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TALK ABOUT THIS WORLD ドイツ編 最後の登園日に思うこと

中沢あき2025.07.16

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今週末の参院選まであと数日。在外邦人の在外投票は先週までだったので、私は領事館に出向いて投票してきた。
今回は公示から投票日まで日数の余裕もあったから郵便投票でもよかったのだけど、もたもたしているうちに投票用紙の取り寄せの時間がなくなってしまい、さらに何度もこのコラムで書いているドイツのインフラ事情では郵送が迅速に進むかなんて信用できないので、自分の足で投票に行くことにした。
とはいえ、電車に乗っていくので半日掛かり、さらに交通費もドイツ鉄道の割引カードを使っているとはいえ、往復で20ユーロ弱、3千円以上も払っていく小旅行である。
もちろん、鉄道のダイヤの乱れはいつもの通りである。嗚呼、ドイツのインフラのせいで二重に手間がかかる……。

インフラといえば、先週は年長組である我が子の最後の登園だった。
これまでも、なぜか大型休暇の前後に人手不足になる園のタイミング事情からして、たぶん来るだろうなと思っていたら、案の定、最後の登園日2日間が保育士不足で半閉鎖になると前日の午後になって通知が来た。
もう半ばそのつもりで予定をみていたので、我が子のクラスの閉鎖日には、登園補欠はもう待たずに欠席にすると園長に伝え、代わりにママの在外投票を見にいく社会科見学するよと我が子に伝えると「ケーキかメロンパンかあんぱんもねー!」と楽しげな声が返ってきた。日本人街がある隣町へのお出かけの定番コースなんだよね。
今年、幼稚園では年長組の社会科見学や遠足は人手不足の理由でほとんど潰れ、歩いて行ける近所の警察署への見学1回しかなかったので、代わりにってことで。

その日は快晴の爽やかなお天気。
親子でちょっとおしゃれもしてウキウキしながら電車に乗り込んだら、私の携帯がチャットの通知音で何度もブンブン鳴るから見てみたら、幼稚園の保護者グループチャットが荒れていた。
子どもを園に送り届けたある親が「卒園祝いで園に寄贈したポップコーンマシンで、年長組がポップコーン付きの映画上映パーティーをやってもらっている」と嬉しそうに投稿したら、「でも今日登園できない年長組は明日同じことをしてもらえるのかしら?」「保育士さんから全部同じことはできないと言われた」「それじゃ不公平だ」と次々に投稿が続き、そもそものこれまでの閉鎖や対応についても不満がどっと溢れ出した様子。
さらにはある男の子の親から「うちの子は妹と同じクラスに振り分けになるから今日は登園できないのだけど、そうしたら自分のクラスのお友達に会えなくなってしまう。小学校も別になるからこれが最後の機会だったのに、皆に会いたい、とせがまれて、例外的に認めてもらえないかと園に連れて行ったら、息子の面前でピシャリと『ダメです』と言われ、息子は一人廊下に立って隣から響いてくる子どもたちの楽しそうな歓声を聞きながら泣いていた」と衝撃の報告が……。
その親は園長に出した苦情のメールをこのチャットにもシェアしたのだが、そのメールいわく「息子は家に帰ってきて泣きながら『昨日先生は、誰一人として仲間外れにしてはダメなのよ』と言ったのに、どうして(別の)先生は僕を仲間外れにしたの?』」。読んでいて胸が痛くなる。

その後しばらくして園長から「私たちはできるだけの対応はしているし、そもそも卒園パーティーは先々週にやったから、今日はパーティーをやっていたわけではないし、明日も同じことを残りの年長組にもやる予定だから、仲間外れにしているわけではありません!」と保護者へのメールが来たが、なんだか自分たちの正当化に聞こえてしまうと言ったら意地悪すぎるだろうか。

保育士一人当たりで対応できる子供の数が法律で決まっているので、それ以上を受け入れられないのはもちろん承知だ。
けれども友だちと一緒になる最後の機会を願う年長組の子どもに優先的に補欠番号を割り振ることもなく、ポップコーンや映画上映の話も保育士によって情報がバラバラだったりと、対応がいい加減なのは否定しようがない。
さらにいえば、夏休み前の最後の登園日になるのは、年長組だけではなく、引っ越しなどの事情で園を代わる子どもたちにとっても同じだし、そしてこれも案の定だが、夏休みを前倒しにして安く旅行に行きたいのだろうか、保育士の有休と急きょの病欠が重なって複数名が一度にいなくなるという状況をまた、しかもこのタイミングで繰り返す神経が理解できない。

