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第8回 純粋で不器用なある「マモルくん」の愛の物語

牧野雅子2015.08.25

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DV加害者のV氏は、30代後半、中堅どころの会社の中間管理職。本人曰く、まじめで職場での評価は高い、らしい。パートナーと別れた後も、自分が加害者だということを忘れないために、性暴力関係のシンポジウムに出かけたり、関連本を読んだりしているのだという。
以前も書いたけれど、あちこちで加害者の話を聞いているんですよ、と言っているせいか、加害当事者の方から、話がしたいとやってくることがある。彼もそうした一人。

なぜ、わたしに話をしようと思ったんですか?
「もう、繰り返したくないんですよ。彼女のことは、本当に好きだった。なのに、傷つけてしまった。忘れてはいけないと思います。その戒めもあって」
加害者カウンセリングには?
「行ったことはないです。っていうか、もう、自分が悪いって分かってるんで。彼女は全然悪くない。悪いのは自分。100%自分が悪い。それに、繰り返さないと分かっているし」
分かっている? なんで分かるんですか?
「懲りましたから。彼女を失って、彼女の存在の大きさが分かった。一人になって、本当に辛かった。それにもう、彼女はいないわけですし」

パートナーがいないから暴力は振るわないって、根本解決になってないですよね? 自分がやったこと分かってます? それに、さっきから言っているのは別れた辛さであって、DV加害者としての反省じゃないでしょ、といろいろツッコみたかったが、苦渋に満ちた表情を浮かべて、ただ今ハートブレイク中につきその話題には触れないでくれ的な空気が醸し出されていて、核心に触れる質問がしにくい。

V氏は、自分が手を出した、とは言わなかった。殴ったとも、暴力を振るったとも言わなかった。自分がどんな加害行為をしたのか、具体的なことは一切話さなかった。ただ、「傷つけてしまった」と言うだけ。
何を言っているのかが曖昧な上に、傷つけて「しまった」と、まるでそんな意図はなかったとでもいうような、弁明のニュアンスまで付け加えられている。傷ついたのは彼女が傷つきやすい質だったからと、問題を被害者になすりつけているようでもある。傷つけたと、自分を主語に能動態で語りつつも、そこには責任を回避しようとするずるさが見える。

そもそも、「傷つけた」という言葉自体、V氏自身の言葉ではないのだった。元パートナーの弁護士から、「あなたがどれほど彼女を傷つけたか分かっているんですか」と追及されて、渋々受け入れた言葉だ。被害者が自分の傷を開きながら、血を流しながら語った言葉。それを、自分が内から絞り出したかのようなふりをして語っているのだ。被害者の言葉を奪っていると言ってもいいかもしれない。

V氏の「傷つけてしまった」という語りに、甘くロマンチックな雰囲気が漂うことも、聞いていてモヤモヤする理由の一つ。そのうち、こんな風にまで語り出したのだ。「彼女を本当に愛していた。問題は愛しすぎたことだった。ボクの不器用さが彼女を傷つけてしまった」。
暴力を振るうDV男の物語が、純粋で不器用なある男の愛の物語にすり替わっている! いやいや、アンタが暴力振るったんでしょ、勝手に愛の物語に書き換えるなっちゅーの! ああ、ホント、油断ならない。

V氏は、最後まで、自分がパートナーに何をしたのかを語らなかった。二人でいた頃の美しい思い出をうっとり話し、別れた後の自分の辛さを切々と訴え、もう繰り返さないと、反省の弁を述べる。
ここで、どうしても重ねてしまう「語り」がある。8月14日に発表された「安倍談話」。戦後70年を迎えて出された総理大臣談話の、語り方や姿勢、相手に対する態度が、DV男の語りになんと似ていることか。

V氏が言外に言いたいのはこういうことなんだろう。
DV加害者と見られているボクですが、本当は違うんですよ、二人は愛し合っていましたし、今も自分は彼女のことが好きです、愛しすぎたのが問題でした、ちょっとした行き違いで彼女は去って行きましたけど、ボクの愛の物語をDVという言葉で汚されたくないです、それでも被害者の気持ちを受け止めて加害性を背負って生きていこうとするボクって偉くないですか、他の加害者と全然違うんですよ、一緒にしないで下さいよ、それどころか褒めて欲しいくらいですよ。
残念でした。わたしが話を聞いてきた性暴力加害者たちは、みなさん、同じようなことをおっしゃいます。むしろ、どどん! と力強く加害者認定させていただきたいくらいです。

自分の暴力行為を自分の言葉で話さず――ということは、自分の加害行為を直視せず――、相手の感受性のせいにして、そのつもりはなかったとほのめかし、それで反省してます、繰り返しません、だって相手と別れましたから、なんて言われても、説得力ないですよ、Vさん。キツいかなと思いつつも、時間も押してきたので、そう、言ってみた。そしたら、返ってきた答えが、なんと、「守れなかったこと、本当に反省してるんですよ」。
えええっ? 守るって? 守れなかった、って? 暴力を振るった本人が、それ、言う?
「守れなかった、力がなかった」
守るって、どういうことですか? 何が、守るということですか? 何を、守るんですか?
「生活を、ですね。二人の。踏みとどまるべきだった。別れるんじゃなかった。やり直す勇気が足りなかった」
ああ、振り出しに戻る、のキモチ……。
makino20150825.jpg

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牧野雅子(まきの・まさこ)

龍谷大学犯罪学研究センター
『刑事司法とジェンダー』の著者。若い頃に警察官だったという消せない過去もある。
週に1度は粉もんデー、醤油は薄口、うどんをおかずにご飯食べるって普通やん、という食に関していえば絵に描いたような関西人。でも、エスカレーターは左に立ちます。 

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