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50女は目に見えない、か?

中島さおり2019.01.30

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 年齢を重ねても女性は女性、フランスはそんな国だとみんな思っていた。ブリジット・マクロンの颯爽とした姿が世界の女性たちに勇気を与えたのもそう古い話ではない。

 なのに新年早々、「50才の女は目に映らない」と発言して、非難轟々の目に遭っている男がいる。しばらく前までテレビのインタビュアーもやって知られていた50代の小説家、ヤン・モワ。
 《Rupture(別れ)》という最新作のプロモーションのため、女性誌「マリ・クレール」のインタビューに答える中で、「25才の肉体は素晴らしいが、50才の肉体はいただけない」と発言したため、女性の敵となった。

 テレビやネットでは50代でも美しいジュリア・ロバーツや、モデルでモデルで歌手のカルラ・ブルーニ、ソフィー・マルソーなどの写真が「反証」として次々に挙げられ、ヴァレリー・トレールヴァイレール(オランド元大統領の伴侶だったジャーナリスト)はじめ、有名無名の女性たちが「あたしの目にもヤン・モワなんか映らない」「こっちからおことわり!」と次々発言する。

 ところがヤン・モワは決して発言を取り消したり謝罪したりせず、「自分の好みを言っただけ」と居直り、挙句は自らをブリジット・マクロンになぞらえるという芸当までやってのけた。世間に抗して自分よりずっと年下の異性と付き合ったというところが「共通点」なのだそうだ。

 「若い女の子でなきゃ」とか「付き合う女性はアジア系のみ」とかいうこの男性を、擁護したいとは私も微塵も思わないのだけれども、又聞きだけで判断するのは公正を欠くから、この記事を書く前に元のインタビュー記事を読んで見たら、「25才じゃなきゃダメというわけではない。40才でも大丈夫」「自分と同じくらいの女性がダメってことなので、自分が60才になれば50才でも若く感じると思う」とも発言していたので、そこまで責めるのも気の毒なような気がしてきた。

 アジア系ばかりと付き合う男性というのもこの国にはいて、アジア人の私としてもあまり気持ちの良いものではないのだが、本人も「こう言うと、人種で決めているみたいで付き合う女性に悪いとは思うけれども、アジア系の女性もたくさんいて誰でも良いというわけではないので」と意識はしているようだった。まあ、本人としては「インタビューで訊かれたので個人的な趣味を言ったら炎上してしまった」災難なのかもしれない。
 しかしその趣味が「若い女が良い」なんてものでは、真に個人的な趣味とは言いがたく、女の価値を肉体にのみ見出す、通俗的な女性観と違わないところに問題があるのだろう。

 この事件で私が改めて認識したのは、このような通俗的な女性観は、今日のフランスでは、口にしてはいけないようなものだったということだ。フェミニズム的見地からしても許されない発言だろう。

 また、「美しく魅力ある50代の女性」という反証が次々に上がるのを見て、たしかに欲望の対象となり得る50代女性が増えているということにも気がついた。スターは一般人とは違うと言っても、一昔前だったら女優にしても、こんなに多くの名前が上がっただろうか。「50代はまだまだ性的魅力がある」というのは常識になっていたのだ。これにヤン・モワ発言は抵触したのである。

 日本だったらどうだろうと考えてみる。「50代以上は性的対象として見られない」と発言した男性がいたとして、炎上するだろうか。なんだか、しないような気がするのだ。
「50代でも付き合えるよ」と言う人もいるだろうけれど、「全く対象外」と言ったために八方からブーイングを浴びることになるだろうかと考えると… そこがフランスと日本の違いのように思う。

 しかし、ヤン・モワがいみじくも垣間見せてくれたのは、フランスでもこのような考えを胸の奥に潜ませている男性はまだいるということだ。

だとすれば、日仏の違いは、そういう意見が強いか弱いかの差に過ぎない。日本でも勢力が逆転して、ブーイングが起こる日は意外に近いかもしれない。

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中島さおり(なかじま・さおり)

エッセイスト・翻訳家
パリ第三大学比較文学科博士準備課程修了
パリ近郊在住 フランス人の夫と子ども二人
著書 『パリの女は産んでいる』(ポプラ社)『パリママの24時間』(集英社)『なぜフランスでは子どもが増えるのか』(講談社現代新書)
訳書 『ナタリー』ダヴィド・フェンキノス(早川書房)、『郊外少年マリク』マブルーク・ラシュディ(集英社)『私の欲しいものリスト』グレゴワール・ドラクール(早川書房)など
最近の趣味 ピアノ(子どものころ習ったピアノを三年前に再開。私立のコンセルヴァトワールで真面目にレッスンを受けている。)
PHOTO:Manabu Matsunaga

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