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マモルくんが作る「防犯DE女子力UP!」というチラシ

牧野雅子2016.10.27

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 10月半ば、SNSに、怒りに満ちたコメントと共に、いくつもの防犯チラシの画像が流れてきた。警察が主体となって実施中の「全国地域安全運動」の一環として配布されたものらしい。
 中でも話題になっていたのが、京都のとある警察署が作成したという「防犯DE女子力UP!」というチラシ。防犯に女子力を持ち出すのもすごいけど、「ワタシの安全はワタシが守る!」と自衛宣言させるところに、目を剥いた。
 それ、警察の仕事放棄宣言では? いや、そこはマモルくん、ちゃんとお仕事してくれないと困ります。

 こうしたチラシや警察サイトの性犯罪被害防止を呼びかけるページには、加害者の狙いや気を付けるべき点、対策が書かれている。何時ころに被害が多いのか、車両のどこが痴漢被害に遭いやすいのかまでわかっているのなら、警察が取り締まればいいのに、そう思うけれど、それはしないらしい(なんでー?)。
 たとえば、警察は加害(者)に対して厳しい態度で臨みます、被害が起りやすい時間や場所は重点的に警戒します、被害者に安心して事情聴取に応じて貰えるよう精一杯配慮します、その上で、防犯情報を提供しますから参考にして下さい、というのならまだ分かる。でも、今やってる事って、女性に性暴力の被害防止責任を丸投げしているだけなんだよね。「『絶対に犯罪被害に遭わない』という気概を持って、防犯意識を高めてもらいたいのです」なんて、被害に遭うことが犯罪であるかのようだ。

 気を付けろと言われても、出来ない時だってある。急いでいる、すぐに乗り換えなきゃいけない、疲れている、試験のことで頭がいっぱい、仕事がなかなか終わらなかった、いつもとは違う路線を使わなければいけなかったetc.
 だいたい、気を付けたって被害を防げないことは、女性警察官も痴漢被害に遭っていることからも明らかだ。新聞記事を調べてみたら、キャリアを積み、体力もあり、防犯知識や犯罪を察知する能力に長けているはずの40才の女性刑事も通勤電車の中で痴漢被害に遭っていた。もっとも、記事は、女性警察官が被害に遭ったことではなく「痴漢を捕まえた」お手柄譚として書かれてあったのだけれど。あるいは、女性刑事に痴漢をして捕まった間抜けな男の話として。それもひどい話だと思う。

 警察の性犯罪被害防止対策は、その昔、「性犯罪の誘因は女性にある」というところからスタートした。その認識は反省されることなく、今の「防犯DE女子力UP!」に至っている。もしかしたら、以前の方がまだましだったかもしれない。昭和4、50年代の啓発資料には、知っている人であっても安易に車で送ってもらってはいけない、と、知人間で起こる性暴力にも言及されていたのだから。
 現在の啓発活動は、どれもが通り魔的な犯罪を対象としたもので、友人や同僚、顧客、上司や教師や親族からの被害は想定されていないようだ。データを見れば、警察が検挙した強姦事件の過半数は、面識のある者による犯行なんだけど。

 そもそも、被害者に原因・落ち度があるから被害に遭うのではない。犯罪の原因を被害者に求めることが間違いなのは、警察の調査ですら明らかになっている。警察庁科学警察研究所員の報告(注)は、加害者調査によって得られたデータから、「従来流布されていたような被害者側の責任といったことは、ほとんど理由となっていないことがわかる」と結論している。
 挑発的で肌の露出の多い服装は性犯罪を誘発するという認識も、間違いだ。なのに、警察サイトや啓発資料には、薄着の季節は性犯罪に注意、露出度の高い服を着ている人は犯人に狙われやすくなります、とかいう文言が踊っている。警察庁の調査結果を、警察官が無視してどうするの? 強姦神話の流布は、加害行為に加担することなのだよ。そこまでしても、女性の責任にしたいわけ?

 ふざけたフォント、女性を茶化したようなイラスト、何かの二番煎じのような垢抜けないデザイン、内容も問題なら文章自体もおかしい……。一目見て、読む気が失せるというものだ。
 女性を守る「あいうえお」を実践しましょう、なんていう啓発資料を作っているところもある。「いかのおすし」の女性版なのだろうけど、大人の女性に、「あいうえお」はないんじゃないの。
 そこに、公的機関の女性に対する意識が表れている。こういうのが好きなんだろう、この程度でいいんだろう、ここまでレベルを下げて教えてあげないと分からないんだろう、っていう。一言で言えば、バカにしている。被害(者)を無くしたいと言いながら、女性に、被害者に、敬意を払わないでいられるのはなぜなのか。

 中には、脅しとしか思えないものもある。夜道を一人で歩くとこんな目に遭いますよ、性被害に遭うとこんな人生を送りますよ、まわりの人も悲しむんですよ、あなたが恥ずかしがって(!)被害申告をしないと加害者が放置されて他の人が被害に遭うんですあなたのせいで他の人が被害に遭うんですよ――それは、加害者が突きつけられるべきことなのに。

 相手を思っているふりをしながら、その実バカにして、脅迫して、思い通りにしようとするなんて、まるで、DVだ。
「 夜間のひとり歩きは極力避けましょう、これが基本にして最大のポイントです」。家に閉じ込めておこうとするところも、DV男っぽい。家から出なければ街頭犯罪の被害に遭うことはないし、交通事故にも遭わないね、うん、いいところに気がついたね、さすがだね(棒読みで)。
 ここまでくると、性犯罪対策という名目で、国が、警察が、女性たちを抑圧している、そういう見方さえできてしまう。これはあながち見当違いではないかもしれない。ネットで上がった女性たちの怒りの声は、「そういうこと」を意味しているんだと思う。

 11月18日(金) 「『痴漢撲滅系ポスタープロジェクト』から見えてくること」では、こんな話を、みなさんとしたいなと思っています。

(注)内山絢子(科学警察研究所防犯少年部付主任研究官)「性犯罪被害の実態(3)―性犯罪被害調査を元にして―」(『警察学論集』2000年 53(5)) タイトルは「性犯罪被害者調査」だが、「加害者調査」のデータや考察も記載されている。

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牧野雅子

牧野雅子(まきの・まさこ)

龍谷大学犯罪学研究センター
『刑事司法とジェンダー』の著者。若い頃に警察官だったという消せない過去もある。
週に1度は粉もんデー、醤油は薄口、うどんをおかずにご飯食べるって普通やん、という食に関していえば絵に描いたような関西人。でも、エスカレーターは左に立ちます。 

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