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ミソジニー判決に怒りの声。フラワーデモから始まる#WithYou #MeToo

北原みのり2019.04.13

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【411 @行幸通り】

「福岡地裁久留米支部は事件当時、女性がテキーラなどを数回一気飲みさせられ、嘔吐しても眠り込んでおり、抵抗できない状態だったことを認定。しかし、女性が許容していると被告側が誤信してしまう状況にあったと判断。無罪を言い渡した(毎日新聞)」2019.3.12

福岡久留米支部の判決からちょうど一月後の4月11日。今週の木曜日。
春の寒い夜だったけれど、#MeTooによりそう#WithYouの声をあげた。花をもって、東京駅から皇居までずどんと突き抜ける広い行幸通りに400人が立った(メディアの人が数えてくれてた)。一輪の花を胸に抱えている人、花束を手にする人、花柄のワンピースをきてきた人、コサージュをつくってきた人、母の花柄のセーターを着てきた人・・・闘志と希望を花に込めて、私たちは集まった。

この一月、辛い思いをしていた人はたくさんいると思った。私もうろたえ続けた一人だった。
集まりたいね、と、友人たちと話したのは3月の終わりかけの日。裁判の判決もそうだけど、うろたえる声を冷笑する法律のプロの声が大きくなっていることにも、私たちは動揺していた。「判決を感情的に批判するな」「判決文読んでから批判するべき」といった声も、ミソジニー判決同様に冷酷だった。


当日、30分前に着くと、既にそれらしき人が何人かいた。一人の女性に声をかけると、今日のために岡山から来たと話してくれた。

「自分に受けたことは性暴力じゃないと思っていた。でも、あれは性暴力だった。怒っていいんだって思った。今の今、この瞬間も恐怖を感じている被害者の方のために何が出来るんだろうって思って、いてもたってもいられなくて・・・」

話ながら彼女は泣いて、私ももらい泣き。私はずっと泣きたかったのかもしれないと思った。一緒に泣ける友人に会いたくてこの場に来たのかもしれない。彼女の話を聞きながらそんなことを考えていたら、気がつくとあっという間に人の輪がどんどんどんどん膨らみはじめていた。フラワーデモ、始まった。想像していなかった勢いで、たくさんの女性たちと共に、始まった。

石原燃さん 雨宮処凜さん 深沢潮さん 田房永子さん 小川たまかさん 山本和奈さん 福田和子さん 後藤稚菜さん 杉田ぱんさん 林美子さん・・・予定していたスピーカーの話は近日中にネットラジオで公開するのでぜひ聞いてほしい。最初、何人集まるのか全くわからないなかで、とにかく一時間はそこにいて話そうと、みんなで決めていた。でも、全員が話し終えて一時間経っても、とてもじゃないけれど終わりにはできなかった。「私も話したい」「急に話したくなった」そんな風に次々に女性たちが声をあげはじめたのだ。

 

「いまやってるバイトの店長のセクハラの言葉があまりにひどい。私は子どもの頃に強制猥褻の被害にあいました。20才のときに、その記憶がよみがえり、PTSDの症状で学校に行けなくなりました。もう10年以上経ちましたが、今、非正規でバイトして、ぎりぎりで生活して、それでやっているバイトでセクハラ・・・。ふざけんじゃない! どうして私たち被害者が社会を転々としなければいけないんですか」

「みなさん、こんばんは。急にしゃべりたくなっちゃったんで。高校時代、制服のある学校でした。制服すごくいやで、ちょっとでも可愛くしようと思って、スカート丈詰めたり、派手なタイツをはいたり・・・そうすると痴漢にはあわないんですが、生徒指導の先生から、なんだその格好は、痴漢にあうぞ、と怒られた。意味わかんねーよと思った。痴漢にあっているのって、スカート長くて、おとなしそうで、反撃しそうにない子じゃないですか? スカート短くしても、長くしても、女は許されないんですか? 私は好きな服を着られる社会に生きたい」

「イベントで痴漢にあいました。男の友だちに言ったらジョークだと受けとられ笑われた。誰も真剣に受けとらなかった。殴られた方がましだったのかと思いました。もし私が胸を触られたのではなく、殴られたのなら、もっとみんな真剣に守って、考えてくれたのかもしれない」

私の痛み、私の物語は、次の物語を呼ぶ。私たちの記憶の蓋をあけていく。この社会には、事件にすることもできず、例え声をあげても起訴もされず、なかったことにされてきた性暴力の物語が溢れている。私たちは、それを知っている。だから全ての声は#MeTooで、そして#WithYouなのだ。

夜の色が深まってきた9時、司会のエトセトラブックスの松尾さんが「あと二人」と締め切って言った。そうじゃなければ永遠に続く語りになったはずだ。だって、こんな痛み、一晩じゃ、話しきれないでしょう? 400人分の思い、語り終えられないでしょう?

