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TALK ABOUT THIS WORLD ドイツ編 保育園というインフラの不全(前編)

中沢あき2023.10.25

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子どもにご飯を食べさせ、保育園で食べるおやつをタッパーに入れ、自分も朝ごはんをかきこみ、とバタバタやっている時に「ピーン!」という携帯のメッセージ着信音が聞こえると、ドキッとする。またか?

携帯を手に取ると、保育園の保護者グループチャットの投稿か、または園長からメールが届いている。「人員不足」のタイトルの場合はこうだ。「今日は保育士の数が足りないため、可能な限り、登園を控えてください。または早めのお迎えをお願いします」。「保育の停止」のタイトルの場合はこうである。「今日は保育士の数が足りないため、半分のクラスは閉鎖します」

これを見るたび、ため息とともに、頭が禿げそう、と思ったりする。

我が子が通う保育園は、8月に新学期が始まって以来、およそ2週間ごとにこのお知らせが来る。数が足りない、つまり保育士たちが欠勤するということなのだが、今年の8月はやや肌寒い日が続き、ひどい風邪が流行っていると巷で聞いていたので、初めのうちは仕方ないとは思っていた。とはいえ、先生たちは次々に倒れていくのに、子どもたちは元気なのはめずらしいなあと少し不思議に思っていた。

とはいえ、この保育園の人員不足による自宅待機要請と閉鎖は夏休み前にも何度も起き、さらに今年の春には保育士たちの大規模なストライキで何回か休園になったから、保護者たちの不満はかなりのものだった。病欠もストライキも働く人の権利だからとはいえ、いい加減にしてくれ、という本音は皆、なんとか飲み込んでいた。

この保育園に限らず、現在ドイツでは全国で保育士不足の状態が何年も続き、それも年々酷くなっている。一つには保育士の雇用条件が妥当でないとのことで賃金は上がり(といっても、彼らの賃金はそこまで低いわけではなく、もちろん最低賃金のレベルよりは随分と高い)、改善はされていっているはずなのだが、とにかく成り手がいないらしい。もう一つの原因は、保育士一人当たりの保育児童数が法律で決まっていて、この法定ルールがネックになって、人員不足がなんらかの理由で突然起きても、では今日だけは、という感じで登園できる児童の数を融通することができないことである。この保育児童数は州によって違うのだが、我が州は3歳以上は保育士1名で25人まで、また2歳以下は10人に対して2名の保育士、などと決まっている。ので、わりとゆるいほうであるのだが、それでも現在、特に市立の保育園ではどこも慢性的に保育士不足だという。

春には、うちの子どものクラスの保育士が一人辞めた。遠い地区から通っていた人だったのだが、自宅の近くに勤務先を見つけたので、というのが理由だった。子どもたちに好かれ、うちの子どもも大好きな先生だったので残念だったが仕方ない。その後釜は一向に入ってくる様子はなく、「来年度は人手不足がもっと深刻になるので、保護者のご理解をお願いしたい」と園長からメールが来た。新学期が始まる前にも、州の家族相から保護者に向けてメールが来た。いわく、保育士不足の状況は深刻であり、大変な状況ではあるが、保護者の皆さまにご理解をお願いしたい、と。でもさ、コロナ禍の頃から、いっつも「ご理解お願い」メールばっかりで、一向に改善される気配がないんだよね。

いずれにしても、我が子の保育園は基本的に人員不足で新学期がスタートした。後釜の保育士はまだ来ず、1年間研修生として週2日来ていた女性は他の園に移ってしまい、別の研修生が来たらしいのだが、その研修生は我が子いわく病欠だとかでずっと来ていないらしい。さらに産休だか長期病欠だかの先生が他のクラスにいて、さらに園長もこの10月から出勤が半分くらいになり、代わりにヘルプの保育士さんが1名入るらしいのだが、不安になる話ばかりである。

この「人員不足」のお知らせが来ると、これが1日で済むわけではなく、たいがい数日から1週間と続く。このお知らせが保護者のグループチャットに来ると、これまでは複数の保護者たちが「では今日はうちは自宅待機で」「うちは今日は絶対に休めないけど、代わりに明日は自宅待機にする」などやり取りして互いに融通していたが、どの家庭もほぼ共働き。たとえホームオフィスでも子どもがいれば仕事なんぞたいしてできるものではない。子どもは子どもで、保育園で他の子どもたちと大いに騒げないせいか、家ではエネルギー発散不足で機嫌もイマイチである。そもそもこんなんで、子どもの教育にも良いわけがない。親も子どもも巻き込まれてストレスの日々である。子どもの自宅待機に合わせて急遽有給休暇を取ったり、仕事を休んだり。8月、9月ともに、どの子も平均して5日以上は登園できていないので、通算して2週間は親もまともに仕事ができていなかったということになる。夏休みはついこの間終わったばかりなんですが。

8月に自宅待機要請が続いた時は、我が家は夫が不在、私は別件の仕事の締め切りがあったため、結局子どもを登園させ続けていた。自宅待機のために急遽有給休暇を取る親もいたけど、我が家はフリーランスなのでそうもいかないが、肩身が狭いというか、後ろめたさを感じながら子どもを園に送り、しかし「なんで自分が悪いことをしているわけでもないのにこんな気持ちにならなければならないんだろ」と理不尽さを感じる始末。
なのでその2週間後に起きた「人員不足」では、月曜、火曜と自宅待機させて、水曜から登園させようと思ったら、その直前に行われたPTA会で決まったとかいう、4つあるクラスを半分ずつ一日交代で閉鎖するルールが始まり、ゆえにその週、我が子は1日しか登園できなかった…。もう、どのママもパパもうんざり疲弊したやり取りをチャットに投げていたとき、園長からメールが来た。「皆さん、今週は本当に大変でした。でも来週の見通しとしては、大丈夫そうです」

「やだ、来週には保育士さんたちが皆元気になるとか、なんで園長はわかるわけ?そんな千里眼じゃ、週末に宝くじが当たっちゃうかもね!(すごい皮肉)」「というか、これって…、病欠じゃなかったんじゃない?もしかして…有休かしら?」

偶然その時、私は我が子が週一しか登園できなくなるので、もう一日の登園を認めてほしいと園長に話すべく電話をしていて(でもその要望は、「不公平になるから」という理由で受け入れてもらえなかったのだが)、そのついでに今回の状況が起きた背景を尋ねてみた。すると園長はくったくなく、いいですよと言って説明してくれたのだが「今週は元々予定されていた有休休暇を取ったスタッフが2名いて、そこに病欠が重なったのだけど、来週は有休の人は一人なので」
有休??ついこの間、夏休みだったのに?
(後編につづく)


保育園が休みになると結局はほぼ仕事にならん、と腹を括り、山に遊びに行きました。家にこもるよりは、林間学習ってことで。でもこれ以上は無理だなあ…。
©️Aki Nakazawa

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中沢あき

中沢あき(なかざわ・あき)

映像作家、キュレーターとして様々な映像関連の施設やイベントに携わる。2005年より在独。以降、ドイツ及び欧州の映画祭のアドバイザーやコーディネートなどを担当。また自らの作品制作や展示も行っている。その他、ドイツの日常生活や文化の紹介や執筆、翻訳なども手がけている。 

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