ラブピースクラブはフェミニストが運営する日本初のラブグッズストアです。Since 1996

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今年もラブピースクラブ(以下、ラブピ)にまた機会を頂いて、行ってまいりました、ドイツ・ハノーファーの見本市、Erofame(エロフェイム)。昨年と同じく広大なハノーファーメッセ会場のホールの一つを貸し切っての見本市。
他の産業見本市に比べると小規模ですが、それは出展社や訪問者を絞り込んでいるからとわかるのは、居並ぶ出展社の商品や関係者の様子からもわかる。この見本市に来るまでは、ピアスやタトゥー、ボンテージファッションなんかに彩られた人やエロオタクのような人が集まっているんだろうと思い込んでいたが(もちろん偏見です…)、いやいや、実際はそういった様子の人は少なくて、ほとんどはビジネスマン、ビジネスウーマンがあちこちで商談をしている、至って真剣な商売の場なのだ。
もちろんその横にディルドやバイブが並ぶその極私的でデリケートな、つまりインティメイトな雰囲気も漂う様子は他の業界とはまったく違って、そのギャップが面白い。まさに、こんな世界もあるんだ、である。

その見本市を歩くと、もう一つ気がつくことがある。ビジネスウーマンと書いたが、女性の参加率が結構多い。半分とはいかなくても、4割近くは出展社も客も女性ではないだろうか。女性だけ、または女性スタッフがほとんどの出展社もある。他の業界、例えば工業界などに比べるとぐっと多い印象だ。まだまだ男性へのターゲット率が高いと言われる業界なのに、これは意外だった。
ラブピと取引のある会社も女性の担当者がほとんどだが、アメリカや中国の女性たちは実に合理的にクリアに話を進めるやり手のビジネスウーマンが多い一方で、欧州の女性たちはまるで友達のように気さくに会話をしながら仕事の話を、という傾向が見えて、それぞれのコミュニケーションの取り方に学ぶところがあって面白い。

そんな中、とあるブースを訪れたときに手にした小さなパンフレットの写真に私の心はぐっと惹きつけられた。カメラに向かって笑顔を見せる二人の若い女性は、ラブピでもお馴染みのカップル向けトーイ、EVAのメーカー、Dameの創設者のアレックスとジャネットである。
私自身はEVAを見るのは初めて。手のひらに乗るサイズの小さな丸っこいウェアラブルトーイは、足だか羽だかを生やして、なんだかコガネムシかカエルみたい。そのくせ本体のシリコンの手触りや色合いはまるで医療器具、パッケージも薬の箱のデザインみたいで、従来のセックストーイとは全く違うイメージがなんだかおもしろい。そしてこれが股の間にちょこんと乗っているところを想像すると…、と、ステレオタイプからややズレた、しかしいたって真面目なコンセプトがあるところがなんともユニークだ。

そのトーイの紹介はラブピのページでも詳しく載っているのでそちらを読んでもらうとして、私が同時に惹かれたのはその女性たちの風貌とその脇に沿えられた経歴だ。CEOであるアレックスはコロンビア大学でセックスセラピーをテーマに臨床心理学の修士を収め、技術開発責任者としてアレックスのアイディアを形にしたジャネットはマサチューセッツ工科大学卒業後、有名企業で3Dプリンターなどの開発設計を手がけていたというリケジョである。普通だったら一般大企業でバリキャリの道を歩いていくだろう輝かしい経歴の若い女性たちが、こんなユニークなトーイを作っている、ということが私には新鮮で、その場にいたアレックスに思わずショートインタビューを申し込んでしまったのだった。

小柄なアレックスは、エネルギッシュによく喋る。合間合間に絶妙なジョークを入れてくるところなんて、以前セックストークのラジオ番組の司会をやっていた、という話に納得。
子供の頃、男の子になりたいと願ったり、男の子と遊ぶ中でじゃれ合っていたことが、成長するにつれて「気をつけなければならないこと」なのだと社会の中での自分の性を自覚していくうちに、セクシャリティというものに関心を持ち始めたという彼女は、大学で「男女はなぜ惹かれ合うのか」ということをテーマにセックスセラピーを研究する。
が、セラピーの意味に疑問が出てきて、もっと直にカップルの関係を繋ぐもの、ということを考えたときに新しいセックストーイを作ることを閃いたそうだ。曰く、従来のトーイは大きくて邪魔だと彼が嫌がったのよね、それで二人の体の間でも邪魔にならない小さなものはないかなと思ったの。出来るだけ小さくて美しくて、ということを追求したら、こんなユニークな形になった、のだとか。

