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おかんとコピ Vol.1 煙草とじゃが芋

李信恵2019.07.05

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3月31日の夜更け、煙草を吸おうと玄関を出て、猫の額ほどの庭とは呼べないスペースに置いてある椅子に腰を掛けた。何度か禁煙を繰り返し、今はまた喫煙者に戻ったのだが、壁や家具がヤニで黄色くなるので家の中では煙草は吸わない。家族の中では煙草を吸うのは自分一人ということもあって、いつも煙草を一服するときは玄関先に行く。ちなみに吸っているのはピースライトだ。どうでもいい情報だ。

くわえていた煙草に火をつけ、ひと息吸い込んでしばらくぼーっとしていたら、どこからともなく子猫の泣き声がした。「春なので、どこかの野良猫がまた子猫を産んだんだろう」と思い、特に気にもしなかった。いつものことだと思ったからだ。しかし、子猫の声がすごく大きい。ひたすらみゃーみゃー鳴いている。「どこで泣いているんだろう、近くの畑の農機具を置いている小屋かな?」と思って辺りを見回してみると、自宅からすぐそばにあるごみ収集場所になっている一角に、段ボール箱がぽつんと置いてあるのが目に付いた。

その日は日曜日で、燃えるゴミの日は月曜日と木曜日だ。マナーの悪い奴がいるよな、と思いながら、それでもその段ボール箱がすごく気になった。そして、煙草を吸い終えると何の気なしにその段ボール箱に近づいた。見ると、段ボール箱には「北海道産じゃが芋」という表示があった。誰かがお取り寄せでもしたのかな。小ぶりの箱で、きっとちょっといいじゃが芋が入っていたのだろう。男爵だったのかメークインだったのかまでは見てなかった。きたあかりだったかもしれない。

けれど、その段ボール箱にはガムテープが張ってあり、封をした状態だった。ごみに出すのに改めて封がしてあるのってなんかおかしくない?そう思ってそのガムテープをはがしてみた。すると、中にはじゃが芋ではなく黒い塊が入っていた。その塊は、震えながら「みゃー!」と鳴いた。声の主はお前だったのか。もしも誰も気が付かなかったらこいつは、そのままごみとして収集車に回収されてしまっていただろう。そして、私は段ボール箱を開けてしまった。そのままにして朝になれば、まだまだ小さいのでごみを荒らすカラスの餌になってしまうかも知れない。ひとまず抱きかかえて、家の中に連れて入った。

明るいところで見ると、目やにだらけで目は開いていない。そう云えば家族は私以外猫のアレルギーがあったはずだ。けれど、ほおっておけない。眠りに付きかけた家族を起こし、状況をざっと説明して、ひとまず保護することにしたとだけ伝えた。家族はねぼけていたので、「ああそう」とだけ云った。その後、洗面所に連れて行ってガーゼをぬるま湯に浸して絞り、目の周りと体をざっと拭いた。みゃーみゃー鳴いていたそいつは、拭き終わって部屋に連れてはいると、私の体をよじ登り、肩にとまった。おまえは鳥か。猫に牛乳は駄目と聞いたことがあったので、ぬるま湯を新しいガーゼに含ませて少しだけ飲ませた。

明日の朝になったら、動物病院にとりあえず連れて行こう、その後にどうしようか考えよう。そして里親とか探そう。机に向かい、パソコンで「子猫」「捨て猫」と検索してみた。やっぱりまず病院だな。膝の上にブランケットに子猫を包んではいたけど、なんとなく寒そうなので、着ていたパーカーの中に入れた。子猫は、その中であっさり寝た。程よい肉がついたお腹で良かったような。Facebookで子猫を保護したと書き込むと、友人たちからさまざまなアドバイスをもらった。「ペットボトルにお湯を入れ、タオルで巻いて湯たんぽにして。体温が下がらないように温めてあげて」とか、いろいろ。本当にありがたかった。その時点では、飼うつもりは全く無かった。情が移るといけないと思ったので、名前もしばらく付けなかった。その子猫は、今もまだ家にいる。パソコンで原稿を書いていると、必ず邪魔をする。1日の大半を一緒に過ごす。ある春の夜、段ボール箱を開けた時から。私の新しい世界が始まった。

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李信恵(り・しね)

1971年生まれ。大阪府東大阪市出身の在日2.5世。フリーライター。
「2014年やよりジャーナリスト賞」受賞。
2015年1月、影書房から初の著作「#鶴橋安寧 アンチ・ヘイト・クロニクル」発刊。 

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