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 2021年12月22日、ラインファーマ株式会社が中絶薬の承認申請を行った。中絶薬とはミフェプリストン(MF)とミソプロストール(ML)の二剤を合わせた「コンビ薬」のことであり、1980年代にフランスで開発され、1988年に中国とフランスで承認された。MFは妊娠を継続するホルモンを抑制する薬で、これを1錠飲むことで妊娠は止まる。36~48時間後にML4錠を口の中で30分ほどかけて溶かして服用することで子宮が収縮し、妊娠産物が体外に排出される。この経過は自然流産と同じで、海外ではこの方法のほうがより自然に感じられるとして、従来の「中絶手術」よりも好む女性が多いと言われている。

 実のところMLは、単独でくり返し服用することで流産を引き起こせる「中絶薬」でもある。この方法もWHOは安全な方法として認めているけど、MFとMLを組み合わせた方がより確実により早く終わらせることができる(妊娠9週では98%が成功する……日本の治験の成功率が93%と低いのは、24時間以内に排出することを成功の条件にしているためだ)。MLは1錠30円程度ととても安いため、ML単独くり返し服用法の方が好まれている国もある。MFとMLのコンビ薬の原価は世界平均700円台なので、ML4錠を仮に3回繰り返したとしてもその半額ですむというわけだ。

 ML単独くり返し服用法は、中絶が禁止されていたブラジルの女性たちが1980年代に発見した方法だ。「妊娠に禁忌」とされている胃薬を見てピンときた女性たちが、中絶するためにMLを使うようになって違法の中絶による死亡率が激減したと言われている。この方法はクチコミで南米の他の国々にも広まっていき、やがて正規の医師たちもこの方法に目を向けるようになった。研究が重ねられ、容量や服用のタイミングが工夫されて、今ではWHOも認める内科的中絶(薬による中絶)の一つになっている。なお、MLは稽留流産(流産が途中で止まり、子宮内に一部が残っている状態)の治療薬としても使える。

 しかし、実のところ日本でもMLはすでに承認されている。ただし、中絶薬としてではなく、胃潰瘍や十二指腸潰瘍の治療薬としてだ。12月9日に厚労省の担当者と意見交換会を行った時に、日本でMLを中絶や稽留流産の治療に使えないのはなぜかと尋ねたところ、「製薬会社からそのような用途に使うという承認申請が行われていないからだ」との回答を得た。だけど、1錠30円の薬を中絶に使えるようにするために高額な治験を行う企業はないはずだ。稽留流産に対応するために手術するしかない現状は、女性の健康が守られていない。企業の申請を待つのではなく、厚労省の側が率先して動く必要があると主張したところ、持ち帰らせて頂くとの回答があった。でも、そう答えたのはそれ以上の追及を逃れるためだろう。これだけで、今後何かが変わるとは期待できそうにない。もっともっと声をあげていく必要がある。

 日本で採算がとれると踏んだ企業から承認申請が行われない限り、いくら世界により新しく、より良い避妊や中絶の手段が存在していても、日本には入ってこない仕組みになっている。しかも入ってきても、医師と結託して「薬価」をつけずに申請を出している。そうすることで医療保険の対象外になり、医師が自由に値段をつけ、患者が全額を負担する「自由診療」扱いになる。医師は高めの値段をつけ、製薬会社は儲かるというわけだ。日本の避妊も中絶も世界に比してバカ高いのは、このしくみのためである。ビジネスが優先されることで、女性の健康や権利は二の次にされている。

 ちなみに、今回の承認申請では「稽留流産の治療」は盛り込まれていない。つまり、本来、薬があればより安全に処置できると分かっていながら、今後も日本人女性は掻爬や吸引の「手術」を受けることになるのだ。

 日本において避妊も中絶も妊娠にも健康保険が使えず、すべて自費になっているのは、健康保険法の中で「疾病、負傷若しくは死亡又は出産」のみが保険給付対象とされているためである。イギリスやフランスのように、健康保険が使えたり、あとで償還されたりするシステムを作るには、法を変えなければならない。議員に声をあげてもらう必要がある。

 2021年の春の国会で、7名もの女性の参議院議員が通算13回にも渡って中絶薬や緊急避妊薬、不妊治療、女性のリプロダクティブ・ヘルス&ライツに関する質問を行ってくれた。女性の権利の観点から「堕胎罪」や「中絶薬」の話も飛び出した前代未聞の国会だったし、胸のすく場面も多々あった。その結果、5月に厚生労働副大臣が日本産科婦人科学会と日本産婦人科医会と会見し、7月に厚生労働省から両団体に、2012年にWHOが発行した『安全な中絶 第2版』で中絶薬と並んで安全な方法だとされている「吸引中絶」の周知を求める通知を出した。これらが実現したのは、議員に対するロビーイング活動と情報提供の成果だった。「情報」が鍵を握っていることを痛感した出来事だった。