「ここから続けましょう、ここからはじめましょう。日本の#MeTooはじまらないって言説あったけど、もう始まってるじゃないですか!? そうですよね?」

松尾さんが明るく呼びかける。わー、そうだよー、はじめよー、社会かえよー!!! 私たちは花を振りプラカを振った。やさしく希望のある闘いをはじめようって笑いながら決めたのだ。

 

【司法のミソジニーはあるから】

帰宅後、ツイッターをみていたら、声をあげる被害者や女性たちのうろたえを冷笑してきた弁護士の方々が、「感情的な処罰感情がえん罪をうむ」みたいなことをもっともらしく言っているのが目に入った。
性暴力の問題は性暴力の問題、えん罪の問題はえん罪の問題で、きっちり分けて司法が解決すればいい話だし、だいたい今回私たちが声をあげているのは、罪なき者に罪を着せるような事件ではないんだけどね。心の中で吐き捨てるように叫び、私は自分の中の怒りを確認した。

ねぇ、じゃぁ、弁護士さん、教えてよ。

いったいどのくらい抵抗すれば、どのくらい意識を失えば、合意がないと認めてもらえるの? ああ、こんなこと言ったら、本当に「教えてきそう」で怖いんだけど、誤解しないで、そんなことを本気で問いたいわけじゃない。
そこに裁判官の性差別的主観はないのか。刑法に問題はないのか。そんなことを私たちは一貫して話している。
そして、とんでもなく恐ろしいことに、こんな議論、別に私たちが2019年3月12日に急に始めたわけじゃない。もう何十年も前からずっとずっとずっと議論されてきたことなのだ。それなのに、法律のプロが法律の議論の枠組みから一歩も出ようとしないで、まるで新しく生まれた愚か者を笑うかのように私たちを笑う。ものを知らないのは、いったいどちらだ。

 

【同じものをみていても、違う世界が描かれること。司法のミソジニーがみえるとき】

3月12日、福岡地裁久留米支部の判決が出た日。「判決文を読んでから批判しろ」という声が、やはり弁護士中心にネットに広がっていた。数日後、私はつてをたどって判決文を読む機会を得た。そこには女性がどのようにその店に行き、どのような空気の中で泥酔し、どのような状況で性暴力を受けたのかが、実況中継のように記されていた。

詳細は記さないが、その場で「遊び」が行われていたのだということが分かった。泣き叫び恐怖が支配するなかで強姦が起きるのではない。時に笑いながら、談笑しながら、お遊びの空気の中で、それは起きる。不思議だったのは、男性が行為に及ぶ時、女性は既に下着をはいていなかったことだった。判決文は女性がいつ下着を脱いだ(脱がされたのか)全く触れていない。男性が脱がしたとは書かれていない。誰かが脱がした可能性もある。判決を読む限り、証明できない「空白の時間」があるのだ。裁判に詳しい友人は「警察が証拠を出せなかったからでは」と推測したが、そうであれば警察の捜査に問題があったことになる。
またこの日、店には男と初対面の人もいた。裁判所は初対面の人間が複数いて「通報される危険がある中」「抵抗できない状態であるなどといった認識の下」で女性と性交するのは「にわかに考え難い」と記している。だけど、その状況、女性側からすれば、「たくさんの人がいるのに誰も助けてくれなかった」という地獄だ。

ここが法律論では問えない「ジェンダー視線」なのだろう。
同じ事実でも、「女をモノ扱いすることが当たり前の空気で、通報される危険など絶対にないという安心があるからこそ、合意のない性交を心おきなくした」という考え方だって成立する。そのようなこと全く想像しなくて良い人生を送ってきた法曹界のジェンダーバイアスが、ミソジニー推測によるミソジニー判断を絶対に導かないとは「にわかに考え難い」じゃないか。

彼女が受けたのは性暴力だった。
女性は、性暴力を受けた翌日、アフターピルを求めて病院に行っている。サークルのラインから脱退している。客観的証拠からも、彼女が抵抗できない状況で性交したことは裁判所も認めている。だけど、男がそれを理解していなかったのだから故意ではない、だから法律では裁けない。そう結論づけたのだ。・・・批判してはいけませんか? この判決を。こんな刑法、こんな法律論を変えたい。こんな裁判官の意識を変えてほしい。そんな声をあげた人を「刑法知らないの?」と笑うのではなく、弁護士であれば一緒に考えていってほしいのだ。法のプロとして。

