YURIさんのフェミカンルーム70 風化した私の恐怖体験と土いじり
2021.05.07
マスクにすっかり慣れたこのごろ、マスクもファッションの一部になって、今日はどのマスクにしようか選ぶ日々。皆さんお元気でしょうか。
世界はワクチン接種が進んでるのに、日本はまだ当分マスクは手放せなさそう。
この前地下鉄で声をかけられて、えっと、どなた……? 目と声で、あ~、ごめん。長年の友人なのにわからなかった。
こんな生活もいい加減飽きたし、どこかに出かけたい、気晴らししたいのは誰も同じでしょう。検査もワクチンも後手後手で、政治の無為無策は私たちにふりかかってくる。やれるだけの感染対策をとって自衛するしかないなんて、情けない限りだわ。
連休の半ば、お天気もいいし、花苗や庭木を買いに郊外の大型フラワーセンターに出かけた。で、やっぱりね~、かつて見たことない家族連れの人出。庭でもいじるか、という自粛生活の仕入れですよ、みんな考えることは同じだね。
今回は、私が経験したスリル満点の出来事を思い出したので書くことにします。きっかけはフラワーセンターの帰り道、ランチで入った台湾料理店でのこと。
ほぼ満席の店内で、大きな声で話している男性がいた。テーブルごとに高いアクリル板で仕切られているので、私の席から声の主は見えない。やだなあ、静かに食べてよ。気になるし、正直イラついた。店員さんに「マスクしてるのかな。してなければマスクするように言ってほしい」と頼んだが日本語が通じない。さっさと食べて出るしかない。レジのところで大声の男性たちが見えた。アルコールを飲んでいる、だから声もでかかったのか。まだ楽しそうにしゃべってるよ。でもさ、飛沫が~、迷惑なんだよ~。
なんだかモヤモヤしつつ店を出た。
一緒にいた家族にプリプリ言いながら、前日のニュースを思い出した。福岡の路上で、大阪から旅行で来ていた男性が、マスクをしていないことを注意されて腹を立て、とがめた男性を殴って逮捕されていた。
そして、自分に起きたあの出来事が、久しぶりに思い出された。
それは私が20歳、一人暮らしの学生で、休日に一人で行った映画館でのことだった。
今ではありえないことだけど、上映中、私の前の席にいた男性がタバコを吸い始めた。
ウン十年前だけど、当時でもおそらく館内は禁煙だったのではないかと思う。
そんな場所で堂々とタバコ吸うような人なんだから、そんなの相手にしたらまずいでしょ、ともちろん今では心底思う。
なのに、なのに、私ときたら、どうしたかって……。
そうです、無謀にも、向こう見ずにも、相手にしてしまった。
どうしようかな……隣に女の人もいるし、カップルだから言ってみようか……たぶん、ずいぶん迷ったとは思う。そして恐る恐る声をかけていた。
「タバコをやめてもらえませんか」と……。
振り向いた男と目が合った瞬間「しまった」と直感した。突き刺すような目で睨まれた。怖い・・・もう映画どころではなくなった。
たぶん男はタバコを消した気がするけど、後のことは覚えがない。私は席を動かなかった。今のように指定席でもないというのに。さっさと席を移ればいいのに、固まって動けなかった。
観に行った映画のタイトルは覚えている。
そのころの映画館は2本立て上映の時代だった。1本目が終わってやっと離れた場所に動いたものの、一人で心細かった。
ところが、トイレから出ると、男が私を待ち構えていた。「どうしよう」……、足がすくんで背筋が凍った。
男はすごむようにからんできた。私が映画館の人間なのか、注意する権限でもあるのか、というようなことを言ってきた気がする。
そこをどうかわしたのか記憶にない。とにかく何とか男から離れて、もう1本の映画が終わるのをただじっと待った。場内が明るくなって、男たちがいた席に2人の姿がないのがわかった。
「よかった」ほっとして映画館を出ると、甘かった。男がいた、待ち伏せされていた。血の気が引いた。車を横づけしていた。
