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 この原稿を書いている今日は7月11日。今、全国でフラワーデモが行われている。うっかりもののわたしはてっきりリモート・デモだと思い込んでいて、午後7時にアクセスしてがっかりした……なので、この原稿を絶対に今夜中に終わらせようと、今がんばっている。理不尽な日本の性暴力、性差別、女性や少女に対する人権侵害に声を上げるために。

 コロナ禍がいよいよ日本人の足元に近づいてきた3月2日、総理が唐突に小中高校の臨時休校を要請した。この措置の感染抑制効果がどれほどあったのかも怪しいものだが、それ以上に、日中親が家にいない中高生がどんな行動に出るものかと分かっていたのかと問うなら、おそらく総理は何も考えていなかったし、それが引き起こした結果に対して、今も日本政府は無為無策である。
 やがて政府は4月7日から5月6日までの1か月間「緊急事態宣言」を発出。その間に、中高生など若者の妊娠増加が見られることがあちこちでささやかれ始めた。

 4月18日、関西発のニュースサイトまいどなニュースのライターは、神戸市の相談窓口に、特に10代の女性から「妊娠したかもしれない」との相談が相次いで寄せられていることを報じている。平日でも毎日数件の相談が入るようになっており、「恋人や友人の家にずっと入り浸っていた」例の他、バイトがなくなってパパ活や援交に手を出す例が少なからずあるという相談員の問題意識もしっかり伝えている。
 外出できない前代未聞のゴールデンウィークを越えて、5月半ば頃から地方紙や全国紙でも上記と同様の記事がぽつぽつ見られるようになった。15日の西日本新聞では、「にんしんSOS東京」の2~4月の相談件数が前年同期の1.6倍に達し、特に10代の妊娠が急増したとしている。
 5月19日に時事通信は、「こうのとりのゆりかご」(赤ちゃんポスト)を運営する熊本市の慈恵病院への取材で、「全国で一斉休校が始まった3月から中高生の相談が増加。休校中に親のいない自宅で性交渉があった後、『妊娠検査薬で陽性が出た』などという女子からの連絡が大半」と配信した。
 5月27日には読売新聞が10代の妊娠相談が増えていることを報じ、、6月17日には朝日新聞が、2016~2018年度の10代の中絶実施率が47都道府県で最も高かった福岡県知事のコメントとして、「10代の中絶は多くが予期しない妊娠の結果だと考えられ、体だけでなく心にも大きな影響を与える深刻な課題だ」との認識を示した。

 このように学校が休みになって中高生が妊娠……という話題ばかりで、「予期しない妊娠」をしてしまった彼女たちがその後どうなったのかは分からない。妊娠をさせた少年や成人男性がどうしたのかも分からない。今のところ追跡調査の結果が報じられることもない。厚生労働省や文部科学省が調査している気配もない。

 そうした少女たちの大半が中絶に至ったか、少なくとも中絶を求めようとしたのではないかと思われるが、コロナ禍で外出の自粛を迫られているなか、実際に中絶を受けることができたのかどうかは全く分からない。また、他の年代でも望まない妊娠に悩むことになった女性たちは増えているだろうと思われるが、そんなことには誰も興味を持たないかのようだ。

 海外に目を向けると、4月7日に国連の女性機関UN WOMENの事務局長は、コロナ禍のような非常事態には女性や少女に対する暴力が急増すると警鐘を鳴らし、その被害を「影のパンデミック」と呼んだ。
 同日、WHOも「COVID-19と女性に対する暴力 医療セクター/制度は何ができるか」というファクトシートを発表している。今回のパンデミック下での女性やその子どもたちに対する暴力の増加がすでに始まっており、劇的に増える恐れがあること、深刻な身体的、精神的、性的な問題や性感染症、HIV、計画外の妊娠など、生殖の健康にまつわる被害が見込まれることが強調されている。さらにWHOは、この問題について感染拡大の最中で行うべき対策として次のように提言している。

● 政府と国会は:コロナの蔓延への準備とその対策の中に、女性に対する暴力に対応するために不可欠なサービスを含め、その資金を提供し、フィジカル・ディスタンスの対策が取られているさなかでもそうしたサービスにアクセスできるようにしなければならない。

● 医療施設は:暴力のサバイバーのために、地域の(ホットライン、シェルター、性暴力被害センター、カウンセリングなどの)サービスの存在を知らせ、情報提供をしなければならない。

● 医療提供者は:女性に対する暴力のリスクや健康に対する影響の大きさについて、認識している必要がある。医療提供者は、第一線での支援と医療を提供することで、被害を打ち明けてくる女性たちの助けになれる。女性に対する暴力に対応するために、モバイルヘルス(スマートフォンなどの端末を医療に活かすシステム)やテレメディシン(遠隔診療)の活用を緊急に検討しなければならない。


● 人道的支援団体は:コロナへの対応策の中に、暴力にさらされている女性やその子どもたちのためのサービスを含め、女性に対する暴力の具体的ケースに関する報告データを収集すべきである。


● コミュニティの人々には:パンデミックのさなかに女性に対する暴力のリスクが高まることや暴力にさらされている女性と連絡を取り、支え、サバイバーを助ける場所に関する情報を得ておく必要があることを認識させなければならない。虐待者が自宅にいる場合、女性たちと安全に連絡を取り合うように注意することが重要である。


● 暴力を経験している女性たちは:サポートしてくれる家族や友人に連絡するか、ホットラインに支援を求める、あるいはサバイバー用の地域のサービスの助けを求められるようにする。暴力がエスカレートする場合には、安全策を取るのが得策かもしれない。そのなかには、安全のために緊急に家を出なければならない場合にかくまってもらえる近隣の人、友人、親戚、シェルターなどを見つけておくことも含まれる。

