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世界に広がる「少女像」。「少女像」が私に見せたもの。

北原みのり2019.08.12

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【世界に広がる少女像】

7月11日名古屋でのフラワーデモの時に津田大介さんが参加し、「少女像を出展しますよ」と話してくれた。炎上避けるために直前までは公表しないので黙っていてね、ということだった。

率直に期待した。「慰安婦」問題を深く知りたいという若い世代も増えている。ジェンダー平等を掲げる国際的な美術の場での「少女像」展示は、「少女像」が日本社会で「消されてきた」過程を問うことになるだろう。炎上といったって、さすがに国際的な視線の中、限度というものがあるはずだ。
私は日本の狂気を甘く見積もっていたのかもしれない。

「少女像」が日本大使館前に建てられたのは2011年。あれから8年が経つ。最初の「少女像」から、これまで世界の都市で様々な少女像が建てられ続けている。今回の“騒動”は、世界での「少女像」設置に拍車をかけることになるだろう。

私は何年も前から、こんな夢想をするようになっている。多分1万年くらい後。人類が今とは違うものになっているころ、地球上のあちこちに、不思議な髪型の小さな人間が拳をぎゅっと握る像が発見される。いったいこれは何? 「猿の惑星」の砂浜に倒れた自由の女神のように、世界中の海辺にころがる少女像。誰がいつ何の目的でこんなにもたくさんあちこちに? そんな歴史研究がなされる時がきっとくるよね。私たちの命が消えたあともきっと残るブロンズの「少女像」。彼女たちが、性暴力に声をあげた女性たちの声を残し続けるのだ。

 

【「少女像」を発注した人は誰か】

「少女像」は、2011年12月にソウルの日本大使館前に設置された。制作したのはキム・ソギョンとキム・ウンソンという夫妻だが、発注主は韓国の「慰安婦」問題に関わってきた支援団体だ。1992年1月以来、毎週一度、日本大使館前で声をあげてきた。その1000回を記念する碑として「少女像」は発注された。

支援団体はアーティストには具体的な依頼をしなかったという。死者の魂を表象する蝶でもよかったかもしれない。文字の刻まれたシンプルな碑でもよかったかもしれない。少なくとも「少女」をつくって、という具体的な発注はなかった。運動の歴史を学んだアーティスト夫妻の創造性によって「生まれた」のが、民族衣装を着てしっかりと手を握りしめる女の子の像だった。

「少女像」が日本大使館の前に建てられたことを批判する声もある。それでも、そこにつくる以外の道はなかった。なぜなら、そこが彼女たちの闘いの場だから。女性たちの声の力が現実を変えてきた、その歴史的な意味を、そこにこそ記憶する必要があったから。
これは日本の運動ではなかなか考えられないことだと思う。だって、公道よ? 韓国の女たち、なんて自由で偉大。

【00年代、日本のバックラッシュと「慰安婦」運動】

1991年8月14日(もうすぐその日です)に金学順さんが声をあげた。#MeTooの原点だ。その後、世界中で「私も慰安婦だった」という声が次々にあがり、それまで「戦地の男たちのロマンと癒し」だった「慰安婦」が、「あれは性暴力だった」と過去を変える力をもったのだ。
当事者が声をあげたからには日本社会は変わらねばならない。変わるはず。
当然、女性たちはそう考えた。こんなにも長い運動になるなんて、誰が想像したことだろう。
でも結論を言えば、そしてご存知のように、日本社会は変われなかった。そして、今も「慰安婦」問題は日本社会の闇と狂気を浮かび上がらせる「問題」であり続けている。

2000年に東京で開催された「女性国際戦犯法廷」を覚えている人は少ないかもしれない。朝日新聞の記者であった松井やよりさん等、日本の女性たちが提唱し、戦時中の性暴力を裁くために開廷された民衆法廷だが、「天皇有罪」の判決を出したこの法廷をマスコミは徹底的に無視した。法廷の様子を記録したNHKのドキュメンタリーは放送前に安倍晋三と中川昭一の圧力によって内容を大幅に変更し、女性たちの声を、判決を「なかったこと」にした。

声をあげても変わらない。天皇有罪判決を自分たちの力で導きだした民衆法廷ですら日本社会を変えることにはならなかった。それどころか00年代の日本は加速して右傾化が深まり、表だって「慰安婦は嘘つき」というような声も大きくなっていった。その日本社会の空気は、運動の方向性そのものを見失うような絶望だったはずだ。

00年代の韓国の「慰安婦」運動はどのようなものだったか、運動を率いてきた尹美香さんに伺ったことがある。
女性国際戦犯法廷の後、支援団体は改めて「慰安婦」の女性たちの声を聞く活動をはじめたという。

