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棚卸日記 vol.3「私に値段を付けないで。」

爪半月2022.04.17

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今国会で成立が見込まれる女性支援新法にも関連する、緊急性の高い内容なので是非お読みください。

◆売春防止法第5条の廃止と、買春者に対する罰則規定◆

立ちんぼが逮捕されてないか気掛かりなのもあって、先日、夜22時過ぎの大久保公園に向かって歩いてたのですが、すれ違った男性に「お姉さんは遊べる人?いくら?」と声を掛けられ、心臓が止まりそうになりました。

私はスニーカーを履いて髪もまとめて、化粧もろくにしてなかったのに (つまり、現役時代のような、男性客に気に入られるための女性らしさをアピールする装飾は一切してなかったのに) 値段を聞かれ、恐ろしくなって早足で逃げました。

性産業を引退してからもう何年も経つのに、自分は未だに性的な商品として見られてしまうのか....と絶望しそうになりましたが、そうではないのです。彼らは、相手が誰であろうと、「独立した感情と尊厳を持つ人間」ではなく「性的な何か」としか捉えることができないのです。

値段を聞かれること自体は、出会いカフェや交際クラブで過去に何百回と経験してきて慣れていたはずだったのに、引退した今、買われる覚悟がない状態で値段を聞かれると想像してたよりずっと怖くて、怒鳴り返すとか、警察を呼ぶとか、そんなことはとてもできずその場を離れることで精一杯でした。逃げながら、その昔、公園の汚い多目的トイレで買われた日の苦痛が鮮明に思い出されて、自分の過去の記憶からも逃げるように一心不乱に歩き続けました。

恐怖を引きずりながら花園神社まで逃げて、嫌な動悸を抑え込むように階段に座り、消耗した感覚に苛まれながらしばらく放心してたのですが、(あの人はスーツを着てたけど昼間は会社に行ってるのか...) と考えたらますます恐ろしくなりました。

性産業は「社会の底辺」と蔑視されてきましたが、その底辺の世界にも容赦のないヒエラルキーがあり、その中でもなんの後ろ盾もない立ちんぼは最も権力を持たない存在です。

同じ女性を買うにしても風俗には行かず、路上に立つ女性を買う男性の心理には、不遇な女性を買うことでしか得られない種類の特殊な優越感を獲得したいという歪んだ欲求がある気がします。そしてその欲求の裏には、女性に対する強烈な劣等感が…

そんな男性が、朝は普通に通勤電車に揺られ、会社で仕事しているのか…この社会の中で同じ空間に溶け込んで社会生活を送ってるのか…と思ったら、何重にも恐ろしくなりました。

どう考えても、逮捕されるべきは彼の方です。

ところが、今国会で成立が見込まれる女性支援新法(赤旗の記事)では、売春防止法第5条が温存されるとありました。

第5条は「棚卸日記 vol.2 女性だけが責められる国」でも書きましたが、勧誘行為をした「女性」を罰する法律です。実際に声を掛けているのは男性であるにもかかわらず、性暴力の被害者である「女性」だけを罰するのです。逮捕されて罰金刑になれば前科がつきますが、女性たちに必要なのは懲罰ではなく適切な医療と支援です。

そして、罰せられるべきは買春者です。加害者更生プログラムも受けるべきです。

「児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律」では、相手が18歳未満であれば買春者は逮捕されます。これは、児童買春はいかなる理由であれ子どもに対する深刻な暴力であり、人権侵害だと認識されているからです。

それではなぜ、成人女性が受ける暴力は暴力と認識されないのでしょうか。

買春者の性暴力は金銭授受で正当化されてよいのでしょうか。

「…奴隷を罰することによって奴隷貿易をなくそうとしてきたようなものである。買われたり売られたりするあらゆる奴隷を罰するが買主を処罰しないままに放置したとすれば、奴隷貿易をなくすことができなかっただろう。同様に売春で何よりも利益を有しているのは買主である (1871年)」

これは、ビクトリア朝時代のイギリスのフェミニスト、ジョセフィン・バトラーの言葉です。

性暴力の被害者である女性を罰するのではなく、買う側の男性こそ罰せられなければならないはずです。

スウェーデンでは1999年から世界に先駆けて買春行為を禁止していますが、これは決して「国家による女性の貞操のコントロール」といった主旨ではありません。家父長制を温存させずに、女性の経済的自立を目指しての成立でした。同時にスウェーデンは性別賃金格差の是正に積極的に取り組み、2006年以降ジェンダーギャップ指数が5位を下回ったことがありません。

