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ドイツのガラクタ市

中沢あき2016.09.09

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 ドイツの家にはアパートであっても大抵地下室の収納がもれなく付いている。日本のような押し入れなどの収納がない代わり、なのだろうか。大概は3畳程のスペースが格子壁で仕切られて施錠の出来る扉付き。そこに何を入れるかは持ち主次第で、季節によって使わないものだとか、ワインやジャムのような保存食品だとか、あとは使わなくなった家具などの物。家の中はスッキリと片づけられていても、物置はパンパン、というのは割とどこの家でも同じらしい。そもそもドイツ人は物をなかなか捨てたがらない。長く使う、だけじゃなくて、長く持つ、ので、結果として物が溜まる。溜まった物が物置に一杯になったらどうするのか、というところで出てくる発想は売る、譲る。今は eBay などのオークションサイトも一般的になったけど、やっぱり持って行く先はフリーマーケットだ。
 日本語ではフリマ、と省略されるフリーマーケット。元は英語の flea market がドイツ語になると同じ意味の Floh Markt 、フローマルクトとなる。お陰で最近は思わず、フロマ、と言ってしまう私。垢抜けない響きで恥ずかしい…。
 旅行ガイドなんかにもよく紹介される、ヨーロッパの蚤の市でアンティークの食器や服や小物を探す、とか、それはそれは素敵に聞こえる。さてドイツでそういうものを探したいと出かければ…。
 ドイツのフローマルクトは基本的に週末、町のあちこちの空き地や駐車場などに年間を通して立つのだが、お天気のいい初夏から秋にかけては数も増え、出店も客も増える。出店者は、不要になったものを並べる家族や友達同士から、色々な所から引き取ったり買い取ったりして転売するプロの骨董屋が混在して、そこにケーキやアイスやコーヒーなどのスナック、ソーセージやポテトなんかのファーストフードの屋台も加わる。開場時間はマルクトによっても違うが、大概は午前中が中心。フリマフリークの友人曰く、プロは早朝の暗いうちから懐中電灯で照らしながら掘り出し物を探すのだとか。その後は昼過ぎまで、家族連れやら友人連れやら、勿論お一人様も散歩がてらにやってきて、のんびりと見て回ったり、お茶をしていったりという感じ。もちろんメインのお買い物となるのはそこに並ぶ品々だが、それはもう食器から服からおもちゃから、家具、本、アクセサリーなどとにかくあらゆる中古品が揃い、または未使用の新品もたまにある。新生活を始めるのに必要なものが一通り揃いそうな勢いだ。
 お金のない若い子たちにとってはお洒落のアイディアの宝庫でもある。プチプラブランドの服でも、ここなら更に安い。気にならなければ、靴やサンダルも勿論あるし、レトロファションはすぐ作れる。サイズが大きくても、ドイツには町のあちこちにお直し屋さんがあるので、そこで直してもらったりもできる。数年前にドイツに遊びに来た際にその雑多な様子を見たうちの父は一言、ボロ市だな。そうです、はっきり言って、ガラクタ市なのです、ここは。そんなガラクタの間を歩き回りながら、子供の服だったり、趣味のレコードを探したり、というのは日本のフリマなどでも見かけそうだが、その先からが違う。
 機械いじりが好きな人には、今時珍しいアナログラジオとか、コンピュータなんてものもある。勿論それらは壊れて動かない。そこから部品を取り出して使いたい、直してみたい、なんていうマニア向けだ。どこかの家の物置に長年埋まってたんだろうなと思われるものもある。何十年前?の昔ながらの木製スキー。今は絶対に見ることはないだろう、ベルト式の留め金だ。でも誰が買うんだろう…。と思えば、え、これ売るの?と思うものもある。ブラジャーまで売り物としてラックにぶら下がっていたのは衝撃だった。下着、中古で売るのか。というか、買った人はいるのだろうか。いや、人にはいろいろな事情がある。確かに着れないこともないよな、とは思うが…。
 とまあ、実際を見ると、お洒落なアンティーク市のイメージはぶっとぶ。いや、そういう市もあるのだが、それはその手の顧客向け。そして値段も高い。蚤の市、とはまさにその語源の通り、蚤が出てきそうなガラクタの並ぶものなのだ。とはいえ、そういうガラクタを漁るうちに、マイセンやウェッジウッドのカップが出てきたり、みたいなことは本当にある。
 私がよく行くのは、毎週土曜に立つ市と、毎月第一日曜に立つ市。毎月の市の方が、いわゆるアンティークの掘り出し物が多くて、ittala のアンティークのお皿やブランドもののシルクのブラウスを買ったことがある。どちらも数ユーロから十ユーロ程度で、お古、ということを考えなければとんでもない掘り出し物だった。もう一つの市で買った数ユーロのスカートやワンピースもなかなか愛用しているし、食卓の椅子が壊れて困っていた数年前には、偶然 Ikea の椅子を4組セットで見つけて、全額2000円程で手に入れた。もっともこういう当たりはいつもあるわけじゃない。そもそもマイセンだろうと自分に興味がなければガラクタのままなのであって。だから蚤の市の楽しさは、値段やブランドに拘らず、自分の好みや目的に出会えるかどうか、に尽きる。他の人の歴史があったものでも使ううちに自分のものになってくれるようなものだったら、買う。なんというか、自分との相性を感じる物というのがときどきあって、それを値段交渉して手に入れたときの楽しさ、その後使っていく楽しさ、というのがある。
 さてこの先週末は町内フリーマーケットだとかで、うちの近所のあちこちで、中庭や駐車場の小さなスペースを使って数家族ごとが出店するフリマイベントをやっていた。去年は別の地区で見かけたこのイベント、たぶん好評だったのだろう、今年はうちに地区でも、となったようだ。というわけで朝起きて窓を開けたら、最上階の我が家の下には、既に売り物を置いた机が並べられ、車庫の屋根には洋服がぶら下がっていて、なかなか面白い眺めになっていた。よくよく見ると、大きなサーフボードまであるんだけど、どこのうちから持ってきたのやら、うちのアパートの住人にサーファーが居たのか、と思ったり。夕方、片付けをしていたご近所さんに売れた?と訊いたら、うーん、結構残ったものがあって、eBay で売るか捨てるかかなあ、とちょっと困った顔をしていた。これから何を捨てて何を売るか、また考えるのも面倒らしい。そっか、ばっさり捨てられないんだなと密かに思った私。フローマルクトの裏にあるのは、ドイツのモッタイナイ精神なのであった。
 月一で立つフローマルクトの様子。皆さんそれぞれの審美眼で品定め中。 nakazawa20160909-1.jpg
© Aki Nakazawa

 長年集めてきた猫グッズを売ることにしたの、と売り手のおばさん。なかなか素敵なコレクションです。 nakazawa20160909-2.jpg
© Aki Nakazawa

 我が家の目下に広がるフリーマーケット。我が家の目下に広がるフリーマーケット。こじんまりとしたアットホームなフリマです。 nakazawa20160909-3.jpg
© Aki Nakazawa

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中沢あき

中沢あき(なかざわ・あき)

映像作家、キュレーターとして様々な映像関連の施設やイベントに携わる。2005年より在独。以降、ドイツ及び欧州の映画祭のアドバイザーやコーディネートなどを担当。また自らの作品制作や展示も行っている。その他、ドイツの日常生活や文化の紹介や執筆、翻訳なども手がけている。 

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