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 朝日新聞社会面で子どもの命を見つめる企画「小さないのち」の新たなシリーズが始まりました(2016.10.17より)。タイトルは「奪われる未来」、虐待問題です。
 3回目の掲載が終わったのですが、記事内容に少しばかりやりきれなさを感じたので、今回のテーマにしました。

 「子どもたちが健やかに生きられる社会に向けて、私たちに何ができるのかを考えます」という趣旨での企画。力を入れているシリーズだろうし、ずいぶん取材をしただろうと思うのですが、残念ながら「この虐待の背景にある問題に気がついてる? どこに焦点をあてるべきかがずれてない?」と一人でつっこんでいます。

 これまでにどれほどの子どもたちが虐待の犠牲になってきたのかは歴然としています。事件も実態も悲惨な結末も、私たちはたくさん見て、聞いて知っています。そして今も、どこかで、最悪のことが起きているかもしれないのです・・・。
 「私たち」おとながそれを繰り返している。さまざまな対策も後手後手になって被害を防げなかったという、深刻な事案が起こっています。
 いったい、どこに問題があるのか、十分に検証されてきたでしょうか?

 「子どもたちが健やかに生きる」のは特別なことではありません。当たり前のことですよね。子どもだけでなく、私たちおとなもみんなが「健やかに生きられる社会」でなければならないはず。ところが、その当たり前なことが侵害されている日常がどれほどあるか、という現実。

 「虐待防止」「子育て支援」「DV防止啓発」「女性相談」等々、虐待や暴力への対策や対応、取り組みなど態勢はずいぶん整えられてきたといえます。それなのに、事件は繰り返されて「また同じことが・・・」と暗澹たる思いです。やりきれません・・・。

 シリーズ初回(以下、記事参照)は
 「虐待 見逃された痕跡」 「なっちゃん SOS届かず  伝えられなかった体のあざ」

 「なっちゃん」は、2歳のとき実母が病死。父親の再婚を機に、父と継母のもとで暮らすようになりますが、継母からの虐待を受けていたようです。なっちゃんは、何度も虐待の「サイン」を発しており、祖母が市に相談したり、幼稚園が気づいて児童相談所で一時保護もされます。でも、1か月ほどで自宅に戻されている。
 継母の虐待は育児ストレスとみられ、時間の長い預かり保育で育児負担を軽くして見守ることで対応していたが、継母からの暴行で、5年3カ月の命を終えました。


 これは「継母の育児ストレスによる虐待」で片付く問題でしょうか?
 こういうケースで必ずといっていいほど気になるのが「父親の不在」です。
 父親の再婚によって、なっちゃんの人生も変わりました。父親がなっちゃんと、再婚相手とどう関わっていたか、どう暮らしていたか、記事からは何も見えてきません。

 なっちゃんの奪われた命はもう戻ってきません。虐待は許されません。ただ、継母の虐待だけが取り上げられていることに釈然としないのです。背景に、父親の育児不在や無関心、無責任、再婚相手とのコミュニケーション不足などが疑われるからです。
 虐待だけをクローズアップすると、その背景に潜んでいることから目をそらしてしまうことになる。
 なぜそこまでの暴行をしてしまったのか、何かあるのではないか、継母の話も聞きたいと私は思うのです。

 シリーズ2回目は「育児疲れ  笑顔の娘を川に」「役所に相談 悩みは消えず」
 この回は、「母親が子育てを苦にして娘を殺害した事件」として扱っています。
 でも・・・そうなのでしょうか? 「育児疲れ」で、だと思いますか?

 24歳(当時)の女性は、シングルマザー。3歳の一人娘。21歳で出産して、娘2歳の時にDVで離婚。その後、相談相手だったアルバイト先の男性と同居しています。
 同居を始めた男性は、徐々に娘の存在をうるさがるようになって、不機嫌、暴力的威圧行動をしています。娘の泣き声に不機嫌になって眉間にしわを寄せ、大きなため息をつく男性を見て「この子をこのまま置いておくわけにはいかない」「この子がいなくなるしかない」と思い詰めたのです。
 その日、子どもを預ける先がない女性は、近くの川の欄干に娘を立たせ、何度か抱き下ろします。そして3度目。娘を抱く手を伸ばし、宙に浮く状態にして。娘はにこっと笑い、突然こう言ったそうです。
 「バイバイ」
 手を離した。ドボン。翌日、遺体が1キロ下流で見つかった。3歳になったばかりだった。
 女性は懲役9年。法廷では「最低なママでごめんなさい」と涙で語り、今服役中。


 彼女は暴力夫と別れ、一人で子どもを育てようとしていたはずなのに、残酷としか言いようがありません。
 そんな女性の「相談相手」だった男性は、第2のDV男でした。元夫から受けたDVの傷はまだヒリヒリしていた時期で、母子ともに癒しが必要な時だというのに。
 DV被害者は暴力を恐れていますから、少しの威嚇や誘導で簡単にコントロールされてしまう脆弱性があります。それは、暴力的に支配されてきたからで、学習性無力感からくるもの。不機嫌な態度は、相手を脅すのに十分。彼女は追い詰められていったのです。

 その時、女性に正常な認識力や感覚があったでしょうか。
 どこかで何かに遠隔コントロールされるように、「娘を連れて帰るわけにはいかない」強迫観念に支配されていたのではないでしょうか?
 これって、誰が加害者になるのかな? 教唆していたのは誰ですか?
 ここでも男性、(元)夫、父親という人たちの身勝手さ、行動が、女性を苦しめ、追い詰めていった構図があると思うのは私だけでしょうか?
 娘には発達の遅れがあったようですが、DV環境の中にいれば、健全な発達が阻害されることもあります。子どもの安全が脅かされているわけですから、異常な環境の影響はあったでしょう。

 「子どもの虐待」は子どもを守る視点が優先です。ですから、子育てを担っている母親が、当然責任を問われ、そのことで更に追い詰められていきがちです。支援を求めても、そこでも諭され、出口が見えなかった。「もう無理」といって投げ出すことのできない蟻地獄に追い詰められる一方で、もう一方の親である男たちは、いつもするりと逃げています。卑怯じゃない? そのあたりをチクリと書いてくれる記者さんの感性に出会いたいと、まだどこかで期待しているのですが。

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具ゆり(ぐ・ゆり)

フェミニストカウンセラー
フェミニストカウンセリングによる女性の相談支援に携わっている。
カウンセリング、自己尊重・自己主張のグループトレーニングのほか、ハラスメント、デートDVやDV防止教育活動など、女性の人権、子どもの人権に取り組んで20年あまり。
映画やミュージカルが大好き。
マイブームは、ソウルに出かけてK-ミュージカルや舞台を観ること。

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