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新年あけましておめでとうございます。

本年もどうぞよろしくお願いいたします。

休日にテレビをつけたら、植松被告の初公判とイランの報復攻撃のニュース。殺人を煽る指導者たちを殺したい、と思うとこれは同じ穴の狢なのか……、殺す必要はない、辞めてもらえばいい、と念仏のように唱える「暗い日曜日」です。

さて、斉藤章佳という方が、ここのところ毎年のように本を出されていて、それによると、痴漢と万引きは依存症であり、小児性愛者による犯罪は認知の歪みによって引き起こされる、ということになっています。

どの本も、再犯防止のための犯罪者のカウンセリング治療にあたっておられる現場からの報告です。

年末に久しぶりに万引きを捕まえました。あとで警察から聞きましたが、犯人は56歳男性、高校教師。ウチで官能小説の文庫本を一冊盗ったあと、高速バスで某県へ帰宅するつもりだったそう。

それは夜の7時過ぎでした。

コートのポケットに文庫本を入れたところを見かけて、声をかけたら、その本を投げ捨て逃走。本を片手でつかみつられて追いかける私。彼は地上へ続くらせん階段を二段飛びで駆け上がっていきます。相手との距離は1・5メートルくらいでした。

あかん、もう無理かも、とあきらめかけたら、彼は地上に出たとたん段差を踏み外し転倒したので、覆いかぶさるようにして捕まえました。

その小さなリュックの上の持ち手を握りしめ、私は歩くように促しますが、「とってへん!」と叫びながら、逃げようともがきます。「とったわ、ぼけ」と息も切れ切れで答えながらなんとかもう一つのビルの入り口まで引っ張っていき、エレベーターで地下の店まで連れて行こうと思いました。

誰もいないエレベーターホールで、また逃げようと暴れだしたので、向こうに見える警備員のおじさんに気づいてもらおうと、リュックのベルトを掴みながらガラスをバンバン叩いてみましたが、気づいてくれません。そのまままた、もつれ合いながら通りに出てしまい、立ち止まった30代くらいのサラリーマンに「助けてもらえませんか」と声を掛けましたが、こちらをじっと見ているだけで何もしてくれません。

中年同士の体力の限界が来たのか、そのうち私たちはその場にへたりこんでしまいました。

するとそこへ、エレベーターホールに私が投げ捨てた文庫本に気づいた四人組が声をかけてくれました。黄色のセーターを着た明るい色使いの男性と、女性が三人、「どうしたんどうしたん」「万引きか」「よっしゃ。じゃあ、俺らがいてやる」「通報しようか」「したるわ」「おっさん、もう観念せえ」と次々に言ってくれて、私はようやくほっとしました。

「とりあえず、あの警備員のおじさんを呼んできてもらってもいいですか」とお姉さんの一人にお願いしたら「わかった」と言って、戻ってきたら「なんか、我々はそういうことに関与しません、って言われたで」と伝えてくれました。

なんやそれ、と驚いていたら、そのお姉さんが「お兄さん、下の本屋さんやろ、ちょっと店の子に状況を説明しに行ったげるわ」と駆け出してくれました。

私はもう喉がカラカラで、体力の限界を超えていました。外寒いし。

犯人のおっさんは「あつい、あつい」とうわ言のように言いながら、リュックのファスナーを開け始めました。あまりそちらを見てなかった私は、彼が文房具のはさみを取り出したところで気がつきました。

そのまま彼は、私がつかんでいたリュックのベルトを切りました。

「ちょっと!」と、私は片手ではさみを取り上げビルの壁に投げつけました。そしてリュックも放り投げます。

疲れて声の出ない私の代わりに、お姉さんたちが「コラなにすんねん、おっさん! あほか!」と怒鳴ってくれて、総がかりで取り押さえてくれました。おっさんは仰向けにされて、お兄さんは肩をおさえて、お姉さんの一人がその両足の上に乗っかってくれます。私も胸と太ももを押さえます。

そのお姉さんに、「お兄さん、ケガしたんちゃうか」と言われて、初めて親指の付け根が切れていることに気づきました。すると今度は鞄からティッシュをくれて……。

そこでようやく警察官が三人ほどやってきて、彼はお縄となりました。

助けてくれた四人組に何度もお礼を言いました。あなたたちがいなければ途方に暮れるばかりでした。まったく涙出る。

にしても、警備員!(あとで警備員ではなく管理人だと言われましたが)年明け早々にもビルのほうへ申し入れをしなければ。

万引き犯のおっさんも、助けてくれた人たちも、見て見ぬふりをした管理人もみな、4、50代。それぞれ交わらない世界だわー、と変に感心もしました。

万引きのおじさんは、捕まえられた瞬間に、今まで見ていた景色が一変したんだろうな。

密かな楽しみが、一瞬にして社会的立場を破壊する行為に変わってしまったのだと思われます。万引きが見つかったときの犯人はだいたい似たような表情になります。認知の歪みが強制的に正される瞬間。

そういえば前に、帰宅途中の横断歩道で、向こうから一人で歩いてきた3歳くらいの男の子を保護したことがあります。そこのコンビニから出てきたのかと思い、「お母さんかお父さんはどこにおるん?」と問いかけながら店に入り、店員に訊きますが「わからない」との答え。そしたら店長さんが出てきて警察に通報してくれたのでした。警察官が来るまで、私はその子と店内にあった車の写真絵本を見ていました。「これ、ぜんぶ持ってる!」と始終ご機嫌さんでした。

と、その話をあるとき高校時代の同級生にしたら、彼は「えー、そんなん、俺、見かけてもほっとくわ」と言ったので驚いた(というより引いた)ことを今回の件で思い出しました。

その後、なんだか彼に会いたいと思う気持ちは薄れていきました。会ってもな……、みたいに。

面倒なことに関わりたくないとか、なんかあって責任問われたら嫌とか、許容量を超えているとか、そこで子どもが車にひかれても俺の知ったことじゃないとか、色々あるんでしょうが、それでも「もうちょい頑張れよ」と思います。

おい、中年。

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茶屋ひろし(ちゃや・ひろし)

書店員
75年、大阪生まれ。 京都の私大生をしていたころに、あたし小説書くんだわ、と思い立ち書き続けるがその生活は鳴かず飛ばず。 環境を変えなきゃ、と水商売の世界に飛び込んだら思いのほか楽しくて酒びたりの生活を送ってしまう。このままじゃスナックのママになってしまう、と上京を決意。 とりあえず何か書きたい、と思っているところで、こちらに書かせていただく機会をいただきました。 新宿二丁目で働いていて思うことを、「性」に関わりながら徒然に書いていた本コラムは、2012年から大阪の書店にうつりますますパワーアップして継続中!

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