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 今回も、過去の新聞をひっくり返していたときに見付けた記事の紹介から始めたい。通学電車の中で何度も痴漢被害に遭っている高校生の娘を助けるべく、父親が娘と一緒に電車に乗って加害者を取り押さえたのだという(『朝日新聞』2000年09月09日)。痴漢を捕まえた父親のニュースは、調べてみると、他にも結構でてくる。お父さんたち、GJ!と思いつつ、ざらざらした思いが残るのも事実なのだった。

 男性に、性暴力加害/被害について考えて貰うためには、どうしたらいいのかということをずっと考えている。男性の中にも、性暴力抑止のために尽力している人がいることも、被害者保護に携わっている人がいることも知っている。それでも、残念なことに結構な数の男性が、性暴力、とりわけ痴漢被害には無関心で、でも、痴漢冤罪被害には憤り、被害に遭った人に対して痴漢被害なんてたいしたことないとか、短いスカートをはいているからだとか、痴漢に遭わなくなったら女として終わりだとかを、人前でもわりと平気で、言う。
男性にも被害者はいるし、わたしも、男性被害者の方から話を伺ったことがあるし、女性が加害者というケースもあるし、性別ですべてを語れるとは思っていない。でも、被害者の多くが女性で、加害者の多くが男性であることは、少なくとも統計的な事実だ。
 どうしたら、性暴力を男性の問題として考えて貰えるのか。問題を自分に引きつけて考えて貰うためによく使われるのが、「あなたの娘さんが被害に遭ったとしたらどう思いますか」と問う「戦略」。たとえば、オリンピックメダリストで静岡文化芸術大学教授の溝口紀子さんは、全日本柔道連盟の理事による性暴力を告発した際のエピソードを、次のように記している。

 男性柔道家の先輩から「なぜ今言ったんだ。おまえは柔道をつぶす気なのか」とお叱りを受けた。それに対して私は「先輩、あなたの娘さんが、会長からレイプされそうになったらどうしますか? 組織のために黙って泣き寝入りするのですか?」と反論した。
 (溝口紀子『性と柔 女子柔道史から問う』(2013 河出書房新社 193頁))

 性犯罪事件の取調べでも、警察官や検察官が、被害者に思いを馳せない被疑者に対して、「自分の恋人や妻が同じ被害に遭ったらどう思うか」と問い詰めることがある。でもこの「戦略」、実はかなり危うい。「オレの女に何をする」という自分の利益を侵害されたという観点にとどまってしまうからだ。
 自分の娘やパートナーが性被害に遭うのは許せないし耐えがたい。けれど、他の人たちが被害に遭っているのを傍観することは平気で、それどころか、被害に遭った方が悪いとでも言うような口ぶりで被害者の落ち度を云々(「でんでん」じゃないよ!)する。ヘタすりゃ、自分たちが性的に扱っても構わない女性とみなしてネタにする。目に見える暴力を振るわなくても、こうした二次加害だって性暴力だ。誰かを守るということと、誰かに暴力を振るうことは、マモルくんたちの論理の中では矛盾しないらしい。
 怖いことに、「オレの女に何をする」は加害者の論理としても使われる。わたしが『刑事司法とジェンダー』という本の中で取り上げた加害者は、ある事件で、架空の物語を作って被害者を脅し、犯行におよんだ。自分は暴力団関係者であり、被害者が以前に交際していた男性が親分の恋人を妊娠させた復讐として、親分の命令で自分が強姦しなければならないというもので、「オレの女に何をする」のアレンジバージョンといってよい。「オレの女に何をする」は、女性に暴力を振るうときにも、女性を守るときにも使われるのだ。

 もっとも、「マモルくん」を求める女性たちがいるのも確かだ。かの、遙洋子さんもこう、書いている。

 大物タレントが、格闘する私を不憫に思ってくださったのか、後日、私に声をかけてくれた。
 「芸能界では、ぼくがあなたを守ります。」
 私に、ほんものの、大物がついてくれることになった! 正直な感想をいうと、うれしかった。
 どれほどジェンダー論を学んでも、自分の中のジェンダーバイアスは消えることはなかった。自分より背が高く、がっしりしていて、男らしい男性に、それも、私よりもずっとポジションが上の男性に、「守ります」と言われると、どうしようもない喜びを押さえきれない。(中略)
 これが、ジェンダーバランス。私の中の〈女らしさ〉である。
 (遙洋子『東大で上野千鶴子にケンカを学ぶ』(2000 筑摩書房 129頁))

 性暴力事件で、被害者の恋人やパートナーが前面に出て来て争うケースをいくつか見てきて思うのは、男性が女性の人権や性暴力について考えるのはこんなにも難しいのかということ。「オレの女に何をする」全開の人もいるし、裁判でも、性暴力という女性の人権の問題が、男同士の権力争いの問題にすり替わってしまっていることもある。まわりの人は「なんか、ズレてる…」と気付いても、被害女性にとってマモルくんは加害者を糾弾してくれる頼もしい味方だから、周囲の人も、彼女の意思を尊重してあまり強くは言わないことが多い。被害者がいいと言うのならそれでいいのだけれど、問題が起こってうまくいかなくなれば、結果は被害女性が背負うことになってしまう。「力のある男性がわたしを守ってくれる」と喜んでばかりもいられないのだ。

 冒頭に紹介した、娘に痴漢をした加害者を捕まえたお父さんたちはどうだろう。自分の娘でなくても、被害に遭っている女性たちのことを考えてくれているかな。同じ男性として痴漢加害を考えてくれているかな。

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牧野雅子

牧野雅子(まきの・まさこ)

龍谷大学犯罪学研究センター
『刑事司法とジェンダー』の著者。若い頃に警察官だったという消せない過去もある。
週に1度は粉もんデー、醤油は薄口、うどんをおかずにご飯食べるって普通やん、という食に関していえば絵に描いたような関西人。でも、エスカレーターは左に立ちます。 

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