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「彼女を守る」って、具体的にどういうことですか?

牧野雅子2016.04.26

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 付き合っていた女性から別れを切り出された、というI氏(40代)。プロポーズをしたのに、受けてくれなかったばかりか、別れて欲しいと言われた。彼は、もう、一生結婚はムリかもしれない、と肩を落とす。これまでにも、付き合った女性はいるが、どの人とも結婚には至らず、どのケースも女性の方から別れを切り出されている。

「君を守る、って言ったのに。幸せにするから、そう言ったのに。なんで、ですかね。女の人って、みんなそうなんですかね」
そう、って?
「プロポーズしたら逃げる」
 みんな、じゃないでしょう。この世に結婚している女性は大勢いるんだし。
「自分に言わせればみんな、ですよ」

 気持ちをぶちまけるにしても、なんでそこで、「女」をひとくくりにするかなあ。その後も、Iさんは「女の人って」と、持論を繰り広げ、わたしは、見たこともない彼女さんに「別れて正解」と声をかけたい気持ちになっていった。

 結婚相手には同性から評判がいい人を選ぶべし、なんて言われることがある。女にモテる男が、必ずしも結婚相手にふさわしいとは限らない。モテたいがために女に優しくする男なんて山盛りいるからね。
 I氏は、男性の、とりわけ年長男性の覚えがめでたい。彼は、職場の男性たちから、結婚するならIみたいなのがいいぞ、いいダンナさんになるぞ、と言われている。どんな小さな約束でも守るし、後輩の面倒見もよく、何よりまじめ。Iがまだ独身だとは、女たちは男を見る目がない、とすら言われている(らしい)。その評判の根拠はといえば、常に上司や先輩たちの顔を立て、飲み会の誘いは断らず、いつでもどこでも空気を読んで、痒いところに手が届く立ち回りをして……という、男社会のルールにどれだけ忠実かっていうものだというのが、なんともうさん臭いのだけど。

 ところで、プロポーズの言葉の、彼女を守るって、具体的にどういうことですか?
 「うーん、話を聞いてあげる、とか」
 聞いてあげる、って、どういうことです?
 「どういうこと、って聞かれても。えーっと、その通り、言った通りなんですけど。彼女の話を聞く、っていう」

 ちなみに、「彼女を守るってどういうこと?」という問いに、「彼女の話を聞いてあげること」と答える男性は、I氏の他にも何人か知っている。なんで話を聞くことが守ることになるのか釈然としないのだけど、話を聞くだけで守ったことになるんなら楽だなあ、いやいや、話を聞くのは大変よ、本当に聞くこと出来ている? とも思ったり。

 話って、たとえばどんな?
 「最近だと、男性の上司から仕事のミスを指摘されて、その時、『どうせ女は』『だから女は』って言い方をされた、ミスをしたのは女だからじゃないのに、差別的な扱いをされて悔しい、そういう話だったと思います。でも、自分には、聞いてあげることしかできないから」
 聞いてあげることしか? しか、って?
「だって、他に何も出来ないじゃないですか。仕事なら上司の言うことは絶対なんだし、彼女は部下なんだし。まだまだ日本の会社は男社会ですよ。どうせ女はって言われるのも仕方ないですよ。たぶん、彼女にも甘えたところがあったんだと思います。悔しかったら、仕事で実力をつけて見返せばいい、会社ってそういうところですよ。甘えは通用しない。それを彼女は分かってないんだと思います。仕事のミスを指摘されて、その言い方が差別的だって言われても、それはね、違いますよ。仕事とはそういうものです。今まで積み重ねられてきたルールみたいなものがある。たしかに、男女平等は理想ですよ。でも、いくら理想を言ったところで、男は仕事、女は家事や子育てっていうのは、現実を見れば分かるように事実としか言いようがない。それが差別だって言われても、そういうふうになっているとしか言えないですよ。差別じゃなくて事実なんですから」

I氏は、一気にまくし立てた。これまで、黙って彼女の話を聞いていたことの反動のように。女性に対する差別心丸出しのこの話、男性が聞いてもおかしいと思うんじゃないかしらん。考えていることもすごいが、こんな話をわたしにする、そのこと自体もす・ご・い。もしかして、彼女に言ったんですか?
 「まさか。言わないですよ。いくら正論でも、彼女が気を悪くするでしょう。本音はね、言いたいですけどね。男社会でやっていきたいんだったら、男と同じようにしろ、と」
 じゃあ、彼女が男性と同じように仕事をしたいと言ったら?
「女なんだから、ムリですよ」

 しばし、口が開いたままになりましたよ。これがI氏の言う「守る」ってこと? 表面上はにこにこして話を聞いているけれど、それは単なるポーズで、女性蔑視の本音がいつ飛び出すか分からない。このまま進めば、いきつくところはたぶん、DV。彼女は、それに気付いて、I氏から離れることにしたんだろう。
 I氏がいつも女性に別れを切り出されるっていうのも、さもありなんって感じ。っていうか、ちょっとは過去から学んでよね。

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牧野雅子

牧野雅子(まきの・まさこ)

龍谷大学犯罪学研究センター
『刑事司法とジェンダー』の著者。若い頃に警察官だったという消せない過去もある。
週に1度は粉もんデー、醤油は薄口、うどんをおかずにご飯食べるって普通やん、という食に関していえば絵に描いたような関西人。でも、エスカレーターは左に立ちます。 

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