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過去と向き合えないこの社会が生む、性暴力と嫌韓むき出しの男作家の妄言。

李信恵2017.04.07

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作家の筒井康隆が4月6日、Twitter上で「…長嶺大使がまた韓国へ行く。慰安婦像を容認したことになってしまった。あの少女は可愛いから、皆で前まで行って射精し、ザーメンまみれにして来よう」との投稿をした。

これは、日本政府が韓国・釜山の日本総領事館前に慰安婦像が設置されたことに抗議し、一時帰国させていた長嶺安政駐韓大使を約3カ月ぶりとなる4月4日午後に、ソウルに帰任させたことに関連しての発言とみられる。が、Twitterで当該発言が流れて来て、それを読んだ時は絶句した。ただただ、気持ち悪かった。

ちなみに、筒井康隆のこのツイートは、彼のブログ「笑犬楼大通り 偽文士日碌」に4日付で掲載されたものを引用したもので、ツイッターに投稿したのは筒井康隆本人か、Twitterのアカウントを管理していたスタッフ(がいるとしたら)のどちらが行ったのは定かではないが、ブログ自体はまあ本人が書いたものだろう。

この発言を読んでしばらくして、私はツイッターで
「金時鐘ソンセンニムが講演会で慰安婦問題について発言された時があったけど、とても深く被害者に寄り添うような話だった。自分と違う属性をもつ誰かの痛みをきちんと受け止めることが出来る人もいたら、自分の属性に胡坐をかいて、また誰かの傷をえぐったり、踏みにじる人もいるんだな。 」
と書き込んだ。

金時鐘ソンセンニム(先生)は、在日の詩人だ。筒井康隆、後ほど述べる石原慎太郎と同じく80代の男性でもある。ソンセンニムはずっと前に行われた講演会で、ある元慰安婦から聞いたと云う話を紹介された。元慰安婦は、「おかゆは食べられない。精液を思い出すからだ」と話されたそうだ。その言葉を聞いて、ソンセンニムは男性として胸が張り裂けそうになって、我身を責めたというような内容だった。嗚咽しながら、振り絞るように話されていた。

性暴力の被害者にとっての、精液が持つ意味。それについて、同じ男性という性を持っていて、文学者でありながら立場やとらえ方が全然違う。その違いは、何から生まれるんだろうか。

また、それとは逆に今回の筒井康隆の発言と、ぴったり重なったのが石原慎太郎だ。石原慎太郎は「ババア発言」をはじめとする暴言や妄言、差別発言をまき散らしてきた。日本が敗戦後、経済的に発展していくなか、そんな一番豊かな時代の恩恵を受け、マジョリティとして生きてきた人たち。彼らの発言は驚くほどに似ている。

例えば、石原慎太郎は過去にこんな発言をした。

「これは僕がいっているんじゃなくて、松井孝典(東大教授)がいっているんだけど、“文明がもたらしたもっとも悪しき有害なものはババア”なんだそうだ。“女性が生殖能力を失っても生きてるってのは、無駄で罪です”って。男は80、90歳でも生殖能力があるけれど、女は閉経してしまったら子供を産む力はない。そんな人間が、きんさん、ぎんさんの年まで生きてるってのは、地球にとって非常に悪しき弊害だって・・・・。なるほどとは思うけど、政治家としてはいえないわね(笑い)」

男性の性を持っていて、誇れるところが生殖能力(だけ)なのかって思うとアホらしい。彼らは老いていく自分とちゃんと向き合えてないんじゃないかな。それが、どんどん衰退していく日本の現状と重なっていく。「日本すごい!」「ダメな韓国(や中国)、それに比べて優れた日本」みたいな書籍やテレビのバラエティー番組の在り方とも似ている。

私は、筒井康隆が少女像を例に出したことが何重にも恐ろしく、おぞましい。少女像は、日韓問題を、過去の日本の戦争犯罪を、そして韓国を象徴するものでもある。筒井康隆は、わざわざそれを持ち出してきた。この発言は性暴力でもあり、隣国への蔑視が背景にあるからこそ出たものだろう。

石原慎太郎に対しては、きちっと指摘して怒って、闘ってきた女性たちがいる。筒井康隆の今回の発言について「今に始まったことじゃない」「それが筒井康隆の芸風」との発言も多く見られた。それじゃダメだと思う。こんな発言が許されてしまう社会を終わらせなきゃ。女性たちだけじゃなく、男性も、どちらでもなくてもまたしっかり怒らなければ。

問題になった6日の夜には少女像に関してのツイートは消えた。問題だと思うから消したんだろう。けれど、筒井康隆が書いたと思われる、ツイートの元となったブログはそのまま残っている。

4月4日、日本軍「慰安婦」被害者の中で最も高齢だった李順徳(イ・スンドク)ハルモニが永眠された。享年100歳。日本の大手メディアでは、知っている限りこのことは報じられて無かった(韓国メディアの日本語版などは報じていたが)。韓国での生存被害者は38名となった。

6日には韓国で、李順徳ハルモニの葬儀が営まれた。制服を着た高校生や大学生など、多くの若者たちも弔問に訪れ、「天国では生前の痛みを忘れ、安らかにお眠りください」と思いを伝えたという。
若者たちが多く訪れた、というところが素晴らしいと思う。しっかりと歴史を知ること、教育も大切だ。妄言が垂れ流されないためには、過去ときちんと向き合うことが必要と改めて思う。

慰安婦問題について発言すれば、Twitterは荒れる。今回も荒れた。「いつまで謝罪すればいいんだ」「過去の話」「日韓合意で解決済み」「慰安婦は云々」。でも、筒井康隆みたいな人がいる限りはずっと考え続けるし、声を上げる。筒井康隆の発言が容認される社会であってはいけないし、彼の発言によって踏みにじられているのは女性だけじゃない。この社会に暮らす「みんな」でもある。

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李信恵

李信恵(り・しね)

1971年生まれ。大阪府東大阪市出身の在日2.5世。フリーライター。
「2014年やよりジャーナリスト賞」受賞。
2015年1月、影書房から初の著作「#鶴橋安寧 アンチ・ヘイト・クロニクル」発刊。 

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