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アメリカ大統領選挙に小室哲哉逮捕とか、なんだか脳内が慌ただしい11月の始まりです。マケイン・ペイリンは嫌だなーとか、テレビから渡辺美里の「My Revolution」が流れてくるたびに切なくなってしまいますが、そういうことを元手にコラムを書く能はありません。いつものように・・

先日、近所のスーパーに行くと、いつのまにか知り合いの男子が働いていました。
職種は違いますが、二丁目の同じボスのもとで働いていた人です。
あら、ひさしぶり、とその背中に声をかけようとして、一旦踏みとどまりました。

ここは異性愛者の世界です。歩くカミングアウトと言われている私が、いつもの調子で声をかけることは、彼にとって迷惑なことになるかもしれません。
けれど、オネエっぽくない声の調子というものをもはや思い出せない私は、彼の背中をポンと叩き、「おひさしぶり」と必要以上に小声でささやくことにしました。
振り返った彼は、とても明るくふつうに、「おひさしぶりです!」と大きな声で返答しました。
後日二丁目に遊びに来た彼に、そのへんのことを質問してみると、「僕がゲイであることはみんな(職場のひとたち)知ってますよ」とまた明るい口調です。
「へー、またどうして?」と尋ねると、「誰かと暮らしてるの? って聞かれて、ハイ旦那と、と答えてからです」とこれも陽気です。スーパーの仕事は、自分の食材を買う現場を他の従業員に見られてしまう環境にあるようです。それは、毎日彼が一人暮らしには多い量の食材を購入していたところから生まれた質問だったそうです。
「それで、どうだったの?」とカミングアウト後の周りの反応の様子を聞くと、「ふつうですよ。そうなんだー、で終わりでした」と言います。その後は? としつこく聞くと、「現在も変わりません」と答えました。私は、さすが新宿区だわ、と思いました。

新宿区で生活をしている人たちは、私のように仕草や発声でオカマとわかる人や、男性二人のカップルが街中を歩いていたりする光景を、それなりに見慣れているのではないか、と思ったのです。やっぱり差別意識を減らすのに手っ取り早いのは、当事者と出会うことと、その存在に慣れることなんだわ、と勝手に納得してしまいました。

先週、私もひさしぶりにカミングアウトをしました。相手は父の仕事関係の人たちです。
大阪と千葉にそれぞれ住んでいる父と兄から、東京でいっしょに食事をしないかと誘いがあり、3人で会うのかと行ってみると、他に3人いました。私には初対面の人ばかりです。
父の会社を担当している税理士のセンセイ、父の経営している書店の店長さん、そして父が東京でいっしょに仕事をしている編集者でした。センセイと店長は男性で、編集の人は女性です。

水道橋のすし屋のテーブル席で乾杯をしたあと、しばらくワイワイ話しているうちに、私が東京でどんな仕事をしているのか、という話になりました。父と兄はすでに知っていますが、なんにせよ、父の仕事関係の人たちです。
テーブルの対角にいる赤ら顔の父に、「言っていいの?」と確認します。
「おー、言え言え。お父さんにはようわからんからな」と、父はなぜか嬉しそうです。
だったらいいか、という気分になった私は、「新宿二丁目で働いています」と答えました。
フーン、そうなんだー、という空気になりました。酒のせいか、父の手前か、そんなことはどうってことない、という雰囲気です。
私は、出版関係である、とか、本をたくさん読んでいる、ということがこの雰囲気をつくりだしたのかしら、と思いました。
そして気がつくと、来週末に、二丁目に行ったことがないという店長と編集者と3人で、二丁目で飲んでみよう、という話になっていました。

その話を持ち出したのは、私と編集者の女性が同時くらいで、店長は行きたいのか行きたくないのかよくわからない笑みをしてうなずきました。彼女は酔っ払って、人間の女の子になる前の「ポニョ」のような顔になっていました。

飲み会の当日になって、ポニョのことは心配していませんでしたが、店長に関しては、あれは苦笑いだったのかなー、と少し気になりました。そういえばあの席で店長が、同性愛のことを「種の起源からはずれている(からオカシイ)」という発言をしていたことを思い出しました。店長は54歳の妻子持ち、ポニョは40歳独身です。

その時、なんらかの反論をしようとした私を押しのけてポニョが、「でも人間には眉毛があるんですよ。しかも眉毛はほとんど伸びないんですよ。そんな毛を持っているのは人間だけなんですよ。知ってました?」と、思いがけないミラクルな返しをして店長の口を封じてしまいました(猫の髭とかはどうなのかしら・・)。

店長のことは気になりますが、そのことを思い出すと可笑しくなってきて、予定通り二丁目で飲むことにしました。
二件のゲイバーに行きました。お酒を飲みながら、文学好きで70年代アンポの店長に、三島由紀夫の名前を出してみたりゲイリブの流れを軽く説明したりしてみました。すると店長は、「つまり、(同性愛は)精神的世界の話なんだな」と、同性愛を受け入れました。いや、肉欲だと思うけど・・、と二丁目の中心で私は辺りを見渡しました。

ポニョは初めて出会ったゲイバーのママにいろいろと質問をしています。そのうち酔っ払っていろいろと輪郭がグニャグニャになって、「私は帰ります」と立ち上がりました。
表まで送って戻ってくると、店長は他の客と楽しそうに話していました。家で飼っている金魚の話です。仕事から帰ると、ひとまず金魚と話すのだそうです(妻と娘は?)。同性愛より精神世界の話です。
私は、「そろそろ私たちも」と腰を上げて、飲み会の終わりを告げました。

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茶屋ひろし

茶屋ひろし(ちゃや・ひろし)

書店員
75年、大阪生まれ。 京都の私大生をしていたころに、あたし小説書くんだわ、と思い立ち書き続けるがその生活は鳴かず飛ばず。 環境を変えなきゃ、と水商売の世界に飛び込んだら思いのほか楽しくて酒びたりの生活を送ってしまう。このままじゃスナックのママになってしまう、と上京を決意。 とりあえず何か書きたい、と思っているところで、こちらに書かせていただく機会をいただきました。 新宿二丁目で働いていて思うことを、「性」に関わりながら徒然に書いていた本コラムは、2012年から大阪の書店にうつりますますパワーアップして継続中!

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