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日本初の経口中絶薬メフィーゴパックはゴールデンウィークが始まる直前の4月28日に承認され、公開された製品への「添付文書」には、しっかり「劇薬」の文字が刻まれていた。

ところが、パブリック・コメントの時に「資料」として添えられていた「添付文書(案)」からは、この二文字が消えていた。「劇薬って書いてあったよね~?」と私は友人たちと確認し合い、「私たちの主張が通って消したんだろうか?」などといぶかしんでいた。

でも、そうではなかった。どうやら、パブコメの時には目をひかないようにそっと隠しておいたらしい。パブコメが終わり、承認した後になって、「最終版ではやっぱり劇薬扱いにしました~!」というのは後出しじゃんけんか、たちの悪い詐欺のようなものではないか。しかも、きちんと「発表」さえしていない……誰も気づいていない、報道もされていない。

さらに、5月10日に日本プレスセンタービルで行われた日本産婦人科医会(以下、「医会」)常務理事の第174回記者懇談会の資料によると、「母体保護法指定医師制度のもとで厳格に運用する(中期中絶薬プレグランディン=成分名ゲメプロストと同レベルの薬品管理)」ことを医会はずっと主張してきたが、結果的に(なぜかは書いていない)「ゲメプロストよりも厳格な薬品管理となった」というのである。
「より厳格」になったということは、ゲメプロストの時にやっていたその他の管理はすべて継承しているということなのだろう。これは超安全で超必要とされている薬に対する扱いではない!

さらに医会は、「国内で初期人工妊娠中絶の大半は無床【つまり、入院施設のない】診療所で行っているので、無床診療所でも安全に外来運用していきたい」と主張し続けてきたそうだ。「国内治験では入院運用であったため、発売当初の約半年間は、有床施設限定で入院もしくは外来運用を医会は要望した」とのことで、結果的に、「有床施設限定で入院もしくは中絶が完了するまで外来院内待機の運用となった」という。

これについては、母体保護法指導者講習会で次のようなタイムスケジュールで服用する例が示されている:

平日9~17時が診療時間の診療所で、
・「1日目は9~17時のどこかでミフェプリストン1錠を指定医の面前で内服」
・「3日目は9時に来院してもらい、すぐにミソプロストールを指定医師の面前で内服内服する【両頬と⻭ぐきのあいだに2錠ずつはさんでそのまま溶かし、30分 間たったら残りをのみこむバッカルと呼ばれる服⽤⽅法】する」
・その結果、9割は8時間以内(17時まで)に胎のう【妊娠組織】が排出される。それまでに排出されなかった人については、翌日以降に外科的処置を行う

……というのである。なお、【 】内の説明は引用者による。
「翌日以降に外科的処置」と書いてあるが、まさか……17時のラッシュアワーにいったん帰宅させるつもりだろうか?そうだとしたら、翌朝も再 びラッシュアワーの「通院」になる??満員電車の中で「排出」が始まってしまったら、いったいどうしたらいいのか。患者が何を経験するのか、果たして想像をめぐらしたのだろうか?自分たちの勤務時間の都合しか考えていないのではないか!?

いや、おそらくまさにそうなのだ。冒頭に紹介した医会常務理事の説明によると、ミソプロストール服用後は、胎のう排出まで最大8時間「院内待機または入院」することになっている。それだけでも当人にとっては拷問のような経験になり、トラウマを受ける人だって出てくるのではないかと心配になる。考えてみてほしい。待機させられる場所の大半は、入院用のベッドがある産婦人科の医院か病院だ。そこそこの規模はあるだろうから、朝から夕方までいたら妊婦や新⽣児を連れた⺟親、婦人科の病気や不妊治療のためにやってくる通院患者や入院患者が大勢周囲を出入りすることだろう。

しかも医療施設によっては、どんな類の患者かなどと配慮することなく、いろんな女性たちと一緒の大部屋に入れられてしまうかもしれない。仮にドアを閉めて一人で(あるいは同じ中絶患者たちと)とじこもっていられる場所があったとしても、トーンの高い赤ん坊の泣き声や子どもの声、幸せそうに歓談する笑い声なども聞こえてきそうである。

