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85歳の結婚

中沢あき2017.08.25

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雨続きの天候からやっと陽が射して爽やかな天気になった8月の週末、夫の親戚の誕生会に参加した。ドイツは5年ごとの節目で誕生日を大きく祝う習慣があるので、この人の誕生会は5年振り。夫の亡き祖母の従兄弟にあたる人で、今回はその85歳のお祝いだ。もっとも誕生日は7月だったので、その日にはお祝いの電話を夫とかけた。久しぶりに聞く声は、電話越しとはいえ85歳とは思えないくらいの若々しさ。その張りのあるしっかりとした声にも驚いたが、なんとさらなるサプライズが。「実はね、数日前に結婚したんだ」
結婚!?
お相手はこの8年程お付き合いしている数歳年下の女性で、5年前の誕生会にも同伴していた人だった。彼女は英国出身で、ドイツ人の夫亡き後は一人暮らし。前回会ったときは私に、お互い在独外国人だからね、といろいろと話しかけてきて、シンパシー溢れる人だったのを思い出す。しかし結婚かあ。なんでまた?なんて疑問は無粋だよな…、とこちらが戸惑う暇なく彼から話し出した。
「いやあ、もう何年も付き合っているし、結婚もいいかなと思ったんだよね」と、それだけ。なんともシンプルな理由である。古代ローマ史の研究者である彼は、初婚。独身貴族なんて言葉が似合わないくらい(失礼…)とっても穏やかでほのぼのとした人柄で、10年程前に亡くなった同じく独身の姉とずっと同居してきた人だったから、5年前の誕生会に彼女同伴で現れたときには、親戚一同、内心驚いていたらしい。一方の彼女は、子供も孫もいる人で、彼らともいい付き合いをしているよ、と彼。お互いの持ち物や近所に住む家族の事もあるのでこのまま別居婚を続けるか同居するかはまだ未定とのこと。でも一緒にいるときのリズムがとっても合うんだそうだ。生活の時間とか、散歩に出かけて歩くタイミングとかね。そんなことを楽しげに語る彼の声はとても幸せそうだった。
というわけで、今回は誕生会だけじゃなくて結婚祝いでもある食事会は、毎回恒例である彼のお気に入りの山の上のレストランで開かれ、いつもの親戚一同が集まった中で現れた新婚夫婦。事前に届いた招待状にも「贈り物は不要」と書かれていたようにカジュアルな集まりで、新郎はグレーのスーツにウールのマフラーを巻き、でも新婦のレースのワンピースが淡いベージュピンクで、これはやっぱりウェディングドレスだよな、とちょっと微笑ましい。って、邪推かな…。二人とも5年前に比べてさすがに歳を取ったとわかるけれども、相変わらず元気で可愛らしいカップルであった。
改めて思うことだが、ドイツは歳に縛られることのない社会だなあと思う。さすがにここまでの高齢の結婚はドイツでもそう滅多にあることではないが、そもそも結婚という形を取らずに事実婚のままでいるカップルも多い。子供がいながらも事実婚を通すカップルが3割を超えるといわれ、さらに離婚もやはり3割が経験するという社会なので、一生のうちに結婚を何度も、年齢に限らずする人も結構な数でいるわけだ。一方で日本の社会における結婚の概念の束縛さといったらない。なんといっても適齢期、という言葉まであるほどなのだから。女性については、20代で結婚をすればキャリアに障害をきたす恐れがあり、30代では結婚を急かされ、40代以降では射程圏外とばかりに扱われ、50代以降に結婚でもしようものなら、年甲斐なく、と言われる。年甲斐なくってなんだ?ちなみに日本では女性の結婚適齢期を売れ残りのクリスマスケーキに例えることは、こちらの人たちには信じられない話らしい。人を好きになる、という感情に年齢は関係ないのに、そんな社会の通念があるの!?
結婚に限らず、自分の人生は自分で決める、その決断を可能にする自立する力を持つ、そして人は人、という相手を尊重する(たとえ相容れない考えであっても、付き合い方次第で自分と相手を切り離して考える)という個人主義があるドイツ社会だからこそこういう生き方ができるのだが、日本はそんなにも個人主義が難しい社会なんだろうか。日本のとある掲示板で見かけたのだが、夫と手を繋いで歩くかどうか、というテーマにさえ、恥ずかしいとかいまさらそんな気にならないとかみっともないいう意見さえあって、ビックリした。 ちなみにこの85歳の結婚には、財産目当てだ、とかいう陰口もなかったわけではない。けれども、それは彼の築いた財産であり、子供などの直接の家族がいない彼がそれをどうするかは彼が決めることであり、法に触れることがなければなんら問題のないこと。それが彼の人生だ。
誕生会が終わって山を下りたところで、手を繋いで歩く高齢の夫婦を見かけた。ゆっくりとヨタヨタと歩く二人がしっかりと手を繋いで坂道を上っていく姿を見ながら、年甲斐もなく、なんて哀しいことを言わないで、と思う。
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© Aki Nakazawa
贈り物は不要、と言われても、こんなおめでたいことなんだからやっぱり何か贈りたい。愛のイベントにはバラが定番ですが、気さくな彼らにはもっと夏らしい季節のブーケが似合うよね、と持っていったら、他のメンバーも同じことを思ったのか、画家である叔父の自作の絵や、家族写真の入ったメッセージカードや本など、ささやかな贈り物が集まりました。お誕生日、そしてご結婚、おめでとう!5年後にまた皆で集まれるかわからないけど…、なんて本人たちは言いますが、きっとお祝いできると思うよ。
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中沢あき(なかざわ・あき)

映像作家、キュレーターとして様々な映像関連の施設やイベントに携わる。2005年より在独。以降、ドイツ及び欧州の映画祭のアドバイザーやコーディネートなどを担当。また自らの作品制作や展示も行っている。その他、ドイツの日常生活や文化の紹介や執筆、翻訳なども手がけている。 

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