尹美香さんたちは女性たちのもとに通った。様々な土地に暮らす女性たちの元を訪れ、その言葉に向き合い記録し、地域の中で孤立する女性たちと地域をつなげ、行政のサポートが彼女たちに届くように働きかけ、若者世代と女性たちをつなぎ、性暴力問題に声をあげる女性たちへの社会の眼差しを変える運動を展開してきた。
また「慰安婦」問題をさらに国際的に広げることにも尽力した。紛争下の性暴力被害にあったコンゴの女性への支援や、ベトナム戦争時に韓国軍が行ったベトナム女性への性暴力を可視化し韓国政府に抗議し、今も続く世界中の性暴力問題と戦ってきた。
それは、支援者はもちろん、「慰安婦」女性たち自身が「人権活動家」になっていく過程だった。

長い長い闘い。一歩一歩の地道な活動。その闘いの象徴が「少女像」だ。反日、などという薄っぺらい言葉では到底語れない、女性たちの痛みの声、闘いの声だ。


【フェミも右翼も少女像を嫌う日本】

そんな「少女像」を日本社会は完全に無視してきた。

歴史修正主義者の人だけが「少女像」を憎み、消そうとしていたわけではない。日本の一部の(だけど影響力のある)フェミニストたちも「少女像」を批判し、その価値を無視してきた。

少女像へのフェミ的批判をざっくりまとめるとこんな感じだ。

少女像は無垢な少女(処女)の象徴であり、”非の打ち所のない被害者”であることを性暴力被害者に求める言説に汲みすることになる。残酷な状況を生きぬき、時には兵士との恋愛も楽しんだ多様な「慰安婦」の物語を「少女像」は見えなくさせている。そのような像をつくる韓国の運動団体は「慰安婦」女性の多様性を認めないという問題がある。

ちなみに、そういうことが書かれたのが朴裕河さんの「帝国の慰安婦」という本だ。
「帝国の慰安婦」は、少女像が日韓関係を悪化させているとし、「慰安婦」の声を聞かず運動のための運動を展開してきた運動団体を徹底的に批判している。
この本が日本のリベラルな言論人や上野千鶴子さん等フェミニストに高く評価されてきたことも、やはり残念なことだった。

韓国の支援団体を批判してはいけない、とは思わない。事実に基づく根拠があるのならするべきだ。ただ、朝鮮半島の女性たちは、性病をもたない性交経験のない子どもが主に「慰安婦」にさせられている。少女像はむしろ現実に即した表象だ。さらに運動団体が「慰安婦」女性たちの多様性を認めていない、というのも何を根拠にしているのか分からない。私が取材でみてきたのは被害を受けた女性たちの「声」に、誠実に応えようとする女性たちの姿だった。少なくとも運動体を批判するフェミニストが、運動団体を取材した形跡を私は知らない。

「少女像」が「少女」でなければ、日本のフェミニストも、韓国の運動団体を上から批判することなく寄り添えたのだろうか。多様性や表現の自由や女性の主体を主張する人々が、なぜ、目の前であげられる痛みの声に無痛で、自身の理論や物語のために事実を無視できるのか。なぜ、フェミニストは「少女像」を嫌うのか。


【そして日韓合意と韓国のキャンドル革命】

「少女像」が韓国社会で大きな注目を浴びたのは、2015年の12月28日の「日韓合意」だ。
被害者の頭ごしに電話で交わされた一方的な合意には、もう過去を振り返らないというお約束と、少女像撤去が組み込まれていた。

日本社会(マスコミも、フェミや知識人の多くも)が歓迎ムード、または完黙でこの「合意」を受け入れたのに対し、韓国社会はこれに猛烈に反発した。象徴的なのは、日本政府が10億円を拠出して「和解と癒し財団」がつくられたことに対抗して、市民たちが「正義と記憶財団」を2016年6月9日に設立したことだ。つまり性暴力被害者が求めているのは、簡単な和解や、一方的な癒しではなく、正義と記憶だ、と日韓両政府に突きつけたのだ。

「正義と記憶財団」
初めてこの名前を聞いたとき、ドキドキした。「正義」という言葉は強く真っ直ぐ響く。日本語ではなかなか使いにくい言葉になっているかもしれない。それでもここ数年、私自身が性暴力問題に関わりながら強く実感するのは性暴力被害者にとって、正義とは命そものなのだということだった。被害者が求めるのは、自分の声が聞かれる「正義」であり、性暴力がなかったことにされない「正義」であり、性暴力が繰り返されないための対策、そのための「記憶」なのだ。

韓国は2017年、毎週土曜日に市民たちが光化門前に集まり民主主義の革命を成功させた。安倍首相と電話で中途半端な「合意」をした朴槿恵前大統領は牢屋に入った。
韓国の民主主義の根幹には、健全な怒りがある。正義と記憶を守ろうとする意思がある。それは、韓国の民主主義の根幹に、なかったことにされてきた声に耳を傾けようとするフェミニズムがあるからなのだと思う。

