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棚卸日記 Vol.15 Colaboに連帯します その2 「誰かの回復を伴走することの難しさ」

爪半月2023.01.09

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◆誰かの回復を伴走することの難しさ◆

「Colaboで支援を断られた」というエピソードを嬉々としてRTする人を見て途方もない気持ちに襲われています。こうやって大騒ぎしてる人たちは、一体Colaboに何人のスタッフがいると思ってるのでしょうか。無尽蔵にスタッフが出てきて、一人一人に同じだけ丁寧な対応ができると考えてるのでしょうか。2021年は1600人の相談があって、仁藤さんってひとりしかいないんですよ。

棚卸日記Vol.14 「Colaboに連帯します」で、限りある資源の中でどうしても優先順位を付けなきゃいけないとき、社会の中でもっとも選択肢を奪われてきた少女たち、そしてその中でも特に、自分から助けてが言えない子の声を補足しようと特別に配慮しているということについて書きました。

こうしたスタンスは人権について考えるとき基本中の基本なのに、あろうことか「支援する人を選別してる」などという批難が上がることに驚きを隠せません。
仁藤さんはサンドバッグじゃないし全ての被害者を救う救世主じゃないですよ。
そしてこうした対応は、本来なら国が人権保障の枠組みで取り組むべきことだという点を忘れている人があまりにも多いように感じます。

Colaboに繋がる少女たちの多くが虐待や性被害に遭った経験を持ちますし、中には解離を起こして攻撃的になる人もいます (言うまでもなく、これは自分を守るための反応です)。
本来ならば、専門資格を持つ心理士がチームを組んでトラウマ治療に当たる必要があるような深刻な被害経験を持つ相談者も多くいます。
Vol.14で、剥奪感のケアについて解説したように、仁藤さんは少女たちの人生から奪われてきた安心感を「当たり前」の状態に回復できるように、できる限りのことをやっています。ですが、言うまでもなくColaboで対応できるキャパシティには限界があります。

流れ作業でハイハイと相談内容を聞き流していいなら大量に捌けるでしょうけど、同行支援や心理的ケアはそうはいかないです。責任を持とうとすればするほど、対応可能なキャパシティには限界が出てきます。

とりわけ虐待経験のある人の対応には高い専門性が要求されます。
これらは、単にメサイアコンプレックスから「傷付いた少女たちを救いたい (そして搾取したい)!」といった気持ちの悪いモチベーションを燃やしている男性には到底理解できないことばかりですから、以下にいくつか引用します。

"被虐待児のなかには,他者が示すさまざまな表情のなかでも(悲しみや苦痛には鈍感である一方で)怒りの表情だけには敏感であったり,またとくに特定の表情が浮かんでいない真顔を悪意ある怒りの表情と誤って知覚してしまったりする子どもが相対的に多いことが示されています(e.g. Pollak & Tolley-Schell,2003)。これが示唆するところは,たとえ自身に対して温かいケアを施してくれるような他者が眼前にいたとしても,被虐待児は,その他者から歪んだ形で自身に対する無関心や悪意のようなものを読み取ってしまうことがあるということです(数井・遠藤,2007)。実際に,被虐待児では日常の対人トラブルがきわめて多いわけであり,このことは見方を変えれば,そうした子どもたちが,危急時におけるヘルプリソースとしての他者を身の回りから不当にも排除してしまう可能性が高いことを含意しているかと思います。"  (遠藤利彦編・著『入門 アタッチメント理論---臨床・実践への架け橋』)

ここに情動コントロール機能の脆弱さが伴うことで、被虐待児は関係性の貧困に陥りやすくなり、援助希求を出す力をさらに削がれてしまいます。
言うまでもなく、これは被虐待児本人の問題ではなく、社会の側の無理解に問題があります。

また、心理的逆転についての知識も必須です。

"複雑性PTSDのクライエントは、自己コントロールのしにくさに加え、③や⑦のように強い否定感や自責、恥辱感や絶望感をもっており、自分が助けてもらえるとは思ってないだろうし、助けられるに値するとも思ってない。それだけでなく、自己を放棄し、惨めな人生が相応しいとさえおもってる可能性が高い"  図表3-1 複雑性PTSDに追加的に起きる後遺症 (文献5)より

③きわめて否定的であり、慢性的な罪悪感と責任感、さらには激しい恥の感情の継続を伴う自己認識の変容。慢性的に虐待された個人(とくに児童)は、虐待のメッセージと外傷後の反応を、自己と自己価値の感覚の発達に組み込む。
⑦意味のシステムにおける変容。慢性的に虐待され、心的外傷を負った人は、しばしば彼らや彼らの苦しみを理解する人を見つけることはできないと絶望を感じている。彼らは彼らの精神的な苦痛から回復できないことに絶望している。
(松本俊彦編『「助けて」が言えない SOSを出さない人に支援者は何ができるか』嶺輝子著 「楽になってはならない」という呪い ーートラウマと心理的逆転)