実際、まさに私はそうした経験をしたことがある。流産した時のことだ……。
中絶後、すぐに再び妊娠してしまった私は、必死の決意で「今度は産もう」と心決めしていた。幸い(と言えるのかどうか、今になってはわからないが)、中絶後に罪悪感で苦しむ私にずっと寄り添ってくれていた相手の男性は、「今度は結婚して産もう」と言ってくれた。それなのに、12週目に入ろうとしていた直前の日曜の夜遅く、住んでいたアパートのトイレに鮮血が広がった。病院に電話したが、「明日の朝、来てください」と言われて、眠れぬ夜を過ごした。翌朝、受診したとたんに「流産です」と宣告され、そのまま「搔爬手術」を受けることになった。中絶した時に行ったさびれた個人医院とは別の「大病院」の産婦人科だった。

嘆き悲しむ間もなく、すぐに手術室に連れていかれ、麻酔をかけられた……そして麻酔から徐々に目覚めていった時、私の目の前に広がっていたのはパステルカラーの動物の絵が描かれた白い壁紙だった。しかも、隣の部屋からはなにかの音が聞こえてきた……それが数人の女性が談笑する声であり、それを貫くように響く赤ん坊の泣き声だとわかった瞬間、私は腹の底からしぼりだすような悲鳴をあげた。看護婦(と当時は呼んでいた)が数人かけこんできて私は押さえつけられ、なにかを注射された(おそらく鎮静剤だったのだろう)。再び意識がぼやけていくのを感じながら、私は心の底から誓った。「流産した女を、たった一人で、こんな環境で目覚めさせるだなんて、おかしい。これはあまりにも残酷だ。許せない。私は死ぬまでに絶対、この不当な仕打ちを訴えてやる」と。

それは、私が「産科的暴力」に目覚めた瞬間だったのだ、と今になればわかる。産科的暴力とは、「妊娠した人が医療従事者から虐待を受けた事例」のことを指し、典型的なのは「出産時」に痛みを与えられたり、痛みを取る手段があるのに与えてもらえなかったり、望んでいない会陰切開などの必要不可欠ではない医療的な介入を無断で行われたりすることだ。心を傷つけるような言葉がけや、屈辱的な格好を強いられることなども入る。お産だけではなく、中絶時の「嫌な思い」をしたことも、ほぼすべてあてはまる。

中絶した時、私は「自分が悪い」と思い込んでいたので、どんな嫌な思いをしても「自業自得でしかたがない」ことだと自分を納得させてきた。だけど、知識をつけた今の私は違う。

もし今の私が「中絶」を必要としていたら、果たして中絶薬を望むだろうか? 上述のような経験をしているからこそ、私は「入院して飲むなんてありえない」と強く思う。なぜなら、中規模から大規模の入院施設のある産婦⼈科は「中絶」や「流産」をした人にとって、とてもつらい環境であることを嫌というほど思い知らされたからだ。「中絶」に偏見を持っている医師や看護師の中には、わざと意地悪なことを言ってくる人もいる。「二度と中絶などしないと思い知らせるためには、少々痛い思いをさせるくらいでいい。罰を与えた方がいいのだ」と私に言い放った医療者もいる。

しかも、入院(あるいは胎のう排出までの最長8時間の院内待機)かどうかとは別に、薬を用いる中絶はそれ自体に時間がかかるし、今回、医会が採用した薬の服用法では通院回数も増える。最低でも、第1薬を服用するための通院が1回あり、その2日後に第2薬を朝に服用して待機するために多くの人はまる1日がつぶれる。それでもうまく排出されない場合には、さらにその翌日以降に再び外科処置を受けに行かなければならないし、その1週間後には「確認」のためにもう一度通院するように言われるのは必須だ。それなのに、日帰り手術で終わる外科的処置と同じお金を払わなければならないというのなら、いくら中絶薬の方が「より自然」に感じられるから望ましいと考えていたとしても、きっと私は諦めて外科処置の方を選ぶだろう。同様の判断を下す女性は少なくないだろう……そうなると、いつまでも「入院・待機」要件を解除できるだけの安全を証明する「データ」が集まらないので、永遠にこのやり方が続く恐れもある。

