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「平成28年に生きる昭和な人々」

野沿田よしこ2016.06.13

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 私の名前はよしこ。でも“よしこおばさん”となってこそ“私”であると人は言います。なぜ“おばさん”なのか?誰かの“おばさん”というわけではなく、 “おばさん”=加齢具合を表現しているわけでもありません。私の行動が“おばさん”以外では成しえないものであるからです。私の趣味は人の恋愛話、セック スの話を聞くことです。と、いってもガールズTALK的に盛り上がり話し、その場で共に聞くようなスタイルでは楽しめないのです。あくまでのぞき聞き、のぞき見すること、百歩譲って1対1で根掘り葉掘り的なTALKが好きなのです。

 

“人の話を聞く”“心の中や状況を探る”という力はどうやら“おじさん”“お兄さん”“おじいさん”には装備されていないようです。“お姉さん”と呼ばれ る人達には盗み聞きする根性がないようです。そして“おばあさん”には興味と能力はあっても、盗み聞きできるほどの聴力がなかったり、長時間粘れる脚力が なかったり。でも、体力的にまだその余地がある。それが“おばさん”なのです。
と、いうことで、20回目の「よしこおばさんは見た!」よろしくお願いいたします。

 新しい盗み聞きスポットが見つかりました。商業地区にあるけれど、大企業はほとんどない中小企業の街のコーヒーショップに、盗み聞きスポットがありました。オシャレな雰囲気のそのお店は、小さなカウンターと、テーブルが一つしかありません。盗み聞きに相応しい会話が生まれにくい空間です。このような場所で人は、ナイショの話しはしないものなのですが、ここには他にはない会話が落ちていました。

 【ケース1 水曜日の14時 50代女性 60代男性】
 女「せんむ〜〜♡♡♡ここのコーヒー特別な豆を使ってるんですって〜〜」
 男「そうかそうか。」
 女「あ〜〜(吐息のような“あ〜〜”)おいしいっ♡」
 男「そうかそうか ♡」

 北欧のおしゃれソングが流れ、コーヒー豆の香りが漂う店内に、抜群の存在感を放つ2人がやってまいりました。営業帰り?それとも得意先周りの途中?用件までは察することはできないけれど、無理くり2人でいるための仕事を作って外に飛び出してきたような、そんな2人でございます。私の耳はもう釘漬け。“スケベ上司”という言葉を1ミリの狂いなく3次元化したような、貫禄など微塵もない男性と、ないはずのお立ち台見えてしまうバブル時代の残党女性です。2人はその空間を一瞬にして占拠してしまいました。

 女「この服、覚えてる♡♡?」
 男「もちろんだとも♡」
 女「錦糸町で買ってもらった、あ・の・ふ・く
 男「ふんふん」
 女「あの事件覚えてる♡?」
 男「もちろんだとも♡」
 女「錦糸町、洋服はさまっちゃった事件 ♡」
 男「ふふふふ」
 女「大変だったわよね ♡」

 「錦糸町、洋服はさまっちゃった事件」ってなんだ?!ーーーー
 つっこみたい気持ちを抑えているうちに、私の耳は、もう2人のものになってしまったようでした。この調子で小一時間、会話が店内に響き、店内はすっかり昭和色に変貌してしまいました。コンクリート打ちっ放しの壁もなぜか新宿の高層ビルの建設工事の風景に見えてきます。コーヒー豆を焙煎する“グルグルガー”という音は、ビルの入り口に漏れ聞こえるディスコの低音に聞こえてきました。女性は聞こえようが、聞こえまいがお構いなし!とにかく♡とエロい香りを店内にまき散らし、街に消えていきました。

 【ケース2 月曜日の8時 70代後半の女性 80代男性の夫婦】
 静かな朝です。店内のおしゃれBGMが、澄んだ空気のように流れていました。店内にはこの夫婦と私以外誰もお客はいません。どうやら決まった曜日、決まった時間にやってくる夫婦のようです。コンクリートの壁に向きあうようなカウンター席に隣り合せ、黙ってコーヒーを飲んでいます。

 店員「今日もお散歩帰りですか?」
 女「はい。今日もおいしいコーヒーをいただいています。」
 男「・・・・」
 女「・・・・」

 なんて静かなんでしょう。私は鼻をすする音が店内に響かないように、必死で口で息をしておりました。

 女「・・・・・」
 男「・・・・・」

 長い沈黙が破られました。

 女「そろそろ夏ものを出さないといけないですわね」
 男「・・・・・」
 女「手伝ってくださいね」
 男「手伝う必要のない量だろう」
 女「家にいるのだから、手伝ってくださいよ。」
 男「俺も忙しい」
 女「家にいるなら高いところに登ったり、重い物を持つ手伝いをするなら常識ですよ。今のあなたには時間あるんですから」
 男「それは常識ではなくおまえがやりやすい勝手な言い分だろう。」
 女「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
 男「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 喧嘩するわけでなく、静かな口調で会話する2人。私はその時の女性の顔を見ないわけにはいきませんでした。ただ前を向いてコーヒーをすする女性の顔は、最近見かけない般若のお面のようでした。ツツミが“ぽんぽんぽーん”という高い音が私の耳には聞こえていました。それは女性の怒りの声のようでした。黙る女性は全身で男性を拒絶し、そしてそれが漏れ出すことを怖れてはいませんでした。

 昭和道(しょうわみち)このお店にはそんな道が通っているようです。平成28年に生きる昭和な人々。最近私は“昭和”とはどんな時代で、その中でどんな風に人々は生きていたのか考えております。今よりも差別的で、常識の枠から“はみ出す”多様な生き方に対する情報や理解が少なかった時代にその枠をぶち抜き、時代を謳歌する女性がいた時代。声をあげれば叩かれてもしょうがないと、黙るしかない女性が、高度成長期を作る一員として時代を作っているという実感と自負を持ち、胸を張る男性と同じ家にいた時代。昭和の時代が止まることなく今の時代に流れ込み、その中で今に萎えることなくエネルギッシュに生きるバブル女性と、主張し、般若のような顔になれる昭和の妻が今コーヒーを飲んでいます。ここには生々しい昭和の女の今があります。どこか滑稽で、でもエネルギーに溢れる女や心を人前で全開できる力を持った女性が、コーヒーの香りに吸い寄せられるように、この場所に集まっているようです。

 昭和から平成へと生きる女をこれからもここで盗み見みしようと心に誓う平成の雨の日でございます。

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野沿田よしこ(のそえだ・よしこ)

年齢敢えて不詳。私の名前はよしこ。でも“よしこおばさん”となってこそ“私”であると人は言います。なぜ“おばさん”なのか?誰かの“おばさん”というわけではなく、“おばさん”=加齢具合を表現しているわけでもありません。私の行動が“おばさん”以外では成しえないものであるからです。
私の趣味は人の恋愛話し、セックスの話しを聞くことです。と、いってもガールズTALK的に盛り上がり話し、その場で共に聞くようなスタイルでは楽しめないのです。あくまでのぞき聞き、のぞき見すること、百歩譲って1対1で根掘り葉掘り的なTALKが好きなのです。
“人の話しを聞く”“心の中や状況を探る”という力はどうやら“おじさん”“お兄さん”“おじいさん”には装備されていないようです。“お姉さん”と呼ばれる人達には盗み聞きする根性がないようです。そして“おばあさん”には興味と能力はあっても、盗み聞きできるほどの聴力がなかったり、長時間粘れる脚力がなかったり。でも、体力的にまだその余地がある。それが“おばさん”なのです。 

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