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Vol.1 ボールクラッシャーと呼ばれて

阿部悠2017.03.27

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「俺のキンタマをそんなふうに見るな!」
“エロい格好してるとか、夜出歩いたとかで「おまえには痴漢されるスキがある」とか、痴漢被害にあってる人が非難されるのが普通なんだから、股広げて電車で寝てるオッサンなんかに「キンタマ潰されるスキがある」とか言って、実際キンタマ潰していくしかないのではないか。”
というツイートがちょっとバズってしまった去年の10月23日。まさか自分が「キンタマ潰しの人」と呼ばれ、「政治家に依頼されキンタマ潰しする韓国系フェミ」など、ワケの分からないデマに悩まされる日が来るとは夢にも思わなかった。
タマ潰しツイートはこう続く。
“「キンタマ潰されたくなきゃ、股閉じてれば良くない?ていうか、電車で寝るとかキンタマ潰してくださいって言ってるようなもんでしょ」とか言えばいい。”
“キンタマを潰されて女性に恐怖を抱いても「本当はキンタマ潰されて気持ち良かったのでは?」とか言われちゃう。”
“「潰されんのがイヤならカバンでも置けば?」とか言われちゃう。”
性犯罪の被害者に対して、服装や行い、年齢や容姿をあげつらい、加害者そっちのけで被害者が攻撃されてしまったり、性犯罪者に怒りをしめす前に、被害者がきちんと自衛していたかが問題にされたり、あげくの果てには「本当は気持ちよかったんだろう」などとセクハラされ、被害を被害として認めてもらえない風潮、いわゆるセカンドレイプに、性犯罪、それを伴う殺人、傷害がニュースになるたびにブチギレていた。
しかし、痴漢やセクハラやレイプなどの性犯罪の恐怖や痛みについて、あまりに鈍感なアホの多さに、「どうやったらあいつらに性犯罪の痛みを思い知らせることができるんだ!」と常々考えていた。セカンドレイプする人に対し、「一度、男に掘られてみろ!」という比喩がよくあるが、下手したら偏見を助長させかねないし、他にもっと適切な例えがあるのではないのか、と。
話は脇道にそれるが、ウチの近所は首都圏にも関わらず、「地主様」が牛耳っている。以前、その地主のジジイから駐車場を借りていたのだが、毎月、ジジイ宅の応接間まで招かれ、お金を手渡す。ジジイは180度といっても過言でんはないくらい、極端に股を広げて座るので、股間のモッコリがハッキリ確認できる。そして当たり前のようにタメ語で話す。そのエラソーな態度に「おいおい。こっちはおまえの使用人じゃねえぞ。お客様だぞ! ずっとアーバンライフを送ってきたわたしにとっちゃ、地主がどうとかカンケーねえ! 昭和初期かよ! わざわざこれ見よがしに弱点さらしやがって! わたしがキンタマを狙ってこない善良な市民なことを感謝しろ!」などと、いつも心の中で毒づきまくっていた。
急所をいくら強調してもヨユーこいて横柄でいられる男どもは、そこを攻撃しない女性の優しさに甘え切っている。もしキンタマを積極的に狙ってくる女がたくさんいたとしたら、いくら鈍感な男どもといえ、痴漢やレイプの「痛み」を理解するのではないか。あのキンタマのガードが甘いたるみ切ったジジイが脳裏にいたおかげで、キンタマ潰しを思いついたのもある。ジジイに感謝だ。
ここでは、「性犯罪の痛みは女性特有のものだ」とあえて言い切らせてもらう。男性も性犯罪の被害にあうことはあるが、それをここでは考慮していない。主題は「世の中にあふれているセカンドレイプ」だからだ。性犯罪の痛みを理解する気ゼロのアホが、ネットやテレビでセカンドレイプを悪いとも思わず繰り返している。あいつらに痛みを分からせる必要がある。だから男性特有の痛み、つまりキンタマを狙っていくしかないと思い至った。

