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 国際セーフ・アボーション・デーは毎年9月28日、安全な中絶(セーフ・アボ-ション)を選ぶ権利が保障されることを求め、世界中の女性たちが統一行動を起こす日。昨年は、北原みのりさん、早乙女智子さんと3人で、中絶の罪悪視や自罰感情を抱かせるアボーション・ハラスメント(略アボハラ)という造語を使い、「アボハラなくそう」と呼びかける小さな集会を京都で開いた。

 今年は、その3人プラスSOSHIRENの大橋由香子さんの4人で周囲に呼びかけ、国際セーフ・アボーション・デー2020 Japanプロジェクトを立ち上げた。メーリング・リストを通じて総勢20名以上がやりとりして要望文を練り上げ、専用のホームページ、ブログ、ツイッターを行使して賛同人を募り、国会議員や政党にアンケートを配り、9月27日に午後1時から7時までという長時間にわたるオンライン・イベント「中絶についてとことん話そう」を実施した。

 当日、オンサイトでYoutube配信を見ていたのは、おそらく最大200人を超えることはなかったと思うが、翌日には1000回以上の再生回数を数え、5日経った現在の再生回数は3000回に迫る勢いだ。「すごくよかった」「感動した」「勉強になった」と内容についてもすこぶる評判がいい。6時間という長丁場なので「とても一気には観れない」と最初はあきらめ顔をしていた人も、「観はじめたら引き込まれてしまって、6時間全部続けてみちゃった!」と報告してくれるのがありがたい。

 イベントの開始早々、「日本は最先端医療の国と信じていたのに、搔爬という古くて処罰的・暴力的方法が1940年代から延々と使われている」ことが暴かれる。しかもその方法を取っているがために、中絶のタイミングが遅らせられ、待たされたり、一回でうまくいかずにくり返し中絶させられたりしている女性たちがいるということも。「中絶の選択に何の後悔もないのに、ひきずってしまうのは社会の視線のせい」だとみのりさんが言う。情報も選択肢もなかったのに、自業自得と言わんばかりに冷たい医療者のことばや視線に、「みじめさ」を感じ、ディスエンパワーされてしまう……だけど、世界に目を向けると、その不当さはよりいっそう明らかになる。

 フランスに移住したmarukoさんは「日本の当たり前は世界の当たり前でない」と気づいたそうだ。月経による不調を男性の同僚に漏らしたら子宮内膜症じゃないかと心配されたという職場環境は(そもそもそんな日常会話ができるのも)、教育で培われたものに他ならない。コロナ禍が始まったとたんに「女性を守れ」と性暴力被害への目配りはもちろん、家庭内でのケアの担い手になりがちな女性の過剰負担への懸念も声高に叫ばれ、具体的な対策が取られていく欧米の「スピード感」は日本人にはまことにもって「うらやましい」。が、その反面、日本の現状はあまりに嘆かわしいことを痛感させられる。

 すでにこの連載では紹介した通り、WHOがパンデミック宣言に踏み切った3月11日からの1か月間に、英米の産婦人科協会は詳細な医療マニュアルと当事者用のQ&Aを作り、国際産婦人科連盟(FIGO)は国際的な大規模ウェビナーで情報を共有した後に声明を発している。そのすべてが、中絶薬のオンライン処方と女性の自己服用を奨励する内容だった。コロナ禍以前から社会全体に女性のリプロダクティブ・ヘルスへの関心があり、それを保障していくための体制がすでに敷かれているからこそ、このような迅速な対応に踏み切れたのに違いない。一部の人が声高に主張して勝ち取るしかない「権利」ではなく、すべての女の健康を守るための当たり前の医療が手を伸ばせば届くところに置かれている。

 海外のリプロダクティブ・ヘルスに詳しい産婦人科医の早乙女智子さんは、避妊や中絶を「もはや医療というのでもなく、ナプキンやタンポンに近いもの」として捉えていると語った。「女の身体の話」は医療者が自分の価値観であれこれ口出しすべきことではなく、「あたしのチーズケーキにコショウをかけないで!」と言って構わないのだと。避妊も中絶も、そしてセクシュアル・プレジャーも、女性自身が自らの生活スタイルに合わせて好きにすればいいことがらであり、あなたが選んだ医療が提供されるべきなのだ。

 それなのに、家制度や家父長制をそのままに、キリスト教の教える「胎児生命」尊重を採り入れて西洋化を果たそうとした明治政府が制定した刑法堕胎罪という古い法律が100年以上も手つかずのまま残存し、今も女性たちを苦しめている。そのことが、寺町東子弁護士と、政治学が専門の岩本美砂子さんのミニレクチャーによってあからさまに、とてもわかりやすく暴かれた。堕胎罪がある限り、私たちは海外のように「コロナ禍だからオンライン処方と自宅中絶」という方法を取ることができないという事実が、視聴者に突きつけられる。

 さらに海外経験が豊富なVoicd Up Japanのイングリッドさん、ミズキさん、ユカコさんという若き3人のフェミニストは、知識と体験とを元に今の日本の状況を逆照射して見せてくれた。「誰もが声を上げられる環境を作ること」「ジェンダー平等を達成すること」を目指している彼女たちは、失敗率18%のコンドームのみに頼っている日本の実情に気づいて、「自分の身体のことは自分で決めたい」「自分の子は自分のタイミングで産みたい」と声を上げる。南アフリカにいる既婚のメンバーからは、「あなたたちのファミリー・プランニングは?」と尋ねられ、IUDや注射やシールなど日本にはないものも含む多様な避妊方法を定額で提示されたとのエピソードが共有された。まさにそこには、「わたしのチーズケーキ」をわたしが自由に選べる社会がある

 続く4人の助産師――漆原絢子さん、中込さと子さん、三宅はつえさん、萩原仁美さん――は、中期中絶という壮絶な場に何の教育も受けないままに立ちあわされている専門家としての葛藤を語りあい、自分たち自身の偏見に気づいたことも誤解を恐れず打ち明けた。4人は話し合いをくり返すことで、「すべての女性が同じケアを望んでいるわけではない」「自分の価値観を押し付けない」「目の前の女性に寄り添っていく」ことと、「女性のパートナーとしての助産師」という自らのアイデンティティを再確認していった。中期中絶に関してベテラン助産師が語った「産婆は元々、迎え人でもあり送り人でもあった」「肉体は亡びても魂は返って来る」といった言葉は、多くの中絶した女性を救う考え方にもなりそうだと、わたしは感じた。

 

 

 

 

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塚原久美

塚原久美(つかはら・くみ)

中絶問題研究者、中絶ケアカウンセラー、臨床心理士、公認心理師

20代で中絶、流産を経験してメンタル・ブレークダウン。何年も心療内科やカウンセリングを渡り歩いた末に、CRに出合ってようやく回復。女性学やフェミニズムを学んで問題の根幹を知り、当事者の視点から日本の中絶問題を研究・発信している。著書に『日本の中絶』(筑摩書房)、『中絶のスティグマをへらす本』(Amazon Kindle)、『中絶問題とリプロダクティヴ・ライツ フェミニスト倫理の視点から』(勁草書房)、翻訳書に『中絶がわかる本』(R・ステーブンソン著/アジュマブックス)などがある。

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