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 今回は調査の話の続きをするはずでしたが、予定を変更して中期中絶の話をします。それというのも、この間、日本の中期中絶も、初期中絶同様に、いや、もっと別の意味でやっかいな問題含みで、とんでもなくガラパゴスであることに気づいてしまったからです。構造的な性差別のなかで、生身の女性たちが苦しめられていることに、強い憤りも感じており、まずは実態を知ってほしいと思いました。

 とはいえ、現状の中期中絶医療に頼るしかない女性たちが実際に存在しているのに、明日、誰かが受けるかもしれない医療処置について批判を展開することはとても難しいものです。それでも、現状の問題に気づく人が増えていかないことには何も変わっていかないので、やはり私の気付いた問題をここで紹介しようと思います。

 なお中期中絶の描写は出てきませんが、今現在、中期中絶を受けるご予定のある方や、ご自分が経験された中期中絶の傷がまだ癒えていない方にはしんどい内容かもしれないので、読むことをお勧めしません。どうかご了解ください。


中期中絶とは

 中期中絶は、避妊でも、緊急避妊でも、早期中絶でも防ぐことのできなかった意図せぬ妊娠を終わらせ、望まない出産を回避するためのまさに最後の砦です。日本では妊娠12週0日から21週6日までが合法的に中期中絶を受けられる期間です。中期中絶を受ける理由は人によってさまざまですが、一人ひとり聴いていけば誰もがやむをえない事情を抱えて中期中絶に至っているものです。また、明らかに性教育が不足しているために、知識がなくて妊娠に気づかないまま妊娠中期に至ってしまうこともあります。

 それでも、まだ中絶可能な時期に気づくことができれば救われる道もあるのです。望まない出産に至ったり、そのあげくに子殺しの罪に問われたりすることになる女性たちもいるという悲しい現実もあるからです。だけど、そもそもどうして彼女たちが望まない妊娠に至ったのかということに思いを馳せれば、決して当人だけが責められるべき問題でないことは間違いありません。彼女たちはむしろ犠牲者であり、被害者であるとさえ言えるのです。

 女性には中期中絶が必要なこともあるし、安心して安全な中期中絶を受けられることは女性の権利です。ところが、日本では妊娠中期の中絶の場合、少なくともWHOのいう「安全な中絶」は全く導入されていないのが現実なのです。

 日本は海外に比べれば中期中絶がまだしも少ないほうです。海外では中期中絶の比率は10~15%ですが、2018年の日本の中期中絶の比率は全中絶の5%でした。ここ数年間、日本の中絶件数は年間16万件程度なので、その5%は年間8,000人、1日にすると22人が国内で中期中絶を経験していることになります。

WHOの推奨する安全な中期中絶の方法

 WHOは妊娠12週を境目にして、12週未満の初期中絶では薬による中絶(ミフェプリストン及びミソプロストールという2つの薬を用いる方法)もしくは吸引法を、妊娠12週以上の中期中絶では薬による中絶もしくはD&E(頸管拡張子宮内容除去法)と呼ばれる外科処置をそれぞれ推奨しています。薬による中絶は、妊娠期間を問わず、ずっと安全な方法だと考えられているのですが、もう一方の外科的処置は妊娠初期と中期の中絶では変わってくるのです。

 海外の標準的な中絶医療では、妊娠初期は吸引を用いますが、妊娠中期以降は頸管拡張(後述)と呼ばれる方法で子宮口を開いておいて、物理的に子宮内容物を取り出すD&Eと呼ばれる手術が行われます。D&Eは、妊娠週数が長くなり、胎児が大きくなるほど、医師にとっては心理的に酷な手術になるため、良心的拒否権を行使して「自分はやらない」と宣言している医師も少なくありません。一方で、「女性の健康のために必要だ」と信じてD&Eを実行している医師たちもいます。特に、10代で妊娠した場合などに、心理的な負担を考慮して、通常は行わない全身麻酔をあえて用いてD&Eを行ったりする例もあるようです。女性を守るために、医師が犠牲になっているのです。

日本の中期中絶

 日本では、中期中絶は女性の心身に相当な負担を与えるものだと従来から言われてきました。分娩法、お産と同じような方法などと言われる通り、人工的に陣痛をつけて流産させる方法が基本的に用いられているからです。日本の中期中絶でよく使われているのはプレグランディンという膣座薬(膣の中に薬を入れ、粘膜から成分を吸収させる)です。これを複数回用いることで、陣痛が起こるのを待ち、子宮の中身を分娩(人工流産)させるのです。

 日本の中期中絶では、上述の膣座薬を入れる前処置として、十分に「頸管拡張」することが大事だとされています。頸管とは子宮と膣のあいだをつないでいる部分で、妊娠中は子宮から胎児が外に出てこないように頸管は固く閉じています。その部分をできるだけ広げることで胎児を外に出しやすくするのが頸管拡張という処置です。

 頸管拡張のためによく用いられるのは、水分を含むと大きく膨らむラミナリアやダイラパンと呼ばれる棒状の医療器具です。それを頸管に挿し込み、徐々に本数を増やしていくことで広げるのですが、挿入するときも、抜去するときも、かなりの痛みを伴うと言われています。挿入されているあいだじゅう不快感があり、かなり激しい痛みが続く人もいます。

 一方、先に述べた海外での安全な中期中絶のひとつ、D&Eという外科手術は、まさにこの「頸管拡張」を行ってから、子宮内容を物理的に取り除くという形で行われます。一方、海外で薬による中期中絶を行う場合は、基本的に頸管拡張は行われていません。どうやら必要ないと考えられているようなのです。