また、関係性を築く中で、やっと安心感を獲得しつつある少女たちが「試し行動(自分がどの程度まで受け容れられるのかを探るために、わざと困らせるようなことをする行動)」を取るということも往々にあります。
トラウマについて予め専門知識を持っていないと、適切に関われなかったり、支援者自身も代理受傷して燃え尽きてしまうことがあります。


"慢性的なトラウマを抱えた人は基本的に、怒りを押し殺しています。
虐待の中で育った人は、たとえばしつけだと言って理不尽な暴力を受けたり、父が母を殴るところを目撃したり、言いたいことも言えずにいる母の情けない姿を見たり、幼い自分が他の家族の不満のはけ口にされたり⋯怒りを感じて当然なことをたくさん経験しているはずです。そしてその環境の中で自分の怒りを表現することは危険だったため、長いこと抑圧してきたのです。
人間は、安心できる関係の中で初めて、感情を表出することができます。ですから、重篤なトラウマ症状を抱えた方の最初の感情表出は、長く抑圧されてきた怒りとして、私たち支援者に向くことが多いのです。" (白川美也子著『赤ずきんとオオカミのトラウマ・ケア 自分を愛する力を取り戻す〔心理教育〕の本』)

Colaboの若年女性支援者養成講座でも言及がありましたが、こうした対応の難しさは相談件数を見ただけでは決して理解できないことかと思います。
多くの葛藤を抱え、直線的ではない回復に伴走するには膨大なエネルギーを必要とします。

また、Colaboは当事者団体ですから (「支援団体」と揶揄されることが多いですが、本来は当事者団体として活動をスタートさせています)、他の当事者を傷付ける言動があれば対応しきれないということも出てきます。
そこでやむを得ず苦渋の決断をすることもあるでしょう。
もちろん適宜介入し最善は尽くしますが、完全に状況をコントロールするとなればそれはまた別の問題があります。
パターナリズムに陥らないよう、自主性を尊重しつつサポートし伴走する、こうした事情の複雑さを一切理解しない人たちが「Colaboに断られた人がいっぱいいるらしいよ」「ひどいよね」みたいに断罪するのはあまりにも安直だと思います。

また、別の章から引用しますが、

"崇拝というレベルまで信じて頼ってくるかと思うと、一転して「大嫌い」「裏切られた」「傷つけられた」と攻撃的な態度に変化したりします" (白川美也子著『赤ずきんとオオカミのトラウマ・ケア 自分を愛する力を取り戻す〔心理教育〕の本』)

こうしたことは本当によくあります。もちろん、対面であればそうした相談者にも対応できますが、例えば遠方からの相談で、電話やメールなど遠隔で対応するときにこうしたことが起きると、そのまま「傷付いた!裏切られた!」と絶望され、離れてしまうこともあります。

トラウマを持つ人に対する対人支援に携わっていれば誰しも経験することではないのでしょうか。

こういう部分を理解せずに、救急病院に「診察拒否するのか!」と怒るのと同じようなトーンで怒ってる人たちは、どれだけColaboに対する要求が大きいのでしょうか。
アンチたちの「仁藤さんはこの子を支援しないんですか (ニッチャァ)」という眼差しは、「フェミは○○だんまりかよ(ニッチャア)」に酷似していて、本当にぞっとします。

何度も言うように大前提として、これは本来なら国が公助でやることだし、もっと遡れば国が福祉国家として正常に機能してればここまでColaboがやらなくて済んでることです。虐待を受けて家にいられなくなっても安全に保護してくれるシェルターが全国津々浦々にあればColaboは必要なくなりますから。

それとも、何がなんでも仁藤さんに試練を背負わせて全ての責任を全うさせたいのでしょうか?
え…国の責任は?
そしてそもそも仁藤さんに全てのケアをやらせたい人たちは搾取構造を解体しようって思わないんですか?

仁藤さんは若年女性支援者養成講座でも「同じような活動をする人や支援者がもっと増えて、Colaboが合わなければこっち、って選べるくらいになってほしい。風俗の店舗数よりシェルターや支援団体が多くなってほしい」と話していました。本当にそうだと思います。

搾取構造があるから被害者が出るんだわ。
搾取構造の温存と膨張を許してきた傍観者がなに石投げてんの?という気持ちでいっぱいです。

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爪半月

爪半月(そうはんげつ)

元『風俗嬢』
田舎で育児しながら通信制大学で社会保障を勉強中。

好きな言葉『人権』
嫌いな言葉『自己責任』
twitter @lunuladiary

 

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