ラブピースクラブはフェミニストが運営する日本初のラブグッズストアです。Since 1996

banner_2212biird

おかんとコピVol.5 18年生きた犬

李信恵2019.10.11

Loading...

保護してから10日も過ぎると、コピの目はさらにぱっちりと開いて、毛並みも艶が出てきた。3度目になる通院では体重が500グラムに成長していた。「目はまだ角膜が炎症してるので、視力が弱い子になるかも知れないけどずいぶん良くなっていますよ」と先生から聞いてひと安心。病院が狂犬病の予防接種の時期だということもあって、なんと2時間半待ちだったけど、ずっとお利口さんだった。

しかも先生が「ずいぶん待たせたし、体重を計っただけでたいしたことしてないから、今日は診察料はいりません。元気に成長していますね、良かったですね」だって…。申し訳ないやら、ありがたいやら。実家で幼稚園の時に飼ってた犬のコロ、小学生の時の猫のミイと犬のチャコもここのお世話に。3年前に亡くなった愛娘犬のキムチは18歳までここに通っていた。近くにこんな良心的な動物病院があってありがたい。

すくすく育つコピは真っ黒で、ふわふわで。耳の後ろと胸元の縮れた毛が、キムチに似ている。たまに間違えて「キムチ」って呼んじゃうこともある。キムチは、オモニ(母)の友人の木村さんが飼えなくなった子犬を譲り受けた。もともとは羊のようにフワフワの毛だったので「メリー」と名付けられていたが、「木村さんの家(うち)から来たので、キムチだ」と、改名した。一度聞いたら誰も忘れない、いい名前だったと思う。



キムチが来て1年後に小さいダーリンこと息子が生まれたが、その成長を見守るように一緒に大きくなった。小さいダーリンが小学校低学年の時には、朝の散歩とともに学校まで送っていった。近所のやんちゃな子が鼻の穴に指を突っ込んでも、けっして怒らない、賢くて温和な犬だった。

しかしその一方で、キムチは超焼きもち焼きだった。公園に散歩に行って、同じように散歩に来ている飼い主さんに頭をなぜられるとすごく喜ぶ。しかし、私がよその犬に近寄ろうとすると、「これは私のママ!」とばかりに威嚇する。おい。大きいダーリンは、「お前の性格と似ている」というけど、そうかな。でも、とても可愛かった。

キムチは、15年目の春に、突然血を吐いて倒れた。病院に連れていくと、知らぬ間にフィラリアにかかっていて、成虫が心臓にいるとのこと。それが暴れて、心臓などの機能不全に陥ったという。病院で一応点滴を打ったが、「年齢が年齢だけに手術も難しく、今夜が峠ですね」と言われた。予防もしたはずなのに、それでも徹底していなかったのかな、膝の上で下血もし、苦しそうなキムチを見ながら涙がこぼれた。「神様がいるのかいないのかわからないけど、もっといい飼い主になるからもう一回チャンスをください。このままキムチが死んだら、悲しすぎるし後悔が残る」そう願いながら、毎日、病院に点滴を打ちに通い、ひたすら看病をしていた。

一週間が過ぎて、キムチは奇跡の復活を遂げた。突然、立ち上がって自分で水を飲みに行きご飯を食べた。おい。成虫は心臓にいるものの、それが大人しくなったし、本人というかキムチの生命力が強かったこと、お医者さんの措置もよかったと、幸運が重なったようだ。神様はいた。

それから3年、神様との約束通りそれまで以上に丁寧に飼った。ごはんも高齢犬向けに、手作りした。けれど、18歳を迎えてから、キムチはどんどん歩けなくなった。歯槽膿漏も進んで、膿がたまってはくしゃみをしては、それが飛び散る。1か月もすると、寝ていることの方が多くなり、自力で排泄もできなくなった。なので、ごはんは口元まで運び、おむつを付け、一日一度はお風呂場でたまった便を指で掻き出すなど、介護状態が続いた。週に一度は点滴に通った。それが、3か月ほど続いた。お医者さんはカルテを見ながら、「本当なら18歳という高齢になっていて、今の状態ならいつ亡くなってもおかしくないんですけどね。本当に生命力が強い子だ」と云った。

ある日の夜、私の部屋で一緒にずっと寝ていたキムチが、いつも以上に息苦しそうだった。なので、「すごい頑張って生きてくれてありがとう。でも、ずっとしんどいね。しんどかったら、もう楽になってもいいよ。ゆっくり休んで」と声を掛けた。翌日の朝、キムチは大きな息を吐いた後、私の腕の中でだんだんと冷たくなった。お別れの時まで、精一杯生きてくれた。最後まで飼い主思いの、ほんとうに賢い犬だった。

キムチとお別れしてから、動物を飼うことは二度とないと思っていた。けれど、生きている限り「絶対」はないんだなと思う。キムチは超焼きもち焼きだったけど、コピが家に来たこと、しっかり世話して可愛がっていることをきっと喜んでくれているだろう。そう思っていたら、隣で眠っていたコピが起きた。「どうしたの?」という顔で私を見て、それからあくびをした。

Loading...
李信恵

李信恵(り・しね)

1971年生まれ。大阪府東大阪市出身の在日2.5世。フリーライター。
「2014年やよりジャーナリスト賞」受賞。
2015年1月、影書房から初の著作「#鶴橋安寧 アンチ・ヘイト・クロニクル」発刊。 

RANKING人気コラム

  • OLIVE
  • LOVE PIECE CLUB WOMENʼS SEX TOY STORE
  • femistation
  • bababoshi

Follow me!

  • Twitter
  • Facebook
  • instagram

TOPへ