 さてどうだろう。今回の日本で、ここで示された対策のうち、いったい何が行われただろう。政府もマスコミも毎日毎日感染者数をカウントし、クルーズ船の動向をくり返すばかりで、こうした国際機関の警告や対策についてはほとんど取り上げてこなかった。確かに政府はDVの相談窓口を増やしたかもしれないが、それ以上のことはほとんど何もしていない。何の対策も計画もなかった無責任な休校措置の結果、少女の妊娠が増えたことへの反省の声もいっさい聞こえてこない。

 そもそも日本はふだんから性教育も人権教育も欠乏している。避妊が不十分なセックスが性感染症や妊娠をもたらすこと、緊急避妊のタイミングや今回実現したオンライン処方の使い方、いつまでなら安全に妊娠中絶できるのかといったことを、きちんと学べている少女はほとんどいないだろう。
 人権意識に関しても日本は情けない状態だ。リサーチ会社イプソスが28か国を対象に行った人権意識の調査で、一般的な人権について「よく知っている/まあまあ知っている」と答えた日本人はわずか18%で28カ国中最下位。下から2番目のベルギーでも38%であり、日本の2倍以上。28カ国の平均は過半数を超える56%だった。逆に日本は「ほとんど知らない/まったく知らない」が65%を占め、悲しいことにこれもダントツ1位。日本人がいかに人権教育を受けていないのかは一目瞭然だ。
 そんな状態では、セックスするには「性的同意」が必要であり、いやなら途中でも断っていいし、断られたら途中でもやめるべきだとわきまえている中高校生はまずいない。一方で性の情報はネットにあふれかえり、ポルノは言うに及ばず、テレビや広告でさえも女性の性を男性の欲望のはけぐちとして扱うことがざらにある日本社会。
 こんな社会・文化では、大勢の少女たちにとって、自分の性を搾取してくる少年や大人の男たちの欲望にノーを言うことはとてもとても困難なことになっている。いや、いくら「ノー」と言っても日本の男文化は「嫌よ嫌よも好きのうち」などという勝手な解釈を押し付けてくるのだから、たまらない。
 そんな状況の上にたたみかけるような国のトップの浅はかで無責任な休校要請……だ。
 緊急事態が起きた時には、必ず弱い者に最大級の被害がもたらされる。少女たちに望まない妊娠という結果をもたらし、傷つけたのはこの国であり政府に他ならない。妊娠した少女たちは日本社会と、日本の政治の犠牲者に他ならない。声を大にして言いたい! 彼女たちの望まない妊娠は、国をあげての性暴力の結果なのだ!! わたしは、わたしたちはこんなことを許していきたくない!!!

 ところで、コロナ禍で10代の少女の妊娠ばかりがとりたてて問題になるという現象は、欧米では今のところあまり浮上していない。インターネットの英語ニュースを見る限り、すでにその現象が起こっており、大問題になっているらしい数少ない国のひとつはケニアである。
 6月23日にYoutubeに投稿されたケニアのテレビ番組では、司会の女性の他に、子どもの権利や人身取引の問題の専門家、ジェンダー戦略プランナー、児童虐待の問題に詳しいアクティビストという3人の女性に加え、メンタルヘルスやトラウマに詳しい男性の学者1人でパネルを組み、50分間の討論を闘わせていた。(この手の番組で女性4人に男性1人という組み合わせは、そもそも日本で考えられるだろうか?)
 やはりケニアの別の短いドキュメンタリー番組では、「望まない出産に至ると少女の一生は大打撃を受ける」との認識をもとに、、「10代の妊娠は1件でも多すぎる!」とのメッセージが繰り返された。最後のシーンでは、妊娠したお腹を抱えた少女のシルエットの上に、「少女でいさせて、母親にならせないで」というメッセージが掲げられていた。
 アメリカのフェミニスト雑誌『ミズ』によれば、最近ケニアの法務大臣は「3月末の時点において国内全域で性暴力が『急増』しており、加害者の多くは近しい親戚や保護者である」と報告していたそうだ。(日本の法務大臣がこんなことを言うことがありうるだろうか?)
 少なくともケニアでは、10代の妊娠の急増を政府もメディアも問題視し、議論し、どうにかしていくために国民の認識を変えようと努力している様子が垣間見れる。

 そんな努力さえいっさい払われていない日本の女性差別の状況を、改めてかみしめてほしい。悔しいし、痛ましい、苦しい。コロナ禍の日本で望まない妊娠をしてしまった少女たちが、とりあえずでも中絶に行きついていることを、そして今は無事であることをひたすら祈っている……。

 ちなみに、世界経済フォーラムのジェンダー・ギャップ指数は、ケニアが109位、日本は121位。日本の地位がさらにケニアに大きく幅を付けられていく日が近いのではないか。
 私は声をあげるのをやめない。一緒に叫んでいこう!

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塚原久美

塚原久美(つかはら・くみ)

中絶問題研究者、中絶ケアカウンセラー、臨床心理士、公認心理師

20代で中絶、流産を経験してメンタル・ブレークダウン。何年も心療内科やカウンセリングを渡り歩いた末に、CRに出合ってようやく回復。女性学やフェミニズムを学んで問題の根幹を知り、当事者の視点から日本の中絶問題を研究・発信している。著書に『日本の中絶』(筑摩書房)、『中絶のスティグマをへらす本』(Amazon Kindle)、『中絶問題とリプロダクティヴ・ライツ フェミニスト倫理の視点から』(勁草書房)、翻訳書に『中絶がわかる本』(R・ステーブンソン著/アジュマブックス)などがある。

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