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被害者に自衛するように仕向けるおクニ

牧野雅子2020.02.29

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新型コロナウイルス感染拡大防止のため、ライブやイベントが軒並み中止・延期になっている。博物館や美術館まで休館するという。わたしが登壇する予定だったシンポジウムや研究会、イベントも中止・延期になった。「自粛」はひとまず2週間ほどということだけど、それ以降のイベントでも中止になったものがあり、先の予定が見えない状態だ。イベント中止の連絡を受けて、講演料と航空券のキャンセル料のことを考えてしまったわたしは、非正規雇用労働者の一人だ。

イベントが次々と中止になる一方で、多くの人にとって、満員電車に乗って通勤する日常はそのままだ。電車内の感染リスクも相当に高いだろうに。イベントを楽しみに満員電車の通勤を耐えていた人もいるだろうに。
これらの「自粛」は、政府による、イベントの中止・延期、規模縮小要請によるものだ。といっても、あくまでも要請であって、指示ではない。だから、その中止に伴う費用を、おクニが出してくれるわけではないし、責任をとってくれるわけでもない。大規模なコンサートは、どれほど時間をかけて準備をしてきたことだろう。これまだにかかった費用は? 遠方からの観客は、遠征費用のキャンセル料だってバカにならない。中止になっても、そのコストを負担するのは、「市民」の側だ。「桜を見る会」やコネクティングルームとやらに泊まった官僚の出張には税金が惜しみなく使われているのに、こうした「市民」の楽しみやそれを仕事にしている人のための補填には使われない。

おクニは、上から何かを言いはするが、具体的な何かをしてくれるわけではない。防止しろ、自衛しろ。あとは自己責任で。官房長官とかいう人が、ウイルス対応は「先手先手」で何かやっているとかなんとか言っていたのを聞いた記憶があるが、もしかして、総理による突然の一斉休校要請がそれ? 「先手先手」とは、当事者のおかれた状況への配慮も、事態の把握も、専門家との議論も、現場への通達も、なーんにもなしに、テレビニュースではじめて知ることを言うのかしら。そういえば、量産体制の見通しを語っていたはずのマスクは、店頭から姿を消したままだ。花粉症持ちのわたしなど、怒りを通り越して悲鳴を上げたいところだ。

花粉で鼻をぐずぐずいわせながら、ああ、これってわたしたちがずっと言ってきたことだよね、とも思う。性被害を防止しましょう、痴漢にあわないようにしましょうと、性犯罪の発生防止のコストを払わされるのは、被害者(に、なり得る人)のほうだった。痴漢にあわないように時差出勤して混雑する電車を避けろとか、乗車位置を工夫せよとか、女の服装が性犯罪を誘発するとばかりに肌を見せる服装をやめろとか、遅くなったときにはタクシーを利用して帰れとか、夜道の一人歩きは危ないから家族に迎えに来てもらえとか。
警戒したところで被害にあうときはあうし、四六時中警戒しているなんてことは不可能だ。満員電車を避けるために乗車時間をずらせとは、現実には、早く家を出ろということで、早く家を出るには早く起きねばならず、帰宅や就寝時間が早まらない限り、睡眠時間が少なくなることを意味する。それを、被害者(に、なり得る人)に強いるって、女性の体や健康をなんだと思ってるの、って感じだし、だいたい、空いている電車でも痴漢被害にはあうのだ。タクシーを利用しろといっても、その時の「余計な」コストは誰が払ってくれるの? っていうか、どこでも駅にはタクシーが停まっていると思っている段階で、被害者の現実が見えていないと思う。それに、タクシーの中だって安全ではないのだ。家族に迎えに来てもらえって? 家族だって、そんな時間に駅に来るのは危険じゃないのか、それ以前に、深夜に迎えに来てもらえる家族と同居している人しか想定されていないことにツッコミを入れたい。

被害者(に、なり得る人)に自衛するように仕向けるのは、おクニにとって、責任を負わずにすむ安上がりな方法だ。被害者の努力によって被害が減れば万々歳、被害が起きても、自分たちは指導をしていた、自衛していなかった人が悪いと落ち度を問題にすればいいのだし、被害者が落ち度を責められることを恐れて届け出なければ、被害件数としてカウントされないから統計上の発生件数は抑えられて、そのエリアは治安がいい、それは防犯指導のたまものだ、ということになる。
こうやって抑えられた数値に、どんな意味があるのだろう。いわゆる「暗数」が多いと言われる性犯罪で、認知件数が減ったことは、何を意味しているのだろう。実数が減ったと言っていいのか。むしろ、公的機関によって被害が「隠されている」ということではないのか。今回のウイルス対策にも通じることだと思う。

災害や事故等があると、弱い立場の人が一番にその影響を受ける。その人たちを守るのが政治の仕事だろう。政治家は、本来の仕事をしてほしい。っていうか、しろ。自衛隊のヒコーキや総理のお友達のために、わたしたちは税金を払っているのではない。

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牧野雅子(まきの・まさこ)

龍谷大学犯罪学研究センター
『刑事司法とジェンダー』の著者。若い頃に警察官だったという消せない過去もある。
週に1度は粉もんデー、醤油は薄口、うどんをおかずにご飯食べるって普通やん、という食に関していえば絵に描いたような関西人。でも、エスカレーターは左に立ちます。 

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