秋のキンタマ潰し祭り
タマ潰しツイートに共感した女性が「#秋のキンタマ潰し祭り」というハッシュタグを作り、さまざまな女性がこのタグで発信し、かなり広範囲に拡散された。
「なになに?キンタマを潰された? あなたが? 勘違いなんじゃないの?」
「そんなキンタマを強調する格好をして、電車で寝た? それはさすがに自己責任では‥‥」
「ちゃんと抵抗したの? それじゃあ同意の上と思われても仕方ない。で、気持ちよかった?」
「どう考えても騒ぎすぎ。死ぬわけじゃあるまいし」
「うまくかわすのがいい男」
「潰したいと思われるうちが華」
など、日ごろからセカンドレイプに怒っている人たちから、たくさんの反応があった。一見めちゃめちゃ理不尽な主張なようで、キンタマ潰しを痴漢やレイプに入れ替えると、性犯罪が起こるたびに被害者女性に向けられてきたセリフでしかない。だから、タマ潰しツイートはしばらく尽きることがなかった。
タマ潰しの数々にアホ男が、
「暴力的だ!」
「女性はこわい!嫌悪感が!」
「あたまがおかしいのか!」
なんて激怒すればするほど、
「いやいやそれ全部、私たちがずっと思ってたことだから!」
と、この実験の成功を証明していたところが愉快だった。
「自分がされたらイヤじゃないのか」
と言われても、キンタマの痛み分からない我々はとことん残酷になれる。セカンドレイプをする男の心理もまたそうなのであろう。
キンタマを攻撃されたらいかに痛いかを必死で説明する男どもがたくさんいたのだが、おまえらは性犯罪の痛みを説明する女性の声に真剣に耳を傾けてきたのか? と問わざるをえない。
「性欲が起因だから、痴漢とキンタマ潰しとは違う!」
というトンチンカンな反応も多くあった。まず性犯罪の起因は性欲ではなく、征服欲、加害欲だろう。仮に性欲が起因であるとしても、それで免罪されることなどない。痴漢は暴力だ。そんなことをがまかり通るなら、
「わたしはタマ潰しで性的に興奮する変態だ!」
と言えばタマ潰しは正当化されちゃうぞ。男ども! それでいいのか?!
「キンタマ潰しタグを見ていると気分が悪くなる」
と言われても、われわれ女性はネットを見るだけで、「子宮破壊」といったタイトルのポルノ広告を見せられ、それが日常化しているのだ。少しくらい「キンタマ潰し」が流行ったくらいで弱音を吐くとは。「連続キンタマ潰し魔」が世を震撼させたことなどないのだから。

ズバリ意図を理解した男
ある男性はわたしのタマ潰しツイートに対して、
“男の人は夜道、電車内、ひとりでエレベーターに乗る時、人気のない場所、周りに助けてくれる人がいなさそうな時はキンタマを潰されないように気をつけたほうがいいです。あと、キンタマを潰したいなーと思われそうな服も避けたほうがいいです。誘っていると思われるような行動も慎みましょう。”
“こんな感じだろうか。そんな生活だとキンタマが常にモゾモゾする不安感があるな。”
“オレのキンタマをそんなふうに見るな!って思うな。怖い。”
と、すんなり意図を理解し「キンタマ潰し」に本気で恐怖した。世にあふれるセカンドレイプの理不尽さを少しだけ体感した男がたくさんいた。なにしろ「オレのキンタマをそんなふうに見るな!」だ。なかなか聞けないセリフだ。そうだ! じろじろパイオツをチェックされると、女性はそういう気持ちになるんだぞ! 分かったか!
「#秋のキンタマ潰し」タグを見た男性の反応に「不愉快きわまりないタグだが、この不愉快さは女性が日常的に感じているものだろう」というものが、考えていたより多かったことには救われた。
タマ潰しで、性犯罪の痛みを少しだけ理解した男の行動が変わるか。性犯罪やセカンドレイプは完全に無くならないかも知れないが、それらを本気で咎める人が増えたら、性犯罪被害者の負担は激減すると思う。そうなることに淡い期待を抱いている。

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阿部悠

阿部悠(あべ・ゆう)

兵庫県出身。ローティーンの頃からクラブに入り浸り過ぎて中卒。関西を拠点にクラブDJとして活躍。3.11後の原発事故にショックを受けて反原発活動をはじめ、社会運動に目覚める。最近は「女叩き」カルチャーに怒りを燃やして、ネット上に溢れるミソジニスト達と本名顔出しで日々格闘。ビヨンセを崇拝している。 

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