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セクハラ告発に揺れるフランス映画界

中島さおり2019.11.26

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ハリウッドの大物プロデューサー、ハーヴェイ・ワインスタインに対するセクハラ告発に始まった♯MeToo運動から2年、フランスの映画界が揺さぶられている。

11月8日、ヴェネチア映画祭で銀獅子賞(審査員賞)を取ったロマン・ポランスキーの新作『J’accuse(英題An officer and a spy)』の公開直前、カメラマンのヴァランティーヌ・モニエが、18歳だった1975年にポランスキーに殴られた上、レイプされたと、大衆紙『パリジャン』紙上で明かした。
ポランスキーは1977年に13歳の少女への淫行容疑でカリフォルニア裁判所で訴追されているが、刑を言い渡される直前、ヨーロッパに逃亡して映画製作を続けて来た。
新たな告発に激震が走った。主役を演じたジャン・デュジャルダンは10日の日曜日、民放TF1の20時のニュースへの出演を取りやめ、エマニュエル・セニエもラジオ局France Interのインタビューをキャンセル、他の局も続々と、すでに収録した関係者のインタビューの放映を中止した。
映画は11月13日に公開されたが、フェミニスト団体の抗議行動で複数の試写会が中止になり、観客はボイコットを呼びかけられた。

映画界も対応を迫られた。ちょうどモニエの告発に数日先立つ11月4日、女優のアデル・エネルが、12~15歳のころ、監督のクリストフ・ルッジアに体を触られるなどのセクハラを受けたと、ニュースサイト「メディアパール」のライブ配信インタビューで告発し、反響を呼んでいた。フランス映画監督協会は即刻、ルッジアの除名処分を決定している。
11月18日、監督、プロデューサー、シナリオ作家200人を束ねる映画人協会ARP代表のピエール・ジョリヴェは、刑が確定したり訴追されたりしているメンバーに映画活動を停止させるという新しい規則を提案した。この規則が成立すれば、ポランスキーに適用されることになるだろう。

アメリカでは、オスカー・アカデミーからとうに追放されているポランスキーを、フランスはずっと保護してきた。フランスでは、人間としてモラルに反するかどうかは芸術家を判断する基準にはならないと、人間と芸術家を分ける考え方が一般的なのである。
ポランスキーを「映画人とプライベートを分けて考えるべき」と擁護しているカトリーヌ・ドヌーヴはそれを代表している。ドヌーヴが♯MeToo運動自体にも批判的で、「しつこく言いよる権利」を擁護する公開書簡に署名したことも知られている。この公開書簡の中では、セクハラの糾弾によって、作品が検閲にあったり、作者がキャリアを断たれたりすることへの懸念が表明されていた。

しかし芸術家と人間とを分ける考え方が映画界の性犯罪を見逃すアリバイになっているという指摘もある。モニエの告発をいち早く支持したアデル・エネルは、『J’accuse』が10月に、一般公開に先立ち、ラ・ローシュ・シュル・ヨンの映画フェスティバルで上映された際に、この映画の上映に際しては、レイプ文化についての議論をするべきだという発言をしていた。

フランスの映画界には浸透していなかった♯MeTooだが、沈潜して少しずつ精神文化を変えてきたようだ。前出のピエール・ジョリヴェは、「ポランスキーの最初の事件が起こってから40年、社会も変わった。犯罪は同じでも、世間がどう考えるかが劇的に変わっている」と述べた。

こうした議論にもかかわらず、映画の滑り出しは好調で、1週間で50万人を動員している。観客は、犯罪の判断は司法に任せて、自分たちは作品を楽しむ権利があると判断したようだが、♯Metoo運動以後のフランスの空気の変化が感じられる事件であった。

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中島さおり(なかじま・さおり)

エッセイスト・翻訳家
パリ第三大学比較文学科博士準備課程修了
パリ近郊在住 フランス人の夫と子ども二人
著書 『パリの女は産んでいる』(ポプラ社)『パリママの24時間』(集英社)『なぜフランスでは子どもが増えるのか』(講談社現代新書)
訳書 『ナタリー』ダヴィド・フェンキノス(早川書房)、『郊外少年マリク』マブルーク・ラシュディ(集英社)『私の欲しいものリスト』グレゴワール・ドラクール(早川書房)など
最近の趣味 ピアノ(子どものころ習ったピアノを三年前に再開。私立のコンセルヴァトワールで真面目にレッスンを受けている。)
PHOTO:Manabu Matsunaga

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