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私はアンティル Vol.30 障がい

アンティル2005.11.19

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板橋区、「障害」から「障がい」へ

先日新聞を読んでいたら、こんな見出しの記事を見つけた。板橋区では、人権尊重の立場から、区が作成する文書で「障害」という表記をやめて「障がい」に改めるのだという。「害」には「そこなうこと、わざわい」など否定的な意味があるからなのだと、その記事には書いてあった。性同一性障害という障害を持つ私も、障害者だ。障害者と障がい者。後者の方が、痛々しく見えるのは私だけだろうか?
性同一性障害の治療は、その人が本当に性同一性障害なのかという判定をすることから始まる。2人の精神科医がそうです!と判を押すと、そこからようやくホルモン療法を受ける資格を得るのだ。2人目はS医大の精神科医だ。

私も、一人目の精神科医の所に通い始めて半年たった頃、紹介状を持ってそのS医大を訪ねることになった。

S医大は性同一性障害の聖地だ。ここには治療を求めるMTFやFTMが大勢集まる。予約は3ヶ月先までいっぱいだ。予約がとれず、治療がなかなか始まらないというのが当たり前の状態で、運が悪いと性同一性障害の治療に前向きでない医師にあたり、いじめられた上に、なかなか判をついてもらえないこともあると聞いた。私も病気だと認定されたいがために、順番を待つ患者の一人だった。そして数ヶ月後、私の番がきた。

“よりスピーディーに診察が進むように”と、一人目の医師がアドバイスしてくれたとおり、私は自分史を持って診察室に入った。S医大の医師Aは50代後半くらいの優しい顔立ちをした人で、性同一性障害に理解がある医師としてFTMやMTFの間で人気が高い医師だった。私は少し緊張した面持ちでそのA医師の前に座った。自分史に目を通すA。さぁ、いよいよ質問タイム。“今、どんな生活をしているのか”“これまでどんなことがあったのか”“何が辛かったのか”よくされる質問ばかりだったので、私は質問される前に、自ら答えていった。その間30分。A医師の顔立ちのせいか、リラックスして話せてホッとしていた私に、A医師はちょっと興奮気味に驚いたような顔を浮かべながら話し始めた。

「アンティルさん! あなた、なんでそんなに明るいんですか?」
「あかるい??」

私は、私が話しているのは本当に精神科医?? と確認したくなるほどその言葉に戸惑ってしまった。

「こう見えても根は暗いんですよ。ははは」

こう見えても・・・と言いながら、私は「おまえは患者だろう」と心の中で自分に突っ込みを入れた。

「私、あなたのような人に初めて会いました。性同一性障害の治療のためにここにくる人達はみんな下を向いて、今にも泣き出しそうなんですよ。こんな体験をしたのに、何でそんなに明るくいられるんですか?」
「はぁ~」

私は何も答えられなかった。私は自分を暗い人間だと思っている。っていうか明るいか暗いかなどという、性格分析の上でもっともシンプルな2者選択を精神科医が口にしていることに唖然とした。そして“明るい”という言われ馴れないほめ言葉にモジモジしていた。そしてそして性同一性障害の人の人物像が出来上がっていることに驚いた。私はここでも規格外だったのだ。そんな私を見て、医師は知りたがりの子供のように質問を始めた。

「教えて下さい。どうしたらそんな風でいられるのですか?」
「それはもともとの性格なんですか?」
「何をあなたがそうさせたのですか?」

その場はもはやカウンセリングの場ではなくなった。私は医師の悩みに答える妙な患者になった。しばしの沈黙の後、医師はちょっと申し訳なさそうな深刻な顔をして再び話し始めた。

「私、悩んでいることがあるんですよ。アンティルさん、あなたは自分に障害名がつけられることに違和感はないのですか?」

A医師の話によると、“障害”という名前がつくことに抵抗感を覚える人が多いのだと言うのだ。そのためA医師はここにくる人達とどう接するべきか悩んでいたのだ。

「私はそれでいいと思いますけど・・・」

“オンナが好きな私”は10年前も今も何一つ変わっていない。変わったのは社会だ。ついこの前まで、オンナが好きだというだけで、攻撃体制に入った社会が見せた変わり身の早さ。それを思うと、周りがどう呼ぼうと、その問題の中に私はいないと思った。まだ性同一性障害がなかった頃、私は「病気だ」と言われることに強く抵抗した。と、同時に「自分は病気なのかも?」と悩むこともあった。しかしそれは、“オンナが好きなオンナの病気”=“オンナが好きなオンナは精神病患者。更正させる対象!”という図式があったからだ。その恐怖は今でも記憶としてカラダに刻まれている。それに比べて性同一性障害。この名のおかげで精神病院に入れられる危険性もなく、私の呼び名に対して医師が気を払うほどの人権を私は手にしている。『私の欲望を攻撃しないのなら、呼び方なんてご自由に』「性同一性障害っていうくらいなんだから、私は障害者だと思います。」という気分だった。

社会など、当てにならない変幻自在の世界だと私は思う。
私の意思などお構いなしにその世界は時を刻み、ルールを作る。
その中では私の呼び名など、何の意味も持たない。呼び名は私の問題ではなく、呼ぶ人のための問題なのだ。だから私はどうでもいいと思っている。
そんなことより、力ずくで誰か変えようとする暴力が私や私の大切なもの達に降ってきた時にどう対抗できるかが、それが私にとっての問題なのだ。

「“害”には「そこなうこと、わざわい」など否定的な意味があるからだ」

変わることのない意味を、持ち出す人々がどんな顔をしているのか、私はそのことに注意深くありたいと思う。

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アンティル(あんてぃる)

ラブローター命のFTM。
数年前「性同一性障害」のことを新聞で読み、「私って、コレかも」と思い、新聞を手に埼玉医大に行くが、「ジェンダー」も「FTM」という言葉も知らず、医者に「もっと勉強してきなさい」と追い返される。「自分のことなのに・・・どうして勉強しなくちゃいけないの?」とモヤモヤした気持ちを抱えながら、FTMのことを勉強。 二丁目は大好きだったが、「女らしくない」自分の居場所はレズビアン仲間たちの中にもないように感じていた。「性同一性障害」と自認し、子宮摘出手術&ホルモン治療を受ける。
エッセーは「これって本当にあったこと?」 とよく聞かれますが、全て・・・実話です!。2005年~ぶんか社の「本当にあった笑える話 ピンキー」で、マンガ家坂井恵理さんがマンガ化! 

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