ラブピースクラブはフェミニストが運営する日本初のラブグッズストアです。Since 1996

banner-1906dame06

TALK ABOUT THIS WORLD ドイツ編 ドイツ人のマスク遍歴2021年

中沢あき2021.01.26

Loading...

先日書いた、ロックダウン延長が決まったその直後、さらに急展開の決め事があった。当初はバイエルン州だけで提案された「公共交通機関などの公共の場や店内ではFFP2レベルのマスク着用義務」がなんと全国でとなったのである。FFP2とは微粒子も通さない医療従事者向けの防護マスクの規格で、日本のマスクのN95と同じレベルである。この口と鼻をすっぽりと覆う丸いカップ状のマスクはこれまでも、街中で着けている人をたまに見たことはあった程度の普及だったが、これを電車やバスに乗るときや買い物の際には着けろ、ということである。

バイエルン州は州首相がとても厳しいコロナ対策をバンバン出してきたことで隠れた次首相候補とまで言われるようになったのだが(本人は今のところ出馬を否定)、その厳しさもとうとうここまで来たか、大変ね、バイエルンはと思ったら、なんと全国展開であった。

11月から続くロックダウンの効果がなかなか出なくて措置はどんどん厳しくなるばかりだったのだが、今週に入ってようやっと、わずかに感染者数の数値が下がる傾向を見せ始めた。とはいえ死者数は以前高止まりしている上に、感染力が強いとされる変異種の拡大の可能性を懸念して引き続き厳しい制限が続くという方針なのだそうだが、急に発表されたこの新しいルールはちょっと戸惑った。

まず、このFFP2マスクと限定されたところで全国民に行き渡るほどの在庫はあるのかという疑問については、あるという回答が保健相からすぐに出たが、このマスクは値段が高い。昨年のマスク不足に陥った際には1個6ユーロだったものが現在は3ユーロ前後とのこと。マスク一つに400円程度、使い捨てだから毎日交換となると、かなりの出費だ。私も「懐が痛くなるな……」と思っていたところに、友人がフェイスブックでシェアした、とある話を読んだ。

そのFFP2マスクを買おうとしている老齢の女性と薬局の店員のやりとりなのだが、どうやら経済的に余裕がないらしいその女性が、1個3ユーロ以上もするマスクをじっと眺めて店員に質問をしている。店員は、10個買えば3ユーロ以下にまけるというのだが、それでもすでに60ユーロだ。店員の説明では、このマスクは8時間着けたら廃棄しなければならないという。毎日取り替えるなら、1カ月で80~90ユーロもかかる。それは自分にとっては大きな額だとつぶやく女性に、でも一日中着けなければ数日で1回交換ですむかもしれないし、もしかしたらこの新ルールは1カ月くらいで終わるかもしれないから、と店員は淡々と説明を続ける。結局その女性は数個だけ購入し、店を出たところで、そのあとに10個買った若い男性が「僕はこんなに必要ないから」とその女性に数個を分ける、という「美談」なのだが。

そう、このマスクは高い。この女性と同じ境遇の人たちはかなりの数でいるだろうし、とはいえ買い物に出かけなくては暮らしていけないという切実な大問題なのだ。

と、思っていたら、その翌日に別の友人が「保険会社からマスクを安く買えるクーポンが届いた」とフェイスブックで投稿していた。なんと、法定健康保険会社が発行するこのクーポンで、合計で12枚まで購入可能だという。おそらく皆に行き渡らなくなる状況を未然に防ぐために、2枚の引換券が入っていて、それぞれ1月から2月にかけて、そしてそれ以降と時期を分けて使用できるようになっていて、1回に受け取れるのは6枚、そしてこの1セットを2ユーロで買えるとのこと。うん、これなら確かに安い。けど、12枚である。前述の薬局の店員のように毎日交換するとなれば、半月分、もし2~3日に1回にすればギリギリ1カ月分となるが、この新しいルールが1カ月で終わるのかも果たして怪しい。なぜなら上記の引換券の2回目の交換可能時期は、2月後半から4月までとなっていて、4月までロックダウン延長の可能性をすでに見据えているわけだ……。

思えば昨年3月のロックダウン当初は、日本人や顔立ちがアジア系の人たちは自らマスクをしていたが、それ以外はほとんどの人がマスクをしていなかった。今年は花粉防止にもマスクを堂々とできるぞ、なんて思いつつ、マスクをしながらベビーカーを押して散歩をしていたことを思い出す。マスクには感染防止力はない、と、医療関係者や専門家たちも口々に言い、マスクの意味のなさやかえって不衛生だとか、マスクの意義はまーったく受け入れられてなかった。それが4月末になり、初夏に向けてそろそろロックダウンを緩和しなければならなくなってきた頃、代わりに公共の場や店内でのマスクの着用義務、いや、正確に言えば、マスクでなくともスカーフでもなんでも口と鼻を覆うことが義務付けられたのだ。その時のとあるラジオ番組でのこんな話を覚えている。「この週末、あちこちの家でミシンの音が響いていたと思います」もともとマスクをする習慣がない国だったから、日本のようにドラッグストアにもスーパーにもマスクが置いておらず、市場にも十分に出回っておらず、その分皆が自分で縫っていたりしたのだ。それでもしばらくは、マスクの効果がいったいどれだけあるのか、あちこちで論争が続いた。マスクに抵抗のある人たちも多かったし、反コロナ政策の人たちは反マスク運動をしていたり、結果として秋ごろには、マスクをしなければ罰金を科される地域も出てきた。