ところが、ジェンダーギャップ指数世界120位の日本はどうでしょう。買春する男性ではなく、権力を持たない女性を罰するようなセクシズムに満ちた法律を未だに温存させようとしています。

今国会で成立が見込まれる女性支援新法では、第3章の補導処分と第4章の保護更生は廃止される見込みですが、第5章も削除されるべきです。

そして、買春者に対する処罰規定が作られなければ、性売買が女性に対する暴力であるという認識が社会に浸透しません。

※「棚卸日記vol.2」と、この記事を読んで関心を持ってくださった方にお願いです。ダークツーリズム感覚で大久保公園に「見学」「観察」に行くのはやめてください。YouTubeなどで面白おかしくコンテンツ化し、それを収益化する人が増えていますが、人権侵害です。関心を持ってくださった方は、是非国会を注視して、今後の動向を見守ってほしいです。

◆世間の価値観に踊らされずに生きていく◆

話題は変わりますが、今年も「母の日ギフト」のプロモーションがわらわらと湧いて、店頭でもオンラインでも広告枠をジャックし始める季節が近付いてきました。

虐待家庭育ち、機能不全家族育ち、あるいは毒親育ちにとって、こういった親孝行を強要してくる社会的圧力を前に疎外感に苛まれることが増えるかと思います。

こうした社会的圧力は全力で拒絶したいし、なんとかして消費喚起して消費者にモノを買わせたがる商魂むき出しの企業の態度も批判していきたいです。

家族規範の押し付けと、大量生産大量消費に終止符を。

そして今この瞬間も、虐待されている子はたくさんいます。

この子たちが排除されずに、企業が打ち出す家族キャンペーンの眩しさに打ちのめされずに生きられる社会を目指したいです。

窒息しそうな社会規範を次世代に温存したくないと切実に願います。

以前、ある心理士が「虐待されてきた人、AC (アダルトチルドレン) はマイノリティです」と言ってて、それを聞いたとき、(なるほど私はマイノリティだったのか…) とすごく納得しました。家族関係に恵まれて育った人とは決定的に会話が合わないし、疎外感があったのですが、自分がマイノリティだと認識することで (なるほど、そりゃ疎外感あるわ)と納得できました。

自分がマイノリティだと気付くことができないまま、特殊な環境で特殊な親に育てられたことに劣等感を持ち続けて、「普通じゃない自分」に負い目を感じたり、「普通じゃない」ことで否定された気持ちになりながら、葛藤と混乱を抱えて生きてる人は、実際かなりいると思います。

自分がマイノリティだと気付くことができれば、もうそれ以上は「普通」や「世間並」との乖離に劣等感を覚えなくて済むようになります。目指す必要もなくなります。

虐待などの逆境体験で幼少期から存在を否定され続けてきた人の中には、混乱や不安定感が常態化した人も多いのですが、こうやって、自分がおかれた状況を少しずつ整理することが、混乱を緩和させる助けになると思います。なので私はこれからも私的なことを恐る恐る書いていきます。

そして虐待の世代間連鎖を防ぐためにも、トラウマ治療が保険適応化されるよう声をあげていきたいです。


◆Toxic Positivity(有害なポジティブさ)による二次加害をしないために◆

最後に、誰かに苦しさを打ち明けられたときの基本対応を紹介します。

・「死にたい」と言われたとき
誤「だめだよ!自分を大切にして!」
正「そうなんですね、つらいのに話してくれてありがとう。いつからそう感じますか?」

・「生まれてこなければよかった」と嘆く人がいたら
誤「そんなこと言わないで!生きてればいいことがあるよ!」
正「そうなんですね。どんなときにそう感じるのか、よかったら教えてくれませんか」

社会の中で誰からも大切にされて来なかった人に対して「自分を大切にして!」と励ますのは完全な二次加害です。また「そんなこと言わないで!」とネガティブな感情を否定してしまうと、打ち明けた人はそれ以上話せなくなってしまいます。まずは信頼して話してくれたことに対する感謝を伝えて、自分に聞く気持ちがあることを伝えてみましょう。いつからつらいのか、どうしてつらいのか、少しずつでいいから相手が気持ちを吐き出せるように聞いてみてください。根掘り葉掘り聞くのではなく、相手の言葉をできるだけ待ちながら、出てきた言葉に耳を傾けてください。

そして、アドバイスは禁物です。「もっと〇〇した方がいいよ」といった性格や思考の癖に対するアドバイスは、「今のあなたは〇〇ができてないよ」と、相手を否定するメッセージになってしまうことが多いからです。

以上は相談相手として二次加害しないための基本的な知識ですが、医療、福祉、法的な手助けが必要な場合は、利用できそうな制度はないか、専門機関を調べましょう。

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