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私はアンティル Vol.95 イチゴ事件その27 欲望電話

アンティル2007.10.17

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「わたしだけど」
それは何よりも待ちわびていた6文字。
「私だけど」
それは私をこの世に蘇らせる儀式のような言葉。
「私だけど・・・・」
私はその言葉を何よりも欲していたのだ。
久しぶりのTからの夜明けの電話。

私とTにとって夜明けの電話は特別な意味を持っていた。
夜明けの電話はTが学校で会うまで待てないと私を呼ぶ合図でもあり、どうしても今セックスをしたいという時の合図でもあった。
欲望電話のその源に、私への渇望が見え隠れするその電話は幸せの象徴だった。始発でTの家に向かい、駅の近くのビルの片隅でひと時のセックスをしていたあの頃。それだけのために私はジョギングシューズとウェアを買った。始発で向かい、30分ほどのセックスをして家に帰る頃には、もう朝の身支度を始めている親への言い訳に使うためだ。
いつTから呼び出されてもいいように、私は数週間に1回、ジョギングをし、夜明けの密会の時にはジョギングウェアを着て出かけ戻ってきた。私にはほど遠い“ジョギング”という健全な行為を喜ぶ母の顔を見るたび、心がズキッ!と疼いた。
久々の電話が夜明けの電話であることに私は喜びを隠せなかった。
しかしかける言葉がない

「・・・・・・・」

Kとのことも、私を無視したTの態度も忘れてしまうほど喜ぶ私が、私の言葉を奪う。

『電話待ってたよ。』
『会いたかったよ。』
『やっぱり好きでたまらないよ。』
・・・・・

私の心から聞こえてくるのは歓喜の声ばかり。しかしあんなことがあった後、その言葉を発することはKを好きなTを受け入れることになる。
『どうすればいいんだ。』
しばらくの無言の後。私はどうでもいいようなことを口にした。
「そっちは雨降ってる?」
「うん。」
ベランダを打ちつける雨の響きが鳴り響く電話の中で、私はようやく一つ言葉を見つける。しかしもう次の言葉が見つからない。
何から話せばいいのか?Kのことはどうする?会いたい!もう一度会いたい!!
「・・・・・」
心の中で湧き上がる言葉の多さに反比例するように、長い沈黙が静かに流れていった。
「あのね・・・・」
鳥の声が聞こえ始めた頃。ようやくTが話を切り出した。
「なに・・・」
「あのね私実は、」
Tが何かを話し始めようとした時、その背後で大きな音が私の耳に飛び込んできた。
バタン(扉を閉める音)
Tの母「T、もう起きたの。こんな時間から電話?!Kくんなの?」
ガチャ(電話を切る音)
ツーツーツー
喜びの頂上からまっ逆さまに落ちた私には、もう涙さえ残っていなかった。

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アンティル

アンティル(あんてぃる)

ラブローター命のFTM。
数年前「性同一性障害」のことを新聞で読み、「私って、コレかも」と思い、新聞を手に埼玉医大に行くが、「ジェンダー」も「FTM」という言葉も知らず、医者に「もっと勉強してきなさい」と追い返される。「自分のことなのに・・・どうして勉強しなくちゃいけないの?」とモヤモヤした気持ちを抱えながら、FTMのことを勉強。 二丁目は大好きだったが、「女らしくない」自分の居場所はレズビアン仲間たちの中にもないように感じていた。「性同一性障害」と自認し、子宮摘出手術&ホルモン治療を受ける。
エッセーは「これって本当にあったこと?」 とよく聞かれますが、全て・・・実話です!。2005年~ぶんか社の「本当にあった笑える話 ピンキー」で、マンガ家坂井恵理さんがマンガ化! 

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