループの『クルディスタン』というアルバム。
トルコ、イラク、イラン、シリア、国境で分断されたクルド人たちの居住する土地‘クルディスタン’。地域ごとに異なるクルド音楽を、各国出身のミュージシャンたちが持ち寄りまとめあげたのがこの『クルディスタン』だ。
オルジャン・バイールのアルバムでも歌われている情熱的なクルド音楽もあれば、静謐ななかに厳かに奏でられる弦楽器の調べ、思わず手拍子で踊りだしたくなるリズム感たっぷりな民謡まで、バラエティに富んだ豊穣な音楽世界が展開する。そしてなによりもかっこいい現代性に満ちているのだ。
それぞれの国でクルド人であるということに誇りを持ちながら、未来を切り開いていこうとする気概が、各楽器や歌の演奏から湧き出ている。クルド音楽ならではといった哀愁を携えながらも、閉塞感から突き抜けていくような解放を感じるのだ。

トルコのエルドアン大統領は一時、クルド人組織との融和を進めたが、この6月の総選挙でクルド人政党が踊進すると、強権的姿勢を強化させているという。10月に入って首都アンカラではクルド関連の集会で、テロとみられる爆発事件が起きた。つい数日前には原宿のトルコ大使館前で、総選挙の在外投票時、クルド系トルコ人とトルコ人との間で対立し乱闘事件が起きた。
現在の中東でのクルド人の立場はいろいろな勢力が複雑に絡み合い混迷し詳細な情報をつかむのが簡単ではないが目を離さずにいたい。


「オルジャイ・バイール」




「ニシュティマン」



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ほんま えつ(ほんま・えつ)

音楽、映画、本をこよなく愛して生きる趣味人女。
小学5年生のとき同級生の友達宅で聴かせてもらった「クィーン」に感動。
以後、洋楽を貪り始める。初めて買ったLPレコードは「アバ」のベスト盤。
いまではこれぞと思った音楽はジャンルを超えてなんでもござれの雑食派。
本連載、約10年ぶりのカムバックです。

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