 11月23日、「中絶薬の承認申請が12月下旬に行われる」というニュースが飛び込んできた時、「今、騒がなければ製薬会社と医師たちの思うつぼになる」と考えて、わたしはすかさず行動した。翌週に緊急オンライン学習会を開くことにして、できる限り広く周知した。学習会に集まったのは20数名ほどだったけど、終了後も盛り上がり、話がはずんだ。参加してくれた野党の議員から「院内集会」をしてはどうかとの提案が出て、超党派の集会にするために立憲民主党、社民党、共産党の議員に声をかけてもらうことになった。

 予定をすりあわせるのに一週間、じりじりと待った結果、金曜の夕方に、翌週水曜の午後なら三党の議員を招いて開催できるということが判明した。中四日、土日を除くと二日しか周知期間がなかったけど、必死に周知に努めた。その結果、ふたを開けてみたら定員50名の会場に60数名も詰め掛け、立ち見も出るにぎわいになった。

 三大紙をはじめ新聞記者も大勢参加した。インターネットのTV会社は一部始終を録画していき、後に全編を公開したので、その周知も行った。民法のテレビ局もカメラを回した。結局、この院内集会自体はほとんど報道されなかったけれども、この時、わたしの訴えた内容は「承認申請」後の各社の報道の内容に大きく影響した。

 「平均7百数十円の薬を使うのに、従来の中絶手術と同じ10万円以上もの値段をつけるなんてことがあってはならない」とわたしは強く主張した。
「1906年に日本に入ってきた古い搔爬を前提としている指定医師制度は時代錯誤的だ。中絶医療は進歩している。世界は変化している。今や国連の人権規約に女性の中絶の権利が書き込まれている時代だ。カトリックの国でも次々と中絶が合法化されているのは中絶がかつてとは違うものになったからだ。望まない出産に追いやられて罪に問われる女性を二度と出してはならない。中絶薬が入ってくることで、日本にも古い制度と法律を変えるべき時が来た。」

 ところが、法務省の担当者は「刑法堕胎罪の保護法益は胎児の生命と身体だ」という言葉を6回も繰り返した。うんざりして、わたしは切り返した。「法務省のいう胎児の定義は何ですか」。役人がびっくりした顔で「定義ってどういう意味でですか」と返してきた時、会場の女性たちが口々に叫んだ。「妊娠何週ですか?」「胚も胎児ですか?」「受精卵は?」その役人は六法全書を慌ててめくりだしたが、答えが書いてあるはずもない。わたしはとどめを刺した。「考えたこともないんですね」。役人は目を落とした。「中絶薬は妊娠4~5週でも使えるんです。まだ『胎児の身体』はないのですよ。」

 イギリスでは、BPASという中絶を提供している団体が自国内の緊急避妊ピル(モーニング・アフターピル)がフランスの5倍の値段であることを知って、値下げを要求するキャンペーンを行い、世論と政府の味方を勝ち取って値下げさせることに成功したという。

 知らなければ求めることもできない。海外と比べて日本の中絶の状況がいかに遅れているのか、世界では中絶が女性の人権であると認められていることを知り、日本女性の権利がいかに侵害されているのかがわかれば、わたしたちは声をあげられるようになる。

 アジュマ・ブックスから『中絶がわかる本』を翻訳出版する。世界のアクティビストたちの熱い思いとリプロダクティブ・ライツの基本が詰まった一冊だ。まずは知識をつけてほしい。そしてみんなで求めていこう。「安価で安全な中絶薬をアクセス良く!」

「中絶が分かる本」は全国の書店で、またはアジュマブックスのHPでお買い求めください。

2021.12月26日20時〜 産婦人科医師会が中絶薬を10万程度にと言いだしているために緊急出版イベントを行います。ご予約はこちらから(無料・要予約)→https://bit.ly/3yZgH4D

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塚原久美

塚原久美(つかはら・くみ)

中絶問題研究者、中絶ケアカウンセラー、臨床心理士、公認心理師

20代で中絶、流産を経験してメンタル・ブレークダウン。何年も心療内科やカウンセリングを渡り歩いた末に、CRに出合ってようやく回復。女性学やフェミニズムを学んで問題の根幹を知り、当事者の視点から日本の中絶問題を研究・発信している。著書に『日本の中絶』(筑摩書房)、『中絶のスティグマをへらす本』(Amazon Kindle)、『中絶問題とリプロダクティヴ・ライツ フェミニスト倫理の視点から』(勁草書房)、翻訳書に『中絶がわかる本』(R・ステーブンソン著/アジュマブックス)などがある。

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