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TALK ABOUT THE WORLD ドイツ編 ロイヤルへの憧れ

中沢あき2020.03.09

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1月に日本からドイツに帰ってきた翌日の朝、ラップトップを開いてまず目に入ったニュースは「ヘンリー王子とメーガン妃、王室の公務を退任発表」だった。

私がブラウザのホームページに指定しているのは日本のニュースサイトなので日本語の記事だったのだが、へえー、やっぱりねえ、とワイドショーを朝から見た気分でつぶやいて台所に行ってラジオをつけると、ドイツのラジオのニュースのトップが同じく「ヘンリー王子とメーガン妃が王室公務から退任」ですと! ドイツでも話題になるほど大きなニュースなのねー、とそのときは思っただけだった が、さらにその1時間後のニュースでも再びこの話題。そして続く番組の司会者がその話題をさらに引き継ぎ始め……と、この日、そしてその後数日間はこの話題が何度もニュースに登場した。うーん、そんなに重要な話題なのかい!?

日本は皇室があることもあり、もともと他国の王室事情に関心が大きいのだろう。ましてや日本の皇室も似たような話題で揺れているので、なおさら英国王室の状況に重ねて見ているのかもしれない。けれど連邦共和国で、国の象徴には政治を司る首相とは別に切り離して大統領を立てるドイツにおいても、王室ってそんなに関心があるのねーと思ったが、考えてみればドイツにもかつては王室、というかドイツ成立以前にかつて存在していた国々を治めていた貴族の家々がまだ残っているし、彼らは経済や政治やショービジネスなどなど、いろいろな場で活躍している人も結構多い。

ちなみに現英国王室であるウィンザー朝は、ドイツのハノーファー家から国王を迎え入れて成立したハノーバー(ハノーファーが英語読みになる)朝の継続だ。なのでドイツ王室の血筋が入っている、なんていう事情もあるのかな、英国王室の騒ぎがドイツで話題になるのは。余談だが、このハノーファー家はハノーファー及びその周辺の領域を治めていた大きな貴族で、今でもハノーファーやブラウンシュヴァイクなどの町には大変立派な造りの旧宮殿や広場が町の中心地にあって、当時の栄華や権力が今も感じられる。商人の町であったケルンなどとはちがう雰囲気でおもしろい。

さて、ハノーファー家の他にもドイツ国外でも有名な王族/貴族の名前といえば、鉄血宰相と呼ばれた政治家、オットー•フォン•ビスマルク(von Bismarck)とか、ラップドレスで有名になったデザイナーのダイアン•フォン•ファステンバーグとかだろうか。

ビスマルクの名前は歴史で習うし、最近のセレブゴシップでは、元祖スーパーモデルのケイト•モスの彼がこのビスマルク家の出身だとか。まあフォン•ビスマルク、なんて名前は滅多にないので、これを名乗ってたらまずあの家系だなと思うだろうなーと、何年か前に現代アートの展覧会で同じ名字の作家を見つけたときに思ったっけ。

ダイアン•フォン•ファステンバーグ、彼女自身はベルギー生まれで旧姓はハルフィン。つまりドイツの王室の一つ、フォン•フュルステンブルグ(von Fürstenburg)家の王子と結婚して、この家のダイアン妃となったものの、後に離婚。でも名字はそのまま名乗りながらファッションデザイナーとなり、アメリカで成功。ファステンバーグは英語読みの上に、ブランド名として読みやすいようにしたのか、ドイツ語のウムラウト発音であるüではなくて普通のuに変えている。けれどドイツ人ならこの名前を見たらすぐに、あのフォン•フュルステンブルグ家とわかるくらいに知られている家柄だ。

かつてドイツという国が成立する前は、この辺りには先述のハノーファー公国だとか、プロイセン(ビスマルク家が統治)とか、バイエルン公国だとか国が複数あって、それぞれを治めていた王族の家が現在も存続していると書いたが、その他にも各領地を治めていた貴族たちがたくさんいたわけで、その流れを継ぐ家の名字にはフォン(von)という前置詞がついている。

フォンというのは「○○からの」という意味があるので、たとえばビスマルクからの出身です、と言っているようなもの。このフォンが付いた名字を名乗る人たちはけっこうな数でいて、うちも義母は父方から継いだこのフォン付きの名字を誇りをもって名乗っているが、夫は彼の父の名字、つまり義母の元夫のものを名乗っている。フォンが付いた名前だと世間の見る目も違ってくるし、社会でも得をすると彼らは考えているらしく、戸籍上は夫と同じ名字である義姉も仕事上の名前では義母の名前もさらにくっつけてフォンを名乗り、子どもたちにも同じ名字を名乗らせているくらい。いつだったか夫がぼそっと、僕もフォンの名前がよかったけどさ、と言うのでその彼のフルネームを想像してみたが、いや、今の名字とあなたの名前のほうが語感がピッタリ合うからこれでいいんじゃない?フォンの付いた長い名前だと相手に覚えてもらえないよ?と言ったら、素直に納得していたので、彼はあまり執着がないようだ。結婚後も姓を変えていない私には関係のないことだけど、万一自分の名字もフォンとかついてたら……、うーん、なんかすっごい違和感あるわあ、と思うのは私が夢なき現実主義だからでしょうか。フツーがいいよ、フツーが。

そんな人もいる一方で「フォンが付いているゆえに人からの見方が変わるのが嫌」と言って、あえてフォンを名字から外している友人もいる。彼女は父方の姓にもともとフォンが付いていたそうだが、父親違いの妹弟たちから羨まれたりしたことや、まっすぐな気質の彼女には名字による先入観を持たれるのが許せなかったんだそうだ。でも年を重ねるにつれ、家族から受け継いでいくものとしてまた名乗ってもいいかなと考えたりすることもある、とも言う。

と、身近にいる「元貴族」の人たちだが、皆そろって学も教養もあるけど裕福ではない……。貴族=お金持ち、という図式は物語の中だけらしい。

辿っていくと数百年もさかのぼってフランス、スコットランドにもお城があったとかいう義母の家柄だが、その後ロシアに渡ったところでロシア革命に巻き込まれ、財産がパーになったらしい。すごい財産だったのよ〜、と話す義母と、昔の財産って土地とか家畜だろ? 牛一匹が当時でこれくらいの値段でそれを今の価値に換算すると、ん?あれ?どんな計算だっけ? とかやってる夫を見ていると、そんなことを考えている暇があったら自分で稼いだほうがはやいよ……、と密かに思う現実主義の私であった。

写真:© Aki Nakazawa

おそらくドイツのおばさまたちに長年人気の雑誌、ガラ(Gala)とブンテ(Bunte)。医院の待合室などにほぼ必ず置いてあるので手に取ってみたことはありますが、いわゆるセレブネタの雑誌です。ガラの今号の表紙はまさにヘンリー王子とメーガン妃で「メーガンの秘密のハリウッド計画」。ブンテのほうには、スウェーデンのマデレーン王女の写真が。ちなみに両方に掲載されている女性は、不正で逮捕、失脚した前々ドイツ大統領ヴルフ氏の元夫人のベッティーナさん。「どうして私が彼と別れたか」という独白だそうです。どこの国でも皆、セレブネタは大好きなんですね。

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中沢あき(なかざわ・あき)

映像作家、キュレーターとして様々な映像関連の施設やイベントに携わる。2005年より在独。以降、ドイツ及び欧州の映画祭のアドバイザーやコーディネートなどを担当。また自らの作品制作や展示も行っている。その他、ドイツの日常生活や文化の紹介や執筆、翻訳なども手がけている。 

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