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中絶再考 その17 国際セーフ・アボーション・デー(後半)

塚原久美2020.10.07

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 英文学者の片山亜紀さんは、小説等のフィクションに中絶がどう描かれているのかを解説することを通じて、多様なイメージをもつことで、画一的な中絶イメージを押し付けられることなく、自分なりのイメージを取捨選択していける可能性を示してくれた。ル=グウィンが描いた父親が望まない娘に対してかける解放的なセリフなどは、これまでの日本の中絶物語ではなかなかお目にかかれないもので、発想の転換をもたらしてくれる。

 円より子さんは、1979年から始めたニコニコ離婚講座に集まった3万人もの女性たちの証言から、離婚の裏に性のトラブル、特に中絶のトラブルが散見されることに気づいたことを語ってくれた。また、国会でいかに女性の問題を扱いにくいか、特に性にまつわる問題はきわもの扱いされることが多かったとの経験から、女性議員から女性を蔑視するような発言が飛び出す今の国会の風土を批判し、もっと多くの女性が議会を占める必要があることを強調した。

 にじいろさんはわたしがツイッターで知り合ってゲストスピーカーに招いた方で、今回のイベントでは、SNSのおかげで世界が広がることを各所で痛感させられた。にじいろさんは、世界の包括的性教育とは違って日本の中学生の性教育はあまりに手薄であり、高1の段階で4割近くが「人工妊娠中絶」は何かと問われても答えられない実態をデータで示してくれた。また、高校生向けの教科書の中で、中絶は「新しい命を摘む」とか「胎児の生命を奪う」行為として批判的に扱われる一方で、「確実に避妊を」としながら現実的で具体的な避妊の知識が十分に教えられていない問題も指摘した。一方で「中絶は権利」と教えることにより、中絶経験者の女子生徒から「救われた」、先生から「ハッとした」との反応を得たことも語ってくれた。

 障害をもつピアカウンセラー安積遊歩さんと藤原久美子さんは、予想外の公開セッションを展開してくれた。今回、この場で話をすることになって、藤原さんは「昨夜眠れなかった」ほど悩んだ末に、これまで誰にも言わなかったことを遊歩さんに打ち明け始めたのだ。お腹の子が自分と同様の障害をもっているかもと思い、「産んでやらない方がよい」と考えて選択的中絶をした経験があるのだという。安全な中絶をテーマにしたこのイベントに出演することさえ「すんなり手を挙げられなかった」「参加するのが怖かった」というのに、「産めない、育てられないと思った」「「選ばざるをえなかった」「でも、もっと自分が強かったら産めたかも」とくり返し考えたことまで語ってくれたのだ。

 そんな藤原さんに、安積さんは「圧倒的に足りないのはサポート」「障がい者だけじゃない、すべての女性が、助けが足りなすぎて強制中絶させられている」「障がい者が混じることで台風の目になれる」などと応じた。藤原さんは「今回、忘れていたと思っていた経験を思い出すことができた」とし、「罪悪感は、自分のせいにすることで、そこから動けなくなる、先に進めなくなる」との気づきを返した。

 この公開セッションに、わたしも胸がしめつけられたし、チャットでも大勢が「語ってくれてありがとう」「今日一番の感動」などと書き込んでいた。その回の司会だったわたしは、「障がいのない女性でも、中絶に追いやられたと感じている人はいっぱいいる」と共感を伝えて、「耳を傾ける人間として信用してもらった」ことに感謝し、「これからも台風の目になってください」と今後の連帯をお願いした。

 トークの最後を締めくくったのは、SOSHIREN女(わたし)のからだからのメンバー大橋由香子さん、米津知子さん、長沖暁子さんの3人だった。1982年優生保護法改悪阻止運動からこのグループに参加した大橋さんは、1984年アムステルダムの「女の健康国際会議」でリプロダクティブ・フリーダムという言葉に出合い「女(わたし)のからだはわたしのもの」と訳したことなど、「35年の関わりのほんの一部」を紹介した。さらに運動の経験が長い米津さんは、優生保護法下の強制不妊手術、政府の胎児条項導入、現在の出生前診断などの諸問題に通底する優生思想と女性への圧力の存在を指摘し、女性差別と障がい者差別を共になくす必要があることを静かに、しかし力強く語られた。長沖さんからは1994年のカイロ国際人口開発会議の際に、NGOフォーラムで安積さんが日本の優生保護法の問題について発言して国内外が大騒ぎになったこと、そうした動きやSOSHIRENの長年の活動の末に1996年の優生保護法から母体保護法への法改訂につながったことが紹介された。司会の柘植あずみさんは、「半世紀の歴史を振り返りながら、今後わたしたちが何をしていくべきかが語られた」としてこのセッションをまとめてくれた。