通院(入院)しての服薬は、中絶薬の最良の部分を奪ってしまう。「自己管理」と「プライバシーが守られること」、そしてできる限り中絶を⽇常 ⽣活の⼀部として捉え、「ノーマライズ」することだ。

海外ではすでにそれが実現されている。たとえば、日本より一カ月半早く、今年の3月8日(女性デーに合わせたという粋な扱いだ)に中絶薬が承認されたアルゼンチンでは、承認の前に中絶薬の「テレヘルス(遠隔医療:テレメディシンと呼ばれることもある)」が試行されており、従来の方法と比べても安全性と効果には全く問題がないという結果が出ている。世界的に有名な医療論文雑誌のランセットに載っていた記事なので、エビデンスは強力だ。

実際、妊娠早期のテレヘルスは、2020年の3月末に国際産婦人科連合(FIGO)が呼びかけた⽅法でもある。ラッキーだったのは、ミフェプリストンとミソプロストールをセットにした「中絶薬」が、その前年、2019年のWHOの必須医薬品モデルリスト改訂の際に、補完リストから中核リスト(必須中の必須の薬のリスト)に移されていたことだ。中核リストに入った薬は、患者が自己判断で飲むことができるほど安全でありながら効果が高い。中絶薬は、家に常備しておく胃薬や頭痛薬と同様の扱いができる薬であることが証明されていたのである。実際、WHOは妊娠初期の中絶は「セルフケア」だと位置付けており、「常備」することも勧めている。

そんな扱いなので、FIGOは2020年3月、パンデミックのさなかにロックダウンした各国政府に対し、中絶を求めている人々に「時を待てない必須のケア」である中絶を届けるために、電話やインターネットを使ったオンライン診療を通じて薬を処方して、当人の自宅に薬を郵送し、自分で中絶を行う当⼈にはていねいに飲み⽅と注意点を説明し、24時間対応の相談先を準備することを呼びかけたのである。この「自己管理中絶」をコロナ禍が最もひどかった最初の1年間に試してみたところ、対面の診療をする従来法よりもはるかに好評で、合併症が増えるわけでもないことが、この⽅法を採⽤した国々のデータで証明されたのだ。

どうやら医療者の側も、対⾯診療の時のようにエコーなどの器具に頼れないので、その分、問診がていねいかつ慎重になり、中絶する当人も「成功させたい」ので、きちんと指示を守ったのだと考えられている。優れた安全性と有効性が確かめられたのに加えて、「当事者のプライバシーも守れる」素晴らしい方法だと高い評価を受けることになり、FIGOは「パンデミックが終わっても、この方法を恒久化することを推奨する」との声明を2021年3月に出した。(ただし、当人が望んだ場合には、もちろんクリニックで服薬したり、外科処置を受けたりする選択肢も残されている。)イギリスやフランスなどの国々では、永久的に中絶薬のテレヘルスが実施されることになった。

メフィーゴパックも当然、こういう扱いにすべき薬なのだ。なのに、日本は母体保護法指定医師のみに限定し、何度も医療施設に赴いて診察を受け(おそらく内診や経腟エコーも当たり前のように行われるだろう)、指定医師の面前で服薬し、中絶(流産)が終わるまで居心地が抜群に悪い医療施設に留まることを強要され、10万円を要求される。

そんなことがあってはならない。リプロダクティブ・ヘルス&ライツは普遍的な人権であり、日本で暮らしているというだけで人権侵害が行われ続けていくのを我慢するのはやめよう。一緒に「ノー」と声をあげていこう。


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塚原久美

塚原久美(つかはら・くみ)

中絶問題研究者、中絶ケアカウンセラー、臨床心理士、公認心理師

20代で中絶、流産を経験してメンタル・ブレークダウン。何年も心療内科やカウンセリングを渡り歩いた末に、CRに出合ってようやく回復。女性学やフェミニズムを学んで問題の根幹を知り、当事者の視点から日本の中絶問題を研究・発信している。著書に『日本の中絶』(筑摩書房)、『中絶のスティグマをへらす本』(Amazon Kindle)、『中絶問題とリプロダクティヴ・ライツ フェミニスト倫理の視点から』(勁草書房)、翻訳書に『中絶がわかる本』(R・ステーブンソン著/アジュマブックス)などがある。

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