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”うな子”が浮き彫りにした日本社会の性差別。

李信恵2016.10.03

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 先日、鹿児島県志布志市のふるさと納税のPR動画をめぐって騒動が起こった。養殖されたうなぎを水着姿の美少女に擬人化したもので、最初にこれを見た時には漠然と気持ち悪かった。その気持ち悪さの正体が、何かわからなかったので考えてみた。

 これがアイドルのプロモーションビデオだったら、「まあいいか。」と思ったかも。元々AKB48とかアイドルがあんまり好きじゃなくって、まあ、「好きじゃない」と云うと「若さに嫉妬している」「可愛いを認められないって可哀想」「ババアのひがみ」みたいな意見が飛んできたりする。けど、可愛いものは大好きでも幼稚なのが嫌いだけ。

 で、AKB48はさておき、AKB48的なものが苦手。ひたむきな、若い女性を育てていく、そういう存在を愛でる背後にある「おっさん」的なものが嫌いなだけかもしれない。日本社会は、成熟した女性を認めない。すべてを無条件で受け入れてくれる母親、可愛がることができる自分より未熟な女の子、黙って自分についてくる妻。対等な女性はいないことになっていて、そういう女性はたいてい激しいバッシングに合う。

 動画では、「養われた」女の子うなぎは、最後には焼かれて食べられてしまう。画面の向こう側にいる誰か=男性の何かを満たすために、消費されてしまう。うなぎが減少しているから消費すること自体に反対とかではないいし、かの地の養殖産業には敬意を抱いているし、食文化にケチをつける気も毛頭ない。お腹を満たすだけなら、不快感はない。けど、満たそうとしているのは食欲だけじゃないことが透けて見えるから気持ち悪かった。女性を貶めてるから、怒ってるんだよね。

 まあ、うなぎにはもともと精力増強のイメージがあるし。浜松の銘菓「うなぎパイ」には「夜のお菓子」というキャッチフレーズがついていたりもする。(しかしこのキャッチフレーズは「一家団欒のひとときをうなぎパイで過ごしてほしい」という願いのもと考案されたらしいが。)そういうイメージを逆手に取ろうとしたのか何なのかは分かんないけど、見事に失敗したし、この動画が問題になるってことは、ちょっとずつこの社会はましになっているのかも、とも思う。作った人たちや、この動画をオーケーした行政の中の人には、この動画の問題点がまだまだ理解できてないと思うので、しっかり勉強してほしい。これはまぎれもない女性差別だよ。

 AGFの「ブレンディ」では、乳牛になった少女が卒業式を迎えるというCMもあったし、三重県志摩市がいったん公認した「碧志摩(あおしま)メグ」というキャラクターが、性的な部分を過剰に強調しているという批判を受けて問題となったため、公認を撤回したということもあった。もうちょっとそういった過去の問題からきちんと学んでほしい。今までの事例が、これが(性)差別であるということをきちんと受け止め、謝罪や反省をし、再発防止に向けて取り組みをするっていうことがしっかりと出来てなかったからだと思う。こんな事件が起こるたび、うんざりして「またか」って思うけど、言い続けていかなきゃ代わらないから仕方ないか。

 それからもし、この動画が美少女じゃなくって美少年だったら?自分はちゃんと抗議できたのかな、とも考える。まあ、この男性が優位な社会ではその心配はこの先はまだまだなさそうだけど、でもちゃんとそういうことも考えておかなきゃなと思った。

 この動画に出てくる女の子は、自ら「養って」とつぶやく。男性が「養ってあげる」ではなく、あくまで女の子自らが望んでいるというふうに描かれている。どんだけ男性に都合がいいんだろう。こういう構図も良く見た。育てられた女の子が食べられたあと、また次の新しい女の子の声が最後にあるところも怖い。若い女の子という存在は、まるで取替えがきくかのようだ。

 私は、自分の年齢や性を一方的に男性に消費されたくない。誰かにとって、取替えがきくような存在にもなりたくない。できれば、男性とはせめて精神的には対等でありたいし、一方的に守る(今回の場合の「養う」)とか、逆に守られる関係なんって嫌だ。

とにかく、女性の存在を、女性の性を男性が一方的に消費しちゃダメ。

 そしてこちらは“日刊ゲンダイの性差別? 猛抗議で姿消した志布志の「うなぎ少女」動画”と題された記事。
http://www.nikkan-gendai.com/articles/view/news/190668

 「夏のある日、プールでスクール水着の少女が泳ぎフラフープで遊んでいる。やがて少女は水に戻り、うなぎに姿を変えていく……。叙情的な映像だと思うのだが、これにネットユーザーらが噛みついた。」

 スクール水着が抒情的、ねえ。別にスクール水着である必要は、全くないと思う。セーラー服が大好きなおっさんとどこが違うねん?。どうせうなぎなら、成熟した男女どちらかが全身ラバーとかを着てたんだったら、めっちゃフェティッシュで「すげえ」と思って個人的には拍手を送っただろうけど、まあマニアックすぎるし大多数のおっさんには受けないだろうな。スクール水着は体形とかめっちゃ出るし、思春期に規則とはいえ自分で選んでないものを強制的に着せられたのは嫌だったなとか思い出す。体操服のブルマとかも、今考えたら何の罰ゲームだったんだろう…。

 「少女の正体がヌルヌルしたうなぎのため、ペットボトルをつかもうとするが粘液ですべってしまうシーンもある。これも風俗店のローションを想像させるとケチをつけられたという。こういうのを言いたい放題というのだろう。」

 粘液、いらんやろ?と思うんだけど。食べるときには加工されてるので、ヌルヌルとかないし。動画を作った人も暗喩的な意味であえて入れたんだろうと思うけど、こういうときに聞いてみたいことがある。「ねえ、このモデルのこのシーン、自分の娘(や妻、彼女)にさせようと思う?」。絶対にしないだろうな。痛みを感じない存在だから、他人事だからこそ、こんなグロテスクなシーンが入れられるんだ。本当にゲスい。

 そして最後の一文。これがすごく気になった。

 「抗議の電話は全国からかかり、その9割が女性。声の感じから、多くが年配女性だったという。」

 これは担当者が答えたのかな。抗議した人たちが、ほんとうにこの記事の通りならうなずける。だって、年齢を重ね、人生経験を積んだ女性じゃないと、今回の問題に隠されたもの、本質が見えなかったってこと。わざわざ年配って書く必要があったのかも疑問。抗議した9割が男性だったら、そういうこと書かなかったんじゃないかな。記事を書いた人は、「年配の女性たちが中心となって、性差別だとこぞって騒ぎ立てた」風に持って行きたかったのかもしれないけど、多くの男性が性差別に無自覚であることを最後に改めて浮き彫りにしか格好になっている。書いた記者に、その自覚はもちろんなかったんだろうけど。

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李信恵

李信恵(り・しね)

1971年生まれ。大阪府東大阪市出身の在日2.5世。フリーライター。
「2014年やよりジャーナリスト賞」受賞。
2015年1月、影書房から初の著作「#鶴橋安寧 アンチ・ヘイト・クロニクル」発刊。 

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