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Vol.15 ヒップホップ的にもナシな話

阿部悠2018.03.20

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 先月、「フリースタイルダンジョン」(テレビ朝日)という即興ラップバトルの番組において、呂布カルマというラッパーが、対戦相手の椿という女性ラッパーに対し女性蔑視丸出しのラップをかましたことで、各方面から批判されまくっていた。
ラップフリークとしては、呂布カルマを擁護する「バトルで出た発言だし、ヒップホップとは正しくないもんだ! 分かってねえな!」という意見にも、呂布カルマを批判する「ヒップホップって差別的!」という意見にも違和感があり、とても複雑な心境だった。

 この記事は、「テレビという媒体だからダメ」という角度からの批判や、フェミニズム的な批判は控え、あくまでヒップホップ的にどうか、に焦点を当てている。

 少し脱線するのだが、本場アメリカのラップには、「俺はとんでもないワルだ」と、けしからんエピソードを語るものが多く、大体が不道徳だと言える。しかし、彼らなりのリアリティを赤裸々にラップした「ワルい曲」が流行ることで、「貧困地帯で育ってもギャング以外の方法で成功することはできる」というメッセージになり、そういう「ワルい曲」の中に時々、貧困地帯の子どもを励ます曲や、「ワルい道」からの離脱を勧める曲があったりすることが、ワルさをするしかない境遇にある人たちを勇気付けてきた面がある。普段は優等生ではないキャラクターが発するからこそ響くメッセージがあるのだろう。

 これはあくまで「基本的にはこんな感じ」という話で、ここ10なん年かはビルボードチャートはラップだらけになり、ラップスターにもセレブリティとしての責任が問われ、PC(政治的な正しさ)的な配慮が求められるようになってきているし、シーンが大きくなるにつれ歌詞のトピックスもバライティー豊かになっている。
 とはいえ、まだまだマッチョ(男性優位主義的な価値観。筋肉モリモリってことではありません。念のため。)全開のヒップホップシーン。そして、マッチョ野郎はホモフォビア(同性愛嫌悪)を併せ持つことがほとんどである。そんな中、フランク・オーシャンという男性シンガーが2012年に恋愛対象を”He”とする曲が複数収録されたアルバムをリリースし、大きな話題になった。彼のカミングアウトに対し、彼の盟友タイラー・ザ・クリエーターが「ついにブラザーがやった! 本当に難しいことだよ! 誇りに思う!」とコメントしたのだが、「難しいことをやり遂げた気合い」みたいなものを賞賛しているのかな? と思え、マッチョな考え方であっても、ジェンダー的な問題がマシになっていくこともあるんだなと感慨深かった。昔からヒップホップには”Keep it real”という概念があり、「本当の話」をラップすることが最重要だ。それ故のカミングアウト賞賛であり、「ワルい曲」なのである。

 もう一点つけ加えると、ラップの歌詞には「お金を稼ぐこと」を美徳とするものが多い。「リアルなメッセージで成功するのが一番エライ」というスタンスが肝なのである。

 つまり、何が言いたいのかというと、前述の呂布カルマの女性蔑視丸出しラップは、そういうマッチョなヒップホップの価値観においてもイケてないのでは? ということだ。
 まず、呂布カルマが椿に差別的なことを言ったところで、大変な境遇にある人を勇気づけたりはしないし、ラップ好きにはもともと女性蔑視丸出しの男性が多いので全く意味がない。男性から女性にどんな暴言を吐いても女性からボコられたりはしないし、リスクがない相手に対してイキればイキるほど「ヘタレなのかな?」という印象しか残らない。ここはジェンダーギャップ指数が144ヶ国中114位という、女性差別大国ジャパンでなのである。女性に「メンス」どうこう「ジェンダーおばさん」どうこうとラップしようが、日本社会自体が女性差別的なので、なんのタブーにも触れていない。そんなことは誰にでもできる。呂布カルマは、SNSでフェミニストからの批判に対し、頭の悪そうな反撃をしまくったせいで、たくさんの人に嫌われてしまった。その上、全く儲けにも繋がってなさそうなのだ。

 わざわざジェンダーの話をしなくても、ヒップホップ的にナシではないか。つーかバカじゃないの?

 一方椿には、反女性差別のスタンスを明確にしたことによって、ポジティブな変化がある。まず、彼女のSNS上での「女性差別に溢れたヒップホップ業界を変えたい」というメッセージに共感し、初めてラップバトルに興味を持ち、彼女の作品を買う人がたくさん現れた。つまり、ファンの新規開拓に成功したのだ。
 そして、彼女を取材するのは音楽系メディアだけではなくなり、記事はすごい勢いで拡散されている。これからはクソヤローがdisればdisるほど椿を応援する人が増えるだろう。「食わず嫌い」が多そうなヒップホップというジャンルにおいて、ヒップホップに関心のない人を惹きつけることは相当難しいと思う。

 これは、バトルには負けたがヒップホップ的には椿の勝利ということになるのではないか。彼女は問題提起に、フリースタイルダンジョンという「メディアを利用した」と明言しているし、彼女の目論見は大成功しているのだ。

あっぱれ!

 最後に、呂布カルマが「俺はカッコいいラップして かわいい女の子たち濡らして それしか考えてねえ」とか言っても「てめえのツラで濡れるかボケ!」とかフルボッコにされて、業界から干されたりしないだろ。それが「ジャパンは男性社会」ってことだぞ! 分かったか!

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阿部悠(あべ・ゆう)

兵庫県出身。ローティーンの頃からクラブに入り浸り過ぎて中卒。関西を拠点にクラブDJとして活躍。3.11後の原発事故にショックを受けて反原発活動をはじめ、社会運動に目覚める。最近は「女叩き」カルチャーに怒りを燃やして、ネット上に溢れるミソジニスト達と本名顔出しで日々格闘。ビヨンセを崇拝している。 

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