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TALK ABOUT THIS WORLD ドイツ編 あのとき、何が起きていたのか

中沢あき2023.02.18

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前回のコラムでも触れたが、先日の2月1日をもって、ドイツでは、ほぼ医療や介護現場でのマスク着用義務を除いて、すべてのコロナ規制が撤廃となった。コロナ検査で陽性になっても隔離義務は無くなったし、そもそも検査義務もなくなったから、もうずいぶん長い間、どこも検査すらほとんどされていないと思う。思い当たる人、気をつけたい人が自分の意思で検査したりマスクをしたりするだけである。つまりは、従来の風邪やインフルエンザと同じ扱いになったということだろう。もちろん、コロナワクチンのことなど、もう話題にすらのぼらない。1月半ばに膝の痛みで家庭医を訪れたとき、カウンターに置いてあったのは、「インフルエンザ予防接種の推奨」のお知らせだけだった。

先月までは防塵マスクの着用義務があった電車の車内では、マスクをしている人の方が少数派になったが、咳をしている人がマスクをしているのはいいことだ。これを機に、ドイツでもマスクのエチケットが根付いたらいいな。

そんな中、メディアでは、過去3年にわたるパンデミックが及ぼした影響、コロナによる直接的な健康への影響だけではなくて、間接的な精神面での、特に子どもや若年層への影響や、その間のコロナ政策を振り返る番組や記事が次々に出てきている。

つい先日のとあるラジオの討論番組では、リスナーからのライブコメントでこんなものがあった。「コロナワクチンによる対策ばかりが取り上げられてきたが、そもそも3年も経って、どうしていまだに治療薬や治療法のことがもっと取り上げられないのか? たとえばイベルメクチンとか……」 すると、その男性のリスナーの言葉をさえぎるように話し始めたスタジオの専門家いわく「イベルメクチンは『とある医学雑誌』によれば、効果がなく、しかも毒性(!?)がある」。そしてそのあとはリスナーからの電話は切られてスタジオ内のコメンテーターの別のテーマの話し合いに切り替わってしまった。何が振り返るだ……。この姿勢、一年前と変わってないじゃん……。せっかくなら、その『医学雑誌』の論文とやらを詳しく名指しして説明してほしかった。何人もの周囲の人たちが実際にこの薬を摂取した身としては、「毒性」の話がものすごく気になるんですが。

と、あいかわらずのマスメディアの様相だが、そんな中でも、ワクチン接種がドイツで始まった頃から一貫して、その長短両面を報じてきたベルリンの地方紙、ベルリーナー・ツァイトゥング(Berliner Zeitung)は昨年12月4日付で、こんなヘッドラインの記事を出していた。「国はワクチン未接種者に謝罪すべきだ!」

昨年秋から同紙が続ける「コロナ・ディベート」というシリーズのうちの1本である。その記事を要約するとこんなだ。パンデミックという非常事態において、基本的権利を守る司法ですら弱腰になり、死の恐怖のシナリオを政府とメディアが煽り、まさに基本的人権を犯すものであった政策、特に2Gと呼ばれる、いわゆるワクチンパスポート政策によって未接種者が社会から除外、またはそれらの政策を批判する者が除外されるという状況が起きた出来事を、今こそ、「痛み」をもってでも向き合って分析し、論議しあうべきであるというものだ。

ああ、やっとこういう意見が表に出てきたか、と思った。昨年からコロナ政策が徐々に緩和され、ワクチンパスルールも解除となり、人々の間からだんだんとワクチンやコロナの話題が消えていくのを見ながら、あのすさまじかった隔離政策のことを皆はどう思っているのだろうかと考えていた。2Gや3Gは、ドイツ語で、geimpfte(接種者)、genesene(罹患者)、getestete(検査済み者)の頭文字を意味する。2は接種者と罹患者で免疫がある者、3はそこに加わる検査済みかつ陰性の者、これらの人が各所への立ち入りを許可されるか・されないかのルールだった。

このGルールがドイツで始まった2021年の夏、すでにワクチン政策が先行していたイギリスではブレイクスルー感染の症例が増えていることが報道されていた。すなわち、ワクチンには当初の謳い文句ほどの予防効果がない、効果は数ヶ月程度しかないのでは、という疑いと分析が出てきたのだった。にもかかわらず、ドイツの政府はワクチン政策とともにGルールを進め、マスコミとともに、「ワクチンで大切な人を感染から守ろう」とキャンペーンを繰り広げた。それを見ながら、ドイツの政治家やジャーナリストは英語が読めない人が多いのだろうかと思った。この情報のクローバル化時代にイギリスの情報がドイツに入ってこないのか?

