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最近はテレビ番組を録画するということをほとんどしなくなりました。録画するのにいまだにVHSを使っていて、それが面倒になってきたせいかもしれません。デジタル録画のできるDVDレコーダーを買おうと思いながら二年くらいたちました。ただ、DVDプレイヤーはあるのでDVDを見ることはできます。

昔はマメに録画をしてドラマなどを見ていましたが、今は家にいるときにやっている番組を見る、といった具合です。
けれど、たまにその時に見たいと思う番組もあります。それでも面倒で録画をしません。再び見ることの出来ないような単発の番組を見逃すと、惜しかった、と思います。

時々、バイト先で相方のオーラちゃんが、私が見たがっていた番組の幾つかを一枚のDVDに落として職場に持ってきてくれます。今日もらった一枚に入っていた番組は三つでした。
「ハートをつなごう」 テーマは同性愛 (NHK)
「僕らの音楽」 メインゲストは一青窈、他に、斉藤由貴、IKKO (フジテレビ)
「アド街ック天国」 特集は新宿二丁目 (テレビ東京)

二番目の歌番組で、一青窈の歌った新曲は性同一性障害の友人のことを書いたという「受け入れて」という歌でした。その話をするために対談したのがIKKOさん。

ということで、なんだかこのDVDはひとつのテーマで構成されているようでした。
「ハートをつなごう」は、NHKで初めて同性愛についての番組がつくられたということで、放映前から私の周囲でも、どんな感じになるのだろう、と話題になっていました。番組は、30分ずつ前編と後編に分けて二日にわたり放映されました。
前編では、二十代のゲイ男子を一人ピックアップして、彼が自分のセクシュアリティーを受け入れていった過程を丁寧に聞き取ったインタビューを中心に、スタジオでは社会での同性愛者の立場ということについて語られていました。

後編では、カミングアウトについてスポットをあて、友人や家族との関わりについて様々な当事者のインタビューを交えて、その問題点や可能性を示していました。

オープニングやインタビューの合間に、女の子同士が背中を合わせて座っている様子や男の子同士が見つめあっている様子の描かれた、全体的にブルーのペン画のようなイラストがうつり、男性のナレーションが入ります。耳に残ったのは、街で手をつなぐことができない、という部分でした。デートで手をつなぎたいかつなぎたくないかではなくて、つなぎたいけどつなぎにくいという現実です。
前編に出て来た男の子が、同性愛者だということを受け入れられなかったときに、生きていてもいいのかなと思った、と語っていたあたりに、相方のオーラちゃんは、その時の気持ちを思い出した、と言っていました。この番組を見たもう一人のバイトちゃんは、自分が(番組で語られていた場所から)遠いところにいるような気分になった、と言いました。私は、そうか街中で手をつなげないんだった、とあらためて思いました。

二丁目で毎日を過ごしている人は、差別の抑圧を日常的に感じなくなっているのかもしれません。少なくとも、私自身はそうなりかけているように思いました。
先日ふらりとお店を覗きに来た、私がよく行くゲイバーの店員さんに、今年の夏のパレードが事実上中止(来年の五月に延期)になったことを聞きました。セクシュアルマイノリティーのための東京プライドパレードのことです。
それを聞いた私は、残念だと思いませんでした。なんてことでしょう、とそのことに驚きました。何かが麻痺しているような感覚です。
DVDを見続けます。

後編で語られていた、親へのカミングアウトの難しさに共感しました。両親にカミングアウトをして理解されたと思っていたら、しばらくして「それでオマエはいつ結婚するのか」と問われた、という話は、私の場合と同じです。私の現状はそこで止まっています。実家にはほとんど帰っていません。私は居心地のいい二丁目という世界から出ていないだけなのかもしれません。
二番目の番組、「僕らの音楽」が始まりました。
IKKOさんはカミングアウトの覚悟について語りました。カミングアウトをすることによって目の前の人が去ってしまうかもしれない、という覚悟です。彼女の女装が勝負服のように見えました。以前ここで書いた、異性愛社会にいたときの自分の軽い女装を思い出しました。やはり、思い出しています。今は自分がそんな世界にいないかのようです。
そんなふうに差別の痛みを麻痺させてくれた二丁目とはどんな街なのか、と疑問に思ったところで、二丁目を特集した「アド街ック天国」という番組が始まりました。
よくできたDVDです。
二丁目で働いているといっても知らない場所はまだまだたくさんあります。
私は、こんなところがあるのかと驚き、あの店の中はこうなっていたのか、と覗き見をする気分で楽しみました。
この番組はひとつの街を取り上げて、その見所をベスト100に分けて紹介していく形式を取っています。新宿二丁目の第一位は、「ゲイバー300軒」という全体を指す趣向で終わりました。世界でも、これだけの数のゲイバーが密集している地域はないそうです。その中にいくつものコミュニティーがあって、私もその一部に属しています。
それはいいこと、たのしいこと、と今までずっと思っていて疑いませんでしたが、300軒という数字を見た時、ふと、ゲットーという言葉が浮かびました。
あるいは、集落、隔離、囲い込み・・ハッとしました。私は、今や二丁目を被差別地域として利用しているのではないか、と思ったのです。
そのあと続けて見たアメリカのテレビドラマ「Lワード」では、L・Aの盛大なパレードの様子が映し出されていました。登場人物たちが当たり前のように晴れやかにパレードに参加して行きます。ドラマの舞台は同性愛者が多く住む街として描かれていて、そこの住人たちがパレードに参加していくのです。
二丁目で働いていてパレードを必要としていないような感覚を持ってしまった私は、その様子を見て、二丁目という街が密集して閉じてしまわないためにも、パレードのように街の外へ出て行くイベントは必要なのかもしれない、と思いました。
けれどその意味付けは、今の私のために必要なだけかもしれません。

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茶屋ひろし

茶屋ひろし(ちゃや・ひろし)

書店員
75年、大阪生まれ。 京都の私大生をしていたころに、あたし小説書くんだわ、と思い立ち書き続けるがその生活は鳴かず飛ばず。 環境を変えなきゃ、と水商売の世界に飛び込んだら思いのほか楽しくて酒びたりの生活を送ってしまう。このままじゃスナックのママになってしまう、と上京を決意。 とりあえず何か書きたい、と思っているところで、こちらに書かせていただく機会をいただきました。 新宿二丁目で働いていて思うことを、「性」に関わりながら徒然に書いていた本コラムは、2012年から大阪の書店にうつりますますパワーアップして継続中!

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