2つの陣痛誘発剤

 日本で中期中絶に使われているプレグランディンと海外の中絶薬の第二薬ミソプロストールは、どちらも陣痛を誘発する作用をもたらす薬です。(中絶薬は2つの薬を組み合わせて用いることで中絶の成功率が上がり、時間も短縮されるのですが、第一薬のミフェプリストンが入手できない国では「ミソプロストール単独」で中絶を行う方法が次善の策とされています。)プレグランディンとミソプロストール単独による中期中絶の効能について比較した研究は複数あり、どちらも同等の効果があることが確認されています。唯一の大きな違いは価格です。この2つの薬を比べた研究は、効能は同等だがプレグランディンの方がはるかに高価なので、ミソプロストールの方を採用すべきだと結論しています。

 実のところ、ミソプロストールは日本でもすでに潰瘍治療薬(商品名サイトテック)として承認されています。もしサイトテックを中絶に使うなら1回投与分で60円少々しかかかりません。一方、プレグランディンの価格は1回投与分で4000円強です。どちらの薬も流産が始まるまでくり返し投与することになっており、プレグランディンを1日の最大投与量5回まで用いると2万円以上の費用がかかりますが、サイトテックを5回投与しても300円程度ということになります。

 高い価格の薬を用いていることで何が起きているのか。ここからは推察にすぎませんが、中絶料金を一律で提示している医療機関が多いことを考えると、単価の高いプレグランディンを使う回数をできるだけ減らしてコストを削減するために、頸管拡張を採り入れているという可能性はないでしょうか。とはいえ、頸管拡張材もそこそこ高価なので、経済的理由が働いているわけではなく、単に日本の中絶が海外の動向とは別に独自に発展してきたために、慣習的に頸管拡張が定着しただけなのかもしれません。真相は不明ですが、頸管拡張をやめ、安いサイトテックを使えば、中期中絶のコストが大幅に下がることは間違いないでしょう。

中期中絶の料金と出産育児一時金

 日本では中絶医療は健康保険が全く使えないため医師が自由に価格設定できます。そこで中期中絶はいくらくらいで行われているのか、Googleで「中期中絶」を検索し、最初の方に現れたクリニックの広告(宣伝のために、検索画面の上位に提示されるように広告代を払っているリスティング広告)を調べてみました。中期中絶の料金を明示している5か所の料金を見ると、最低が「32万円~」、最高が「50~55万円」で、他の3か所は40万円強に設定されていました。そのうち2つのクリニックでは、中期中絶の料金提示と共に「出産育児一時金」が支給されることを説明していました。

 出産育児一時金とは、健康保険をかけている女性が出産したときに、分娩費用の補助として健康保険組合から支給されるお金のことです。健康保険の被扶養者(たとえば夫)の家族(妻)が出産したときも同様に家族出産育児一時金が支給されます。支給される金額は約40万円で、死産の場合――つまり人工死産である中期中絶の場合――にも支給されるのです。前述の中期中絶料金は、ちょうどこの一時金に合わせたかのように設定されているのです。

 この制度は、確かに当事者にとっては経済的に助かるものですが、妊娠12週未満の初期中絶には支給されません。2020年7月、この制度を悪用して、妊娠12週まで待てば格安で中絶を行うとインターネットで宣伝し、全国から患者を集めて一時金を着服していた医療機関があったことが内部告発で暴かれ、問題になりました。妊娠週数が進めば進むほど女性にとってのリスクは高くなるため、そのように中絶を先延ばしするのは明らかに医師のモラルに反しています。

女性のリプロダクティブ・ヘルスを守る

 一時金を着服していたのは明らかに悪質なケースだったとしても、この制度があるために、通常のクリニックで何が起こりうるか、少し考えてみてください。仮に初期中絶は10万円、中期中絶は40万円と価格設定しているクリニックであれば、女性は11週6日までに中絶をするなら10万円の自己負担になりますが、12週0日以降に中絶するなら一時金のおかげで実質無料になります。そうなると、この制度のために、中絶を先送りする女性が出てくる可能性はありそうです。逆にクリニックの側から見れば、お金のない女性は12週以降に回せば料金の取りっぱぐれがないということになり、これまた中絶を先送りした方がよいという判断になってしまいます。くり返しになりますが、妊娠週数が進むほど中絶のリスクは高まるのです。出産育児一時金制度のために、女性のリプロダクティブ・ヘルスが犠牲にされてはなりません。

 すでに何度も書いてきましたが、初期中絶も、ソウハではなくより安全性の高い中絶薬が手軽に手に入るようになれば、中絶自体が早期化され、スティグマも弱まっていきます。中期中絶についても、製薬会社や医療器具メーカーに金をつぎ込むのはやめて、その分でカウンセリングを充実させるなど、女性の健康と権利を保障する制度に変えていってほしいものです。産婦人科医には、真の意味でのリプロダクティブ・ヘルスケアの担い手になって頂きたい。女性ばかりが痛みや苦しみを負わされ、中絶のスティグマが温存されていく仕組みから脱却していくべきです。

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塚原久美

塚原久美(つかはら・くみ)

中絶問題研究者、中絶ケアカウンセラー、臨床心理士、公認心理師

20代で中絶、流産を経験してメンタル・ブレークダウン。何年も心療内科やカウンセリングを渡り歩いた末に、CRに出合ってようやく回復。女性学やフェミニズムを学んで問題の根幹を知り、当事者の視点から日本の中絶問題を研究・発信している。著書『中絶問題とリプロダクティヴ・ライツ フェミニスト倫理の視点から』(勁草書房)

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