そして最後の極め付けはこれである。こうして振り返ると、マスク一つでこんな社会の変換がこの1年であって、なんだか感慨深い。なんて言ってる場合じゃなく、個人的にはこのFFP2マスクの着用義務まで科すのはちょっと疑問がある。皆が経済的にこれを定期的に購入し、廃棄交換して使うことができる人ではない。となれば、使い回す人も当然いて、衛生的には疑問であるし、そもそも義務が課された公共交通機関や店舗内はすでにソーシャルディスタンスや入場人数制限が義務化されていて、密になる状況ではない。むしろ、布マスクでもOKとなっている学校機関やプライベートの場のほうが近距離かつ会話による飛沫や密閉空間の状況があるのだ。なので果たしてこれ、理にかなっているんだろうかと首をかしげたくなる。唯一の利点は、FFP2マスクというのは鼻までがすっぽりと覆われるカップ形状をしているので、マスクがずり落ちて鼻が出てますよ、と言う状況が防げることだろうか。いずれにしても、マスク文化がまだ浅いドイツのこと、どのマスクであっても、いつどんな状況でどう正しく着けるのかを徹底させるのが大事だと思うのだが、友人同士の散歩ではマスクなしで出歩いている人たちを見る限り、どこまで効果が出ることやら。

幸い、私が在住する州ではFFP2マスクのほか、サージカルマスクもOKとなり、こちらのほうが値段も安めで手に入りやすいのでちょっとホッとしている。日本で冬の帰省のたびにこの手のマスクをいつもしていた私としては、こちらのマスクのほうがなじみがあるし。このルールは1月25日から開始となるのだが、この着用義務導入のニュースが出たその翌日、買い物に出て驚いた。町を歩く人たちの7割ほどがすでにこのFFP2マスクをしているではないか! すでに持っていたのか、すぐに買ったのかは知らないが、今回の対応の早さにはビックリだ。あれだけマスクに抵抗していたドイツ人たちのこの変わりよう……。ちなみにこのマスクはクリスマス前後、60歳以上の人には1人当たり2枚が無料で配布されていたのだが、私が今回町で見かけたこれらの人たちは、若い人たちも多く、むしろお年寄りの人たちは普通のサージカルマスクをつけている人たちが多かった。これはルールを守るというより、おそらく変異種に対する懸念のニュースを皆がかなり深刻に受け止めているからか、またはFFP2マスクをインターネットで素早く入手できる若者たちだからかなとも思う。

そんなマスク騒動と同時に、2月半ばまで延長されたロックダウンは、すでに現在、2月末まで延長されるかどうか、経済界と政府や行政との間で論議が始まっている。ロックダウン、必要なのはわかってるんだけどね。それだけ、大変な状況ってのもわかってるんだけどね。でももうちょっと、先を見据えた現実的なウィズコロナの指針を出してくれないと、さすがにそろそろ皆の生活が危ないよなあ、と思う私もコロナ疲れかな……。

写真:©Aki Nakazawa
これは昨年春のロックダウン中に、近所の朝市に登場したマスク屋さんです。聞けば元は、伝統衣装のディンドル(オクトーバーフェストなどで女性たちが来ているあれです)を作るメーカーなのだそうで、ロックダウンに加えて秋のオクトーバーフェストも中止が決まり、売れ行きが見込めなくなったので、余った生地を利用して布マスクに仕立てたんだとか。布マスク販売でしばらく身を立てていた人たちにも今回の措置は打撃となるわけで、皆さん、どうしているだろうとふと思い出しました。

Loading...
中沢あき

中沢あき(なかざわ・あき)

映像作家、キュレーターとして様々な映像関連の施設やイベントに携わる。2005年より在独。以降、ドイツ及び欧州の映画祭のアドバイザーやコーディネートなどを担当。また自らの作品制作や展示も行っている。その他、ドイツの日常生活や文化の紹介や執筆、翻訳なども手がけている。 

RANKING人気コラム

  • OLIVE
  • LOVE PIECE CLUB WOMENʼS SEX TOY STORE
  • ばばぼし

Follow me!

  • Twitter
  • Facebook
  • instagram

TOPへ