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TALK ABOUT THIS WORLD ドイツ編 タイムラインは静かなまま

中沢あき2023.12.25

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数週間前から里帰りしている実家では、テレビがほぼいつもついていて、ドイツでは普段テレビを見ない我が子は見事にテレビ漬けである。子ども向け番組だけではなく、ニュースも大人と一緒に見ているのだが、今まで意図的に見せていなかった戦争のシーンがどうしても目に入ってしまう。刺激が強すぎるからと避けていたが、それでも戦争の話題は子どもたちの間でもそれなりに上がるのだろう。ウクライナが、という言葉が子どもの口から出ると、こちらがギョッとしてしまう。誰が悪いの? ウクライナ? いや、ウクライナの人たちは悪くないよ。でもウクライナもロシアも、戦う人は普通の人たちなんだよ。悪いのは、戦争をする政治家かな、なんてうっかり自分自身の意見を言ってしまってから、しまった、と思う。子どもに何を話して何を避けるかの判断は難しい。

もうすぐ誕生日を迎える我が子に夫が訊いた。「誕生日には何がほしい?」
えーと、キラキラ光る腕輪とー、大きな絵が描けるホワイトボードとー、あとね、健康と、戦争がないこと! だって、Nもそう言ってたよ!
と、幼稚園の友だちの名前を挙げた。

そんな言葉が子どもの口から出てきて驚いてしまう。もちろん、戦争が早く終わればいいね、戦争は良くないよね、といった話はたびたびしているけれども、いったいどこでそんな考えを子どもたちは仕入れてきたのか。でもまったく子どもの言うとおりである。

10月から続くパレスチナでの戦争の映像や画像や報道を目にするたび、胸が抉られる思いの日々である。ハマスの先制攻撃があったとはいえ、その後の、イスラエル政府の言葉によればテロリストの一掃のための攻撃で亡くなったパレスチナ人の数は、ハマスの攻撃で亡くなったイスラエル人の数を軽く超えて、2万人に近づいていく。ガザの街はがれきの山になり、しかしガザ地区から出ることを許されない人々は逃げ惑うしかないところへ、まだ打ち込まれるミサイル。国連やWHOの警告も一切無視したまま攻撃を続けるイスラエルに、しかし米国やドイツやそのほかの西欧諸国は連帯を示している。10月にこの戦争が始まったすぐあと、ドイツの中心街で「イスラエルと共にある」と連帯表明を示したドイツ連邦政府のポスターを見たとき、私は心の中がスーッと冷えていく気がした。

この国でパレスチナの問題を公に話すことはタブーであることはずっと知ってはいた。パレスチナで困難な暮らしを強いられている人々の話をするだけで、反ユダヤ主義であると括られ、とてつもない非難がきて、下手をすると職を追われかねない話は、直接の知人からもずっと以前に聞いたことがある。最近の話では、昨年夏の、カッセルで行われたアートフェスティバル、documentaのキュレーションが反ユダヤ主義として、ドイツの文化大臣から大統領までが非難の声明を出し、マスコミからの非難の総攻撃を受け、しかしながらフェスティバルの運営側にはオープンにその問題を議論する機会が与えられなかったとして大きな問題になっていた。

日々テレビやインターネットで流れてくる、泣き叫ぶ人々やぐったりとした負傷した子どもたちの映像を目にし、胸が潰れそうになると共に恐ろしくなる。この悲惨な状況について、欧米諸国は、そしてドイツは具体的にこの戦争を止めるために動くことをいまだしておらず、皆が手を出せないままに、人々が殺されていく。私たちは今、とてつもなく大きな罪を犯しているのではないか?
実質的にこの状況を「無視」し続けている私たちにはきっとバチが当たる、そう思ってしまう。しかし、どこのどの「神様」がバチを下すのだろう?

ウクライナにロシアが侵攻した時、ドイツの街中にはウクライナに連帯を示す青と黄色のマークが掲げられ、SNSにもウクライナへの励ましや連帯のコメントが溢れていた。10月から今に至るまで、私のfacebookのタイムラインは静かなままである。ドイツ人も、ドイツに在住の邦人たちも、このパレスチナで起きていることへの投稿がほとんどない。これはいったい、なんなのだろうか? ドイツ国家の姿勢を問われたドイツのハーベック副首相はその理由をこう説明した。「ドイツは過去の過ちがあるからこそ、イスラエルにも理解を示さなければならないのだ」

私はこの理由にはまったく納得できない。ホロコーストは大きな過ちであり、二度と起きてはならない、起こしてはならないことである。しかしそれはあの時に犠牲になったユダヤ人だけについてではなく、どの人であろうが、一人の人間の命や権利を尊重せよ、迫害してはならぬ、ということであるはずだし、そういう認識でドイツの人々は戦後、学び続けてきたのだと思っていた。だから私は今、大きな衝撃を受け、大きな疑問を抱えている。「ドイツ人はホロコーストからいったい何を学んだのさ?」私の怒りの問いに、うちの相方は口をつぐんだままだった。

在独でポーランド出身の友人が話していた。10年以上前、テレビ取材のカメラマンとしてパレスチナとイスラエルの境界を訪れたとき、その格差に愕然としたそうだ。壁の向こう側では貧困に喘ぎ、教育の機会も与えられず、その地区から自由に出入りすることもできないパレスチナ人のすぐ隣で、イスラエルの人々が裕福な暮らしをしている状況を目の当たりに見て、これは絶対に間違っている、と思ったそうだ。その友人も、なぜドイツ人はこの自体に何も発言しないのか、行動をしないのかが納得できない、という。
おそらくこの状況が続いたまま、年は明けていくだろう。そして来年はどうなるのか。

この問いに答えられない、そして自身も疑問を抱えているドイツの人々もたくさんいるのだろうとは感じてはいる。これからドイツの社会は確実にさらなる分断が進むだろう。でも私はそれでいいのではないかとさえ思う。分断が進み、この建前と金にまみれた社会が一度壊れた後に、どうやってまた建て直していくのか。それは具体的にはわからないが、それでもまだひとすじの希望になってくれるかもしれない。

 

 

©️: Aki Nakazawa

真っ青な空に映える黄色い銀杏を見ながら、あれ? イチョウって11月じゃなかったっけ? と思ったり、12月なのに半袖でいられそうな暖かさに驚いたり。戦争なんてやっている場合じゃないのに、こんなことをやっている人たちは、恐ろしい思いになったりすることはないのだろうか? とニュースを見て不思議に思う日々です。

 

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中沢あき

中沢あき(なかざわ・あき)

映像作家、キュレーターとして様々な映像関連の施設やイベントに携わる。2005年より在独。以降、ドイツ及び欧州の映画祭のアドバイザーやコーディネートなどを担当。また自らの作品制作や展示も行っている。その他、ドイツの日常生活や文化の紹介や執筆、翻訳なども手がけている。 

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