法的な保育数ルールのことも、有休という労働者の権利も、子どもたちにとっては大人のエゴでしかない。
私はこれまで何度か園長や市の児童局の担当者に、そもそも人手不足が深刻な状況の中での有休の取り方をもう少し考えてくれないだろうかと訴えたこともあったが、結局はそんなことは考えてないんだなーということが最後の最後にまた確認させられた感じである。
他の保護者も異口同音に「子どもたちの権利が侵害されている」。そう、労働者の権利という大人の事情によってね。

ドイツでは小学生以上の就学児は、学校の許可なしに授業を長期で休むことができず、夏休みの直前に安い航空券で飛び立とうとする子ども連れの家族を見張るために空港で教育委員会と警察が待ち構えているという話もあるくらい、学校の休みのルールは厳しい。
なのに、子供を預かる教育者の立場でもある保育士たちは、子どもの事情などお構いなしにさっさと休みに入ってしまうわけだ。そう皮肉的に受け取ってしまう。
まあ、その状況とは我が家はもうおさらばできる、と頭を切り替えたいところだけれども、あちらこちらで身勝手な「個人の権利」の主張を感じてしまうこの頃なので、小学校入学後も気は許せない。
いや、学校問題だけではなくて、交通機関から病院や福祉の現場から飲食店から、とありとあらゆるところでいろんなサービスが崩壊しつつあると感じるこの頃なのだ。

さて、ひと足さきに投票してきた日本の参院選を、ネットでの報道を通して遠くから見ていると、既視感があるなあと思う。
あちこちで指摘されているが、欧州と同じように日本でも極右が台頭してきた、というやつである。
そうだね、私も何度かここで書いているが、マスコミがそれを叩けば叩くほど、さらに支持率が伸びていく、っていうアレである。
極右の台頭の原因はどこも同じ、現政権やマスコミのジャーナリズムに対する不満が大きい。
そりゃあそうだ、だって信用できないことは確かにあるもんな。でも不思議なことに、そこに不満を持って支持先を変えたはずなのに、彼らの新しい支持先もこれまでの党とわりと根本は似ていたりする。

ドイツで言えば、AfDという極右政党は外国人排斥主義だと言われるが、現政権のCDUを率いるメルツ首相もかなりの保守で弱者や外国人に厳しい政策案を持ち、AfDに寄ろうとして批判されたりするような人物である。
つまり極右も保守も、根本は似ているよね、と思える。
インフラや教育という国の根幹となることにお金や労力を国が注いでこなかった結果、まともな労働力が育ってこなくて経済までぐらついてきているところの不満が外国人へと流れ、でもその外国人はこの国の人々が豊かな生活をキープするために必要だと国が呼んできた人々で、この国の人々はその労働力の恩恵に預かってきたのに、それを排除しようとするなら、じゃ、いったいその労働は誰がやるの?ということになる。

それに最近のドイツの社会問題でもあるが、若い世代を中心にドイツ人の労働意欲が低いと言われている中で、外国人が担ってきた仕事をドイツ人自身が引き取るとは思えない……。
日本より一歩先に進んでいるドイツでは、この先自らドイツを去ることを考えている移民が25%もいるという調査結果がつい最近出たところである。
いずれ書きたいと思っているが、いわゆる能力のある人から真っ先に出ていっていることを私自身身近で感じている。

自分の権利ばかり主張する社会に未来はない。社会は相互関係でないと成り立たないものだからね。
外国人だろうが邦人だろうが、その社会に生きている人々を守らない、また相手のことを考えることができない社会の国は崩壊していく。
コロナ禍以降、その綻びがあちこちで露呈していく国で外国人として暮らす私は、そんなことを考える。

©︎ : Aki Nakazawa
この日の社会科見学である在外投票を無事終え、そのあとは爽やかなお天気の中、ライン川岸を散歩し、ちょっと贅沢なパティスリーの素敵なきらきらケーキで卒園祝いとしました。楽しかったね!ちなみに幼稚園の方はその後、とあるママが「では最後の日は登園できない子もよかったら閉園後に近くの公園で集まって、お菓子持ち寄りで卒園祝いをしましょうよ」と提案をしてくれて、こちらもとても楽しく素敵なお祝いをしたのでした。大人用にスパークリングワインまで持ってきたこのママに感謝です!

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中沢あき

中沢あき(なかざわ・あき)

映像作家、キュレーターとして様々な映像関連の施設やイベントに携わる。2005年より在独。以降、ドイツ及び欧州の映画祭のアドバイザーやコーディネートなどを担当。また自らの作品制作や展示も行っている。その他、ドイツの日常生活や文化の紹介や執筆、翻訳なども手がけている。 

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