私はてっきり、アレックスは机上のコンセプト担当だけで、技術開発そのものはほとんどジャネットが手がけたのかと思っていたのだが、実際は二人が出会う前からアレックスが自分で既存のトーイを分解したりしながら、試作品らしきものを作ったりしていたそうだ。
そして二人が出会い、クラウドファンディングを立ち上げたのが2014年。その話はラブピの商品紹介ページにも掲載されているが、実際に使用して意見をくれた協力者たちには、彼女の友人や両親も!
ちなみにEVAを最初に買ってくれたのは、なんと祖父母だそうである。その話が出たので、訊きたかった質問を振ってみた。偏見かもしれないが、いわゆる高学歴のあなたたちがセックス業界の仕事をする、ということについて、周りの反応はどうなの?

アレックスの場合は、そもそも子供の頃からセクシャリティに関心があったことを両親は理解しており、このプロジェクトを開始するにあたっても、家族や友人から大きな協力を貰ったそうだ。
一方で米国社会でもセックス産業にタブーの眼差しを向ける保守的な人はまだまだいて、対照的にジャネットの家族はこのプロジェクトの話を聞いてショックを受けたとか。そりゃそうよね、彼女は元エンジニア、それがセックストークを作りたい、なんて言い出したわけだから…。
でも今ではお母さんを始め、すごく協力をしてくれているし、だんだんとこういう話にも理解をしてくれるようになったそうよ。私たちがこうしたことをやることで、オープンに話をする場が作られるのよ。私たちの行動が、未来への扉を開くんだと思ってる。

保守的、という言葉が出たところで更に訊いてみたかった質問を投げてみた。トランプ政権以降、米国社会は保守傾向にある気がするけど、大変じゃない?
個人的には大問題よ!でもこの業界にとってはむしろいいんじゃないかしら?つまり、こういう思想に対してこの業界の皆が立ち向かっている、っていう力強さを感じるわ。

そんな彼女の10年後の夢は…、うーん、NY市長になるとかね!バイブレーターと女性のパワーを持ち合わせた市長よ(笑)。あとは母親にもなりたいし、女性の企業を立ち上げてみたいわ!

彼女たちが作り出すトーイのユニークな形は画一的でない人間の個性を、そのポップで優しい色合いは繊細な人間の心の深部を表現しているようにも感じる。Dameのロゴデザインやプロモーションビデオにしても、彼女たちのプロジェクトはアート表現にも通じるような斬新さがあり、自らのテーマを正直に追求する彼女たちの姿勢は、セクシュアリティを明るく開かれた空間へと解き放つ力があるように思う。しなやかで素直で力強いフェミニズムに心が軽くなったひとときだった。

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写真1:ラブピでもお馴染みのEVA。ネズミが持っているものだから、余計に虫かカエルに見えたのですが(笑)、この形はあくまで機能性を追求して開発されたものだとか。

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写真2:トーイの色や形といい、パッケージデザインといい、ディスプレイといい、説明書のイラストといい、キュートかつシリアスでユニークなセンスは、若い世代の発想ならではかもしれません。

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写真3:代表者のアレックス(手前右)とスタッフたち。展示会二日目のこの日、かすれてしまった声でインタビューに答えてくれたアレックスに感謝!

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中沢あき

中沢あき(なかざわ・あき)

映像作家、キュレーターとして様々な映像関連の施設やイベントに携わる。2005年より在独。以降、ドイツ及び欧州の映画祭のアドバイザーやコーディネートなどを担当。また自らの作品制作や展示も行っている。その他、ドイツの日常生活や文化の紹介や執筆、翻訳なども手がけている。 

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