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あるとき職場で、DVDの在庫を店から少し離れた倉庫へ取りに行こうと、店内の棚を点検していると、レジにいるオーラちゃんが客のおじさんに雑誌のバックナンバーの在庫について聞かれていました。

「二月号はないの?」「はい、ありません」「また入るの?」「はい、その予定です」
そんなやりとりを横目に棚をチェックし終えた私は店を出ました。
帰ってくるとその客はもういませんでしたが、なんだかオーラちゃんが疲れています。話を聞くと、さっきのおじさんは「リフレイン」だったようです。

「リフレイン」とは、何度も同じことを聞いてくる人のことです。冒頭のやりとりが五回も繰り返されたのだそうです。ありえないようですが、そういう人は珍しくありません。
「はい、その予定です」と答えたあとに、しばらくしてまた「それで、二月号はないの?」と始まるのです。それは意地悪を仕掛けているようