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チカン上司の肩持つ誤答は罪深い

牧野雅子2019.07.30

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今回も、ちょっと古い話をしたい。

ジェンダーや差別の問題で、今のほうが昔よりも悪くなっていると聞くことがしばしばある。今のほうがひどい、以前はこんなことはなかったとかね。いや、そんなことはない、とわたしは思っている。

SNSもスマホもインターネットもなかった時代には、当たり前だけど、ツイッターでデマが拡散されることはなかった。

けれどそれは、前からあったものが形を変えて現れたものかもしれない。以前には指し示す言葉がなかった「セクハラ」や「性暴力」のように、概念や言葉が生まれたことで、当事者のつらさや痛みが言語化されて、社会の問題として共有されるようになったものも多い。

前はこんなにひどかった、というのは、今は昔に比べたらたいしたことがない、だから、ガマンしなさい、ということではない。ましてや、最近の若い人たちはうんぬんかんぬん……ということではまったくない。

社会が変わる、その背景には、それを問題だと思い、行動し、変えてきた人たちがいるということ。その人たちのことを、わたしはずっと覚えていたい。

当たり前に享受している日常のあれやこれやが、はじめからあったものではないということを知ると、関わった人たちへの感謝とともに、今直面している問題も自分たちの手で変えていくことができる、変えていかねばという思いが湧きあがる。

今回紹介したいのは、「SAY」という女性誌の1989年7月号。読者からの相談に専門家が回答する「ピンチの時の会話術」というコーナーに、「電車でチカンの手をつかんだらなんと! 同じ会社の部長だった」というケースが取り上げられていた(243頁)。相談者は21才OLの真由美さん。


気がつくと、誰かの手がお尻に! 気の強い真由美さん、とっさにチカンの腕をつかんで、「やめてよ!」とどなりつけたのです。

ところがそのチカン、同じ会社の部長だったなんて――。

 

うっわー、その部長、最低だ。チカンは犯罪、警察に突き出して! と、真由美さんを応援しつつ、続きを読むと……。

 

懸命に言い訳をする真由美さんですが、部長はもうカンカン。さあ、大ピンチ!


え?
言いわけをするのは、被害者の真由美さんなの?
加害者じゃなくて?
チカンした部長がなぜカンカン?
大ピンチは部長のほうだよね?
あれ、違うの?
えええ?
なんで被害者の真由美さんがピンチなの?

念のために言っておくと、部長がチカンをしたのは間違いなく、チカンに間違われたから部長が怒っているというわけではないのだ。

チカンをしておきながら、それを指摘されたら怒るって、どういうこと? 

しかし! ひどいのは、この先にまだあったのだ。回答者は、こう、アドバイスする。


どなりつけたい気持はよくわかりますが、そのチカンが同じ会社の部長だったなら、話は別。ここで恨まれてしまっては、今後の仕事に確実に差しつかえます。

絶対に部長を”犯人”扱いしてはいけません。

あくまで自分のせいにして、部長に”非”がないことを強調。

それ以後の態度にも細心の注意を (中略) 電車の中で再び顔を合わせたら、部長は気まずいはず。電車の時間帯をずらしたり、見かけたら車両を移るなどなるべく顔を合わせないよう配慮すべきです。

被害者は、加害者が気まずい思いをしないように、配慮して差し上げないといけない、という回答なのだ。こりゃもう、びっくりだ。

OLたるもの、チカンごときで被害者面せず、チカンがバレた男性上司の立場を守ってやらなくてどうする、とでもいうような。

加えて、会社に知られたくない部長の立場を理解してあげたら、いずれ味方になってくれるかもしれない、「ピンチ」をうまく利用して、部長にいいイメージを植えつけておくように、という処世術まで。

この記事が掲載された1989年といえば、セクハラが流行語になった年だ。女性誌に掲載されたこの回答自体が、当時の働く女性たちが置かれていた状況を如実に物語る。

性被害が人権侵害だとはみなされず、チカン被害にあったというのに誰も心配してはくれず、アドバイスされることといえば、職場の男性の顔色をうかがって生きよ、というものなのだから。

女性たちはそうやって、男性上司のセクハラに耐えてきたということが、この誌面からもうかがえる。

こんなアドバイスが女性誌でされるくらいだもの、会社でセクハラ被害にあっても、声を上げることなどできず、だから、セクハラという言葉や、セクハラ裁判報道が、当時の女性にとってどれほど救いになったか、とてもよくわかる。

それにしても、チカンしておきながら、チカンだと指摘されたらカンカンに怒るという部長なのに、被害者が部長の立場が悪くならないよう配慮してあげたらいずれ味方になってくれるかも、という甘々な希望を描けるのはスゴイですね。

被害の告発をしない人だと見くびって、今後も上下関係を利用していいように扱うのでは、とわたしなどは思うのだけど。回答者は、こういう処世術で、これまで乗り切ってこられたのだろうか。見ると、この記事の監修者は行動心理評論家の山谷えり子とある。この名前、見覚えあるような……。

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牧野雅子(まきの・まさこ)

龍谷大学犯罪学研究センター
『刑事司法とジェンダー』の著者。若い頃に警察官だったという消せない過去もある。
週に1度は粉もんデー、醤油は薄口、うどんをおかずにご飯食べるって普通やん、という食に関していえば絵に描いたような関西人。でも、エスカレーターは左に立ちます。 

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