 最後に海外フェミニストから寄せられたメッセージを紹介した。WHW(Women Help Women)のキンガ・ジェリンスカさんとWoW(Women on WavesとWomen on Webの2つの活動をしている)のレベッカ・ゴンパーツさんは、それぞれに安全な中絶のできない国に中絶薬を送付する活動をしているグループの代表である。

 WHWはきめこまやかなカウンセリングとシスターフッドに特徴があり、キンガさんはつい先日行われた安全な中絶を選ぶ女性の権利のための国際キャンペーン(ICWRSA)(Youtubeで国際産婦人科連盟と言いましたが勘違いです!)のウェビナーで、中絶に関して「脱医療化(demedicalization)」「脱犯罪化(decriminalization)」「脱スティグマ化(destigmatization)」をしたうえで「民主化(democratization)」すべきだと主張されていたことをわたしから説明を加えた。

 レベッカさんは、先週発表された「タイム誌の選ぶ2020年に影響力のあった100人」に(伊藤詩織さんや大阪直美選手と共に)選ばれたまさに時の人である。25年前に始めた「中絶船キャンペーン」などメディアの目を引く様々な戦術で知られ、後に始めた中絶薬送付活動は、現在、コロナ禍でWHOやFIGO(国際産婦人科連盟)などが主導しているテレメディシン(遠隔医療)と中絶薬送付の原型になっている。なお、イベントでは省略したが、トランプ政権下のアメリカ国内で中絶を受けられず困惑している女性たちに中絶薬を送付するために、2018年にエイド・アクセスという新たなNGOを組織していることも受賞理由のひとつであろう。

 テキスト・メッセージは、韓国セクシャル・ライツとリプロダクティブ・ジャスティス・センター(SHARE)のジョンウォン・ユーンさんから「韓国の堕胎罪違憲判決に続くのはどの国?」、ICWRSAから「性と生殖の健康と権利のために、日本でセーフ・アボーションへのアクセスが実現することを目指して今後も活動を続けていかれることを強く願う」、安全でサポートされた自己管理中絶(SASS)から「アボーション・ピルはみんなのもの」といったメッセージが寄せられた。他に、ICWRSAのコーディネーターでもあるマージ・ベレールさんの力作「遠隔医療と自己管理中絶に関するディスカッション・ペーパー」の和訳暫定版をホームページ上に置いたことも紹介した。海外の中絶の最新情報なので、興味のある人にはぜひ読んでほしい。

 本来は、ここで予定していたイベントはすべて終了だったのだが、9日前に訃報が流れた「アメリカで最も敬愛された」と言われる米最高裁判事ルース・ベーダー・ギンズバーグへの敬意をこめて、とてもエンパワーされる彼女の2018年の映画2本――「RBG最強の85歳」と「ビリーブ未来への大逆転」――を紹介し、彼女が遺した言葉ですべてのトークを締めくくった。「真の変化、永続的な変化は、一度に一歩ずつ進む。」

 クロージングでは、marukoさんが今回のプロジェクトに関わった全員で書き上げた声明を読み上げ、6時間近くに渡ったイベントは無事終了した。関わってくれたみんな、特にずっと下から支えてくれていたスタッフのみんな、心から感謝しています。そして長丁場の番組を観てくれた人たちもありがとう。これから観てくれる人もありがとう。みんな大好き!

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塚原久美(つかはら・くみ)

中絶問題研究者、中絶ケアカウンセラー、臨床心理士、公認心理師

20代で中絶、流産を経験してメンタル・ブレークダウン。何年も心療内科やカウンセリングを渡り歩いた末に、CRに出合ってようやく回復。女性学やフェミニズムを学んで問題の根幹を知り、当事者の視点から日本の中絶問題を研究・発信している。著書『中絶問題とリプロダクティヴ・ライツ フェミニスト倫理の視点から』(勁草書房)

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