 

 

性暴力問題を取材している小川たまかさんが昨日、こんな話をしてくれた

「『故意が認められなかったら今の刑法では無罪になるんですよ』と弁護士が冷静な顔でいう。それがおかしい、ということを私たちは言っています。故意がなくても、もし人を殺したら過失致死になる。でもレイプは故意がなかったら無罪。なぜ過失強姦の罪はないのか。ツイッター上で弁護士さんたちが感情的になるなと言う。そういう頭のいい弁護士さんたちが観たことのない世界を知ってほしい。刑法やその運用に疑問をもっておかしいことはおかしいといっていきましょう」

#なんでないのプロジェクトを立ち上げた福田和子さんはこんな話をしてくれた。

「(男女平等がすすんでいる)スウェーデンでさえも、同意なき性行為が全てレイプとなったのはたった去年のことでした。社会を動かしてきたのは、未来を変えたいと思う一人一人の思い、力、行動でしかなかった。性暴力の加害者なんかに、私たちの全てを奪えない証です。私たちの人生を奪われてはたまりません。これ以上、私たちの大切な時間、能力、未来を邪魔させてはいけません。被害者を守る法律、なんでないの?」

 

【#MeToo始まっていた。この国でも。そしてこの声は、もう声を消されたくない。

私は日本で#MeToo運動ははじまらないと思っていた。

だけど、もう始まっていたのだと知った。400人が寒空に二時間、ほとんど動かず、泣きながら、笑いながら、花をもって、立ったのだ。

そして、面白いくらいにこのことは、メディアは報じない。東京医大のように点数で見えるわかりやすい性差別にはメディアも報じるけれど、性犯罪裁判の結果にうろたえた女たちの声はニュースにならない。例え東京の真ん中で声をあげても、私たちの周りは、とても静かだ。

だけど、なかったことにはしないようにしたい。なかったことにされてきた声の歴史を、もう二度と繰り返さないようにしたい。#WithYouは11日の夜、トレンド入りしたときいた。確実に動いているのだと、私たちは知っている。

さて。以下、411フラワーデモまでの記録(メディアが報じないので自分で時系列つくった)

2019.3.12 福岡地裁 準強姦罪で問われた男性が無罪。女性が抵抗できなかっことを認めながらも、男性が女性が合意していたと勘違いしていたとし、無罪。

3.20 静岡地裁 強制性交致傷の罪に問われた男性が無罪。女性は暴力を振るわれ反抗が困難だったと裁判所は認めながらも、「被告からみて明らかにそれと分かる形での抵抗はなかった」とし、無罪。

3.28 静岡地裁判決 当時12歳の長女を2年に亘り週3の頻度で強姦していた罪で問われた強姦した男に対し、少女の証言は信用できないと父親を無罪。家から押収された児童買春・児童ポルノ禁止法違反の罪で、罰金10万円を課す。

4.4 娘が中学2年生から性虐待をしていた父親が無罪。裁判所は、娘への性虐待を認めながらも、罪に問われた2年前の事件について、自分から服を脱いだ、父親の車にのってホテルに行ったことを理由に、「抵抗しようと思えばできた」と無罪。

4.11 itisrape_japan のフラワーデモ、東京駅前行幸通りに400人の女性たちが集まり、司法のジェンダー観に疑問の声をあげ、ミソジニー判決に怒りの声をあげた。ここから本気で始めよう。日本社会の#MeToo #WithYou


※掲載しているプラカは#itisrape_japanのハッシュタグによせられたプラカです。

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北原みのり

北原みのり

ラブピースクラブ代表
1996年、日本で初めてフェミニストが経営する女性向けのプレジャートイショップ「ラブピースクラブ」を始める。2021年シスターフッド出版社アジュマブックス設立。
著書に「はちみつバイブレーション」(河出書房新社1998年)・「男はときどきいればいい」(祥伝社1999年)・「フェミの嫌われ方」(新水社)・「メロスのようには走らない」(KKベストセラーズ)・「アンアンのセックスできれいになれた?」(朝日新聞出版)・「毒婦」(朝日新聞出版)・佐藤優氏との対談「性と国家」(河出書房新社)・香山リカ氏との対談「フェミニストとオタクはなぜ相性が悪いのか」(イーストプレス社)など。

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