くわえて、大手メディアに「ワクチンを打たない人は極右やネオナチ」とまでおおっぴらに言うジャーナリストたちが登場したときには、私は目の前の世界が信じられなかった。自分の頭がおかしくなったのかとすら一瞬思ったくらいだ。秋冬になって、伸びなくなったワクチン接種率に苛立った当時のシュパーン保健相が「未接種者のパンデミック」と発言したときも、それを真正面から批判するメディアは限られていた。

あの頃、この2G政策に反対していた連邦議会員は極右政党とされるAfDの他、左派党のザラ・ヴァーゲンクネヒトとFDP党のヴォルフガング・クビキに並ぶ少数の議員たちであった(ちなみにヴァーゲンクネヒト氏は従来の不活性ワクチンが出てくるまでは未接種を選ぶと言い、クビキ氏は3回接種したという立場であった)。彼らは、本当に防疫目的を目指すなら、1G(alle getestet)つまり全員に検査義務づける方が有効で理に適っていると主張していたのだが、マスコミは何度も彼らを「反ワクチン」と書き立てた。

公共放送をはじめとする大手のメディアがこうだったのだから、当然それを受け取る多くの人たちが、同じことを口にし出した。今から思うと、とても現代の話とは思えなくて今でもゾッとするが、ワクチンパスポートがない市民は路上で逮捕されて罰金を払わされる法律まで連邦議会では審議されていたのだ。実際、隣国オーストリアはその法律を実施した。2週間だけの施行だったが……(オミクロン株に置き換わって意味がなくなったというのが、解除理由だった)。

その後、ワクチンは予防効果よりも重症化防止の効果があるのだという話が報道されるようになり、ここ半年ほどだろうか、ドイツの大手メディアでも、少しずつではあるが、ワクチン後遺症で苦しむ人々の記事も出るようになった。それらを見ながら思う。1年前、未接種者を糾弾し、反社会者扱いした人々は、今、何を思っているのだろうか。言ってみれば、いまだに通常の臨床試験期間は終わっていない製品なのだから、今になってわかることがあるのは当然のことである。だからこそ、いや、自分の体についての選択権が守られるべき権利のもとでは、すべての未接種者を「反ワクチン」扱いしたことはどうしたって間違っている。あれこそ、科学的根拠に基づかない、差別や迫害であったと思う。そしてそんな動きに人々が巻き込まれていったことは、メディアリテラシーの恐ろしさだと。人は、受け取る情報によってこんなにも違う世界を見るものなのかと。

国によってパンデミックが終了とされた今、国もマスコミも社会も、冷静にこの3年間のことを分析してあきらかにすべきである。ベルリーナー・ツァイトゥングのこの記事によれば、連邦議会ではこれらのコロナ政策についての調査委員会が設立されるべきと提議されたそうだ。もっとも議員の多くは、この政策に加担していたのだから実際にどこまで踏み込んだ分析がなされるかは、特にこのウクライナ戦争の最中にあってはあやしいところだが、せめてこのベルリーナー・ツァイトゥングのような心意気のあるメディアが頑張ってくれることを祈る。



写真:©️ Aki Nakazawa
コロナ政策の終了とともに、街のあちこちにあったコロナ検査所も消えていきます。よくお世話になった検査所のテントが撤去されて更地になっていたのが、何か象徴的に見えました。

ベルリーナー・ツァイトゥングの記事はドイツ語のみですが、翻訳ツールなどでも読めますので、リンクを貼っておきます。
コロナ:国はワクチン未接種者に謝罪すべき!」執筆:ジェシカ・ハメッド
「コロナ対策への批判者に対する不当な扱いについて、対話するときが来た。」

 

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中沢あき

中沢あき(なかざわ・あき)

映像作家、キュレーターとして様々な映像関連の施設やイベントに携わる。2005年より在独。以降、ドイツ及び欧州の映画祭のアドバイザーやコーディネートなどを担当。また自らの作品制作や展示も行っている。その他、ドイツの日常生活や文化の紹介や執筆、翻訳なども手がけている。 

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