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TALK ABOUT THIS WORLD ドイツ編 姉さん、参上。

中沢あき2024.05.28

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今月に入り、街のあちこちに選挙ポスターが貼られ始めた。
6月9日に行われる欧州議会の選挙に向けたものだ。こちらの選挙ポスターはたいがい、道路の電柱や標識ポールの柱にA1サイズのものが括り付けられる。各党で掲げてもよい枚数が決まっているのかは知らないが、先日訪れた同じ州の街中でも、そして我が近所の街中でもよく目につくポスターがある。顔写真を入れたポスターを他にあまり見かけないせいなのか、それとも本当に配布枚数が多いのかはわからないが、新しい政党のポスターで女性のポートレートのものだ。

そのポートレートの女性の名前は、ザーラ・ヴァーゲンクネヒト。
二年半ほど前、このコラムでもコロナ政策への批判と提案をした連邦議会議員の一人として名前を取り上げた政治家である。その2021年当時は左(Linke)党の副代表でもあり、左党はその頃の連邦議会選挙では獲得票数が足りずに政権に入れなかったが、彼女は議員としては当選していた。その後、ウクライナ-ロシア戦争を終わらせるためにはロシアへの経済制裁を止めて外交を復活させよと主張して左党内からも批判を受け、結局は離党した後に昨年秋、自分の名前を冠したヴァーゲンクネヒト同盟党(略してBSW党)を立ち上げた。
彼女の新党結成は割と長い間噂されてきたものの、一時はそのメディアや世論からのバッシングぶりに、政界を退いて作家となるという話まで出たくらいだったが、結果として結成されたこのBSW党は最近の世論調査によると、現在の支持率は第5位。トップはかつてメルケル首相が属していたCDU党が29%、それに続く第二位が極右のAfD党(!)の17%で両者とも現在は野党の立場。続くのが現与党のSPD党15.5%と緑の党13 %で、その下が彼女率いるBSW党の7%。ちなみにその下にいるのは与党連立政権の一つであるFDP党4%とかつてヴァーゲンクネヒトが所属していた左党4%で、結成半年にして大健闘である。

AfD党が極右ならBSW党は極左とされ、極端同士が対立するのかといえば、実はこの両党は現行の難民政策と対ロシア・ウクライナ支援策に反対という点で共通している。ゆえにBSW党はAfD党の支持票を奪っていくのではないかと言われていたが、この結果を見る限りでは今のところ、わりと両者とも勢力を保ったままのように見える。
「与党の政策には反対だが、かといって極右のAfD党を支持するのはさすがに……」という支持者がBSW党に集まるのだと言われている。

2年半前のパンデミックの最中、ヴァーゲンクネヒトはワクチン接種の有無に限らず全員にコロナ検査の義務を課したほうが感染拡大を抑えられるという主張をした数少ない政治家たちの一人であった。国策を支持するマスコミや世論からは非難轟々だったが、結局ワクチン接種にそれほど予防効果がなかったとわかった後から振り返れば、彼女の主張は実は真っ当であった。
停戦を目指してロシアと交渉を続けるべきだと主張する彼女はちょうど一年前、フェミニズム活動家のアリス・シュヴァイツァーと共に、当時新たな武器供与を決断したショルツ政権へ当てて「武器供与はドイツを戦争へ引き込むことになる」と公開書簡を発表してこれまた猛烈なバッシングを受けたが、戦争を早期に解決するための武器供与にも関わらず、一年以上経った今も戦争は収まるどころか、ウクライナの劣勢が伝えられて更なる武器の供与と泥沼化の様相である。
現行の難民・移民政策にも彼女は反対と言われているが、そもそもこの何年も、受け入れた難民が起こした犯罪への対応や生活支援の財政負担はドイツ社会の大きな問題になっており、極右や極左支持でなくとも、多くの人々から不満や不安の声が多く出ているのが実情である。
極端な排斥主義は別として、そうした国民の不満や不安の声に与党政権は耳を貸さないと不信を抱いている人々の心が、自分の意見と合うと思う政党へ動くのは当然のことだ。ちなみにヴァーゲンクネヒト氏自身も父親はイラン出身、自らは東ドイツで生まれ育ったという出自で、いわばドイツの歴史や文化に翻弄された背景を持っていると言えるだろう。(蛇足だが、極右で差別主義、難民排斥主義と評されているAfD党の共同党首であるアリス・ヴァイデル氏にはスリランカ出身の同性のパートナーがいる)

1969年生まれ。東西統一前の東ドイツでイラン人の父とドイツ人の母の元に生まれた彼女は、幼少期に国外追放となって生き別れた父のルーツを忘れないためか、名前をドイツ読みの「ザラ」から「ザーラ」とペルシャ風に改名している。学校時代は常に孤立していて社会不適合者として扱われたというエピソードもあるが、大学で哲学や政治学を学び、ベルリンの壁崩壊前に社会主義の政党に入党。
以来、いくつかの政党を渡り歩きながらもその志は常にゴリゴリの社会主義。真っ直ぐというか、そんな彼女のキャラクターはいで立ちにも話し方にもよく現れていて、後れ毛を出したひっつめ頭にクラシカルなスーツ姿のコンサバファッション(というかやや時代遅れな気もするけど)で討論の場に出れば、先述の通り、真っ当な論調で率直に容赦なく相手を論破していく話ぶりで、テレビ討論番組の人気者になり、著書も多い。
昨年、仕事で一緒になったドイツ人のドライバーは「この状況で唯一まともな政治家は彼女だ、彼女が首相になるべきだ」とまで言い切った。うーん、そうねえ。でも一匹狼の彼女が首相になることはまずないだろう。結局のところ、政治も数の理論なのだ。

とはいえ、この国の選挙権がない私が言うのもなんだが、2021年の連邦議会選挙のとき、旧東ドイツ出身であるという点も含め、メルケル氏の外交を引き継いでせめて外務相に彼女が着いたりしていれば、もしかしたらこの今の世界の戦争はここまでひどくならなかったかもしれないとも思う。もしも、のいまさら話だけれども。まあ左党は政権に入るチャンスは全くなかったので、絵に描いた餅かな。もっとも彼女の主張ではロシアを勝たせることになる、と言う論調が大きいので、ひっくり返されていたかもしれないけれども。

ともかくも今は彼女自身の新党である。今回の大きな選挙でどこまで極右政党が躍進するか、と人々の関心が集まる中、彼女はどのような位置を取るだろうか。選挙前予想が示すように、結局のところ、与党が国民を納得させる答えや論理を展開できず不信を招いていることが極右や極左の支持率を上げているわけであって、プロパガンダのせいにしたり、プロパガンダに流される大衆を愚か者として扱うように見下す態度のままでは、彼らの言う「民主主義」なんぞ崩壊の一方であろう。そしてその原因に向き合うことをしないまま、極右や極左を押さえ込む対策に躍起になっている行動もまた、民主主義を危機に晒していることに他ならないと、自らの危うさをどれだけ自覚できているのだろうか。
自由主義、民主主義の政党 VS. 極右の政党、という二極化対立の構造でしか語られてこなかったこの状況に、ヴァーゲンクネヒトはまた違う構成要素としてその中に入っていくだろう。物事は、多様なものが拮抗しているほうが健全なバランスだ。メルケルが母さんなら、彼女は姉さんといったイメージを私は持っているのだけど、さて、風を起こした彼女はどんな嵐を巻き起こすだろうか。



©︎: Aki Nakazawa

下段の政党のポスターの女性がザーラ・ヴァーゲンクネヒト氏。他政党のポスターは政党名とスローガンだけのものが多いのですが、彼女の政党は自分の名前を冠しているとあってか、テレビなどでお馴染みの顔がバーンと貼られているのはなかなかインパクトがあります。「戦争か平和か。今こそ、あなたが選ぶのです」と書いてあります。ちなみにこの辺りでは、件の極右政党AfD党のものを見かけません。支持者がこの辺りは少ないのかな?

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中沢あき

中沢あき(なかざわ・あき)

映像作家、キュレーターとして様々な映像関連の施設やイベントに携わる。2005年より在独。以降、ドイツ及び欧州の映画祭のアドバイザーやコーディネートなどを担当。また自らの作品制作や展示も行っている。その他、ドイツの日常生活や文化の紹介や執筆、翻訳なども手がけている。 

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