【これから】

渦中に置かれた者にしか見えない景色はあるだろう。それでも津田大介さんには、もう少し粘ってほしかったと思う。

NHKも、朝日新聞も、この問題で深い傷をおってきた。多くの人がこの問題で人生を中断させられた。それくらい、「慰安婦」問題は日本社会の肝なのだ。
最前線で戦って来た女性たちが人生を中断させられるような理不尽を味わいながら、慎重に、丁寧に、「慰安婦」女性の声に忠実に歩み続けてきた。もし「自分なら大丈夫、うまくやれる」と津田さんが思っていたのだとしたら、これまでの女性たちの闘い、傷をどのくらい関心を持ってみてきていたのかと疑問に思ってしまう。いくら国際的な場であっても、やる。そのくらいに「慰安婦」問題は、「少女像」は、日本の根幹を揺るがす問題なのだ。それは男性に、日本に変わることを求める強い声だから。

フラワーデモをやりながら、性暴力が日常のようにある社会であることを突きつけられている。いつだったかフラワーデモの後、友人がはき出すようにこう言っていたことがある。
「この国は、性差別が国策なんだね」
女を差別し、黙らせることで、保たれてきたニッポンなのかもしれない。だから「少女像」を前に、”彼ら”はまるで被害者面なのだ。

韓国で、日本で、世界で、この問題に長年関わってきている多くは女性だ。

その女性たちの声を批判し、嘲笑し、運動の象徴である「少女像」をむやみに批判し、日韓合意に完黙してきた日本の言論の空気の結果がここにきているのだとも思う。

課題は山積み。でも、黙らない。という結論しかないし、1万年後の世界中の海岸にごろごろ少女像が転がっているような。そういう社会の方向に私はいきたい。

【今年の8月14日】

さて! 今年の8月14日は、水曜日と重なります。さらに水曜デモ1400回という記念の日にあたるという。
私は東京の集会に出ようかそれとも・・・と迷いながら、やはり!とソウルの日本大使館前に行くことに決めました。また報告します。

東京では以下のようなイベントが行われます。この機会にぜひ、どのような闘いを女性たちが積みかさねてきたのか、学ぶ機会にしていただければーーー!! そしてデモにぜひぜひぜひ参加しましょう!(って私はいないのだけど・・・)


<拡散歓迎>

8.14日本軍「慰安婦」メモリアル・デー

水曜デモ1400回世界同時アクションin Tokyo

忘れない! 被害女性の勇気を

8月14日は、1991年に韓国の金学順さんが日本軍「慰安婦」被害者として初めて名乗り出た日です。彼女の勇気を振り絞った告発をきっかけに、半世紀近くもの間、沈黙を強いられてきた被害女性たちが次々と声を上げ始めました。その声は韓国内にとどまらず、朝鮮民主主義人民共和国、台湾、中国、フィリピン、インドネシア、東ティモール等アジア各地に拡がりました。私たちは、被害女性の勇気と闘いに敬意を表し、さらに「慰安婦」問題の解決に取り組む決意をあらたにするために、この日を日本軍「慰安婦」メモリアル・デーとし、毎年、日本全国、世界各地でシンポジウムや集会・デモなどを開催しています。

また、今年の8月14日は、日本政府に「慰安婦」問題の解決を求め、ソウルの日本大使館前で、1992年1月8日より行われてきた「水曜デモ」の1400回の記念日にもあたります。「水曜デモ」は被害女性たちが運動の最前線に立ち、活動家に変わっていったことの象徴であると同時に、1400回という数字は、被害女性たちの勇気ある告発から30年近くが経とうとしているにもかかわらず、日本政府が被害者の求める真実・正義の解決を果たしてこなかった象徴でもあります。 

今一度、この記念日に、水曜デモの軌跡を振り返り、若者たちと一緒に今後の展望を考える機会にしたいと思います。日比谷コンベンションホールでのイベント終了後に、銀座でのデモを予定しています。是非、ご参加ください。    

とき:2019年8月14日(水)開会14:00(開場13:30) 閉会16:30

場所:日比谷コンベンションホール

資料代:800円(学生無料)

プログラム

■水曜デモ1,400回の軌跡 

梁澄子(日本軍「慰安婦」問題解決全国行動共同代表)

■知らない、で済ませたくなかった~若者が語る「慰安婦」問題

※閉会後、17時より、デモを予定しています。

主催:戦時性暴力問題連絡協議会、日本軍「慰安婦」問題解決全国行動

http://www.restoringhonor1000.info/ 

Email:act.for.cw@gmail.com

 

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北原みのり

北原みのり

ラブピースクラブ代表
1996年、日本で初めてフェミニストが経営する女性向けのプレジャートイショップ「ラブピースクラブ」を始める。2021年シスターフッド出版社アジュマブックス設立。
著書に「はちみつバイブレーション」(河出書房新社1998年)・「男はときどきいればいい」(祥伝社1999年)・「フェミの嫌われ方」(新水社)・「メロスのようには走らない」(KKベストセラーズ)・「アンアンのセックスできれいになれた?」(朝日新聞出版)・「毒婦」(朝日新聞出版)・佐藤優氏との対談「性と国家」(河出書房新社)・香山リカ氏との対談「フェミニストとオタクはなぜ相性が悪いのか」(イーストプレス社)など。

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