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スクールフェミ 男が「産役」につくとどうなるか 〜センス・オブ・ジェンダー賞大賞『徴産制』〜

深井恵2022.01.12

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2022年始まりました。今年もよろしくお願いします。

さて、この冬休みの生徒への宿題の1つに、「読書1冊以上」と課していた。漢字の読み書きや文章読解の問題とは別に読書をあえて宿題にするのは、読書離れが加速する中、少しでも本に向かう時間を確保させたいからだ。スマートフォンやタブレット端末の普及で、漫画すら読まず、ゲームや動画と向き合う時間が圧倒的に多くなっている。一冊でもいいから自分の好きな本を読み、想像力を働かせる豊かな時間を過ごしてほしい。
と、生徒に読書を宿題にした手前、筆者自身もこの年末年始に本を読もうと、本屋に出かけた。まずは『週刊金曜日』で北原さんが紹介していた、「すとまとねことがんけんしん」(内田春菊著 ぶんか社)を購入しようと、書店の検索の機械で本のありかを調べ、「在庫僅少」の確認をして該当の書棚へ。だが、どう探しても見つけられなかった。
やむを得ず店員に尋ねると、「お取り寄せ」になるとのこと。残念…。そのかわり、最新刊の「あんころろん」(内田春菊著 高由貴子監修 ぶんか社)に遭遇することができた。おかげで、「私の知らない和菓子の世界」へと導かれ、楽しい年末年始のひとときを過ごすことができた(正月に「花びら餅」も楽しんだ)。
その『あんころろん』を購入しようと、レジで順番待ちをしていた時だ。「ソーシャルディスタンス」のために、長蛇の列ができていて、待っている列が「文庫最新刊」の棚まで伸びていた。その時、たまたま目に止まったのが『徴産制』(田中兆子著 新潮文庫)だった。
「じゃあ 男が 産んだら?」という挑発的な帯の言葉の横に「センス・オブ・ジェンダー賞大賞受賞作」と書いてあった(2019年に受賞していたことを、この時初めて知った)。裏表紙を見てみると、さらにそそられる言葉が続いていた。

「これから先の日本の若い男は、こんな風に言われ続けるのだ」
「子供を産んだ男は偉い。
子供を産んで働いている男はもっと偉い。
子供を生まずに仕事だけしている男は、男として不完全である。
子供を生まず自由だけ謳歌した男が、年を取って
『税金で助けてください』というのはおかしい。ヒコクミンである」(本文より)

どこかの前知事が、高齢女性に向けて失礼な発言をしたことを思い出す。これは読まないわけにはいかない。フェミのお金はフェミに。『あんころろん』とともに購入。2冊とも面白くて一気に読み終えた。
この小説は「徴産制」下を生きる5人の男性が、性転換手術をした女性として生活し、男性として生きていたときには味わうことのなかった理不尽な差別や矛盾を体験していく物語だ。
しかし、それだけに留まらない。女性として生活して受ける理不尽な差別や矛盾の体験を縦糸にしながら、各章ごとに巧みな横糸(様々な社会問題)が織り込まれていく。

第1章では、女性になっても容貌がいかついままの男性が主人公だ。可愛くてスタイルも良い女性がもてはやされるルッキズムへの問題提起がうかがえる。また、親の老後と後継者の問題も描かれていた。
第2章では、順風満帆の人生送って行った超エリート官僚男が、女性になったら妊娠したくてもなかなか妊娠できずに焦りまくる設定だ。不妊治療の問題を想起させる。
第3章では、核廃棄物処理の問題と第二次世界大戦下の「従軍慰安婦」を結びつけた状況に主人公を置いて描かれている。
第4章では、介護従事者へのセクシャル・ハラスメントの問題、セックスレス、さらなる性の多様性が感じられた。かわいらしい女性になった息子が介護に来ると、その尻や胸を触ろうとする父親が登場する。「セクハラ親父は死ななきゃ治らないか…」と暗たんたる思いで読み進めていたら、この父親、女性の格好したくて仕方がなかったと言って、息子に女性の格好をするのを手伝ってもらい、最後には、…おっと、あまり書きすぎるとネタバレなのでここから先は本を読んでいただこう。
第5章では、女性たちが生き生きと安心して生活できるテーマパークを作ろうと奮闘する人たちが登場する。コロナ禍で職を失い、心身ともに疲れ果てている女性たちが安心して生活できる居場所づくりを連想させる内容だ。

これらに加えて、食料自給率の問題がすべての章にわたって描かれているように思えた。異常気象による食糧危機は、近い将来起こりうる問題だ。食料輸入が思うようにいかなくなり、人工のサプリメントが頼りになる食料状況が作品を通して描かれていた。
さて、作者田中兆子さんとは一体どのような人なのかと「センス・オブ・ジェンダー賞」受賞の言葉をインターネットで調べて読んでみた。
その時の受賞の言葉がまたいい。「男性が女の子に変身するファンタジーに冷水ぶっかけてみたいなーと思ったことがきっかけです」「これまでの歴史において、社会規範が(時に国家が)『美しくあれ』『セックスしろ』『子どもを産め』といったことをもし男性が強要されたら、果たして男性はどうするのか? どうなるのか? ということを、5人の男性主人公を通して考えてみました。そして、『セックスや出産を強制される事の理不尽さ、グロテスクさ』を伝えたかったのですが、(中略)彼らが『男らしさ』を手放すことによって、より解放され、人と人との関係を築きあげていくことに喜びを感じていきました」。
コロナ禍収まらぬ2022年の始まり。逃げも隠れもできのいまの日本に生きる私たちに、閉塞感から抜け出す希望の光を与えてくれる小説『徴産制』。ぜひご一読を。

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