「女が怒ってる」「あやまってもらう」とかそんなことを言ってすごんでくる。落とし前をつけろ、という意味だ。さっきより明らかに脅し方が違う。どういう相手か今さらわかっても遅い。車に乗ったら最後、だ。ぶるぶる震えながら、どうやって逃げるか、必死だったはず。
映画館は都心の大きな交差点の角にあって、まだ明るい時間帯で人通りもあった。無理やり車に引きずりこんで拉致するようなことはできなかったのだろう。
私は、男にへこへこと意味もなくあやまりながら、絶対に車に乗せられまいとじりじりと交差点のほうに近づいていった。交差点の向こう側に交番が見えていた。
そして、信号が変わった瞬間、必死で走った。交番めがけて走って逃げて飛び込んだ。
駆け込んだとたん、足の力が抜け、心臓もろとも身体中がガタガタと震えていた。
助かった……のかもわからず、振り向くのも怖かった。一気に恐怖が押し寄せてきて、動けなくなった。
歯がガチガチしてかみあわない状態で、交番で一部始終を話した後、どのくらいそこにいただろう。
警官は映画館あたりを見回りに行ってくれたのだろうか。その記憶もない。
男は私が交番に走りこむのを見て、あきらめたのだろうか。それともどこかでまだ見張っていて、交番から出るのを待ち伏せしてるかもしれない。
そう簡単には自分が安全だと思えなかった。
いつ襲われるかわからない不安、まだどこかで見張られているんじゃないか、ますます腹を立ててるんじゃないか、そんな恐怖で、なかなか交番から動けなかった。
ずいぶん長い時間そこにいた気がする。それでも帰るしかない。まだ不安ながらもタクシーでアパートに戻る途中、つけられてないか、何度もふりかえって後ろを確認していた自分の姿が思い出される。
幸いにも、その後男が私の前に現れることはなかった。
一歩間違えば今の私はいなかったかもしれないという恐ろしい出来事だった。
でも私は今、無事に生きている。
久しぶりにそのことを思い出して家族に話しながら興奮していた。
「無謀というか向こう見ずというか。だけどさ、ええ根性してたね、あんな場面を逃げたんだもの」
しゃべってみて、書いてみると、まるで映画のワンシーン。
相手が悪かったけど、あの場で逃げおおせた私はすごい、えらい、よくやったと思う。
でも、もし、あの時車に乗せられていたら、私はどうなってただろう?
もし、あそこに交番がなかったら。
もし、映画館から尾行されて一人暮らしの住まいを知られてしまっていたら。
そんなことを考えて、あらためてぞっとした。
若い女の子に注意されて、面子つぶされたと逆切れして逆恨みで腹いせするような奴らがすることは……どんなひどい目にあわされていたことか、それが実際に起きていたら……。
ほんとに危なかったんだ……今の私はなかったかも……。
事件になる寸前、一歩手前で自分の身を守れたのだと思うと今の自分がとてもいとおしくなった。
そんなことをつらつら考え続けて、しばらく興奮が冷めなかった。
その映画館にはもちろん二度と行かなかったが、恐ろしい体験もいつしか私の中では風化していった。好きな映画はあきらめないし、そんなことでへたれない自分を再確認した。というお話でした。
そうこうしながら土をいじり、夏の花苗を植え、ミニトマトやトウガラシ、バジルなど、プランターを並べていたら気分も晴れてきた。トマトは失敗が続いて自信がないので今年は「誰でも簡単に育てられる」ブランド品種を買った。うまく育ちますように……。
最近はコラムも休みがちでごめんなさい。3月は東京法務省前のフラワーデモへ、4月は滋賀県大津地裁前フラワーデモに参加。5月1日は愛知県中央メーデーでフラワーデモのスピーチなど、コロナ禍でもできることを見つけて動いています。
フェミカンルームはオンライン2年目の展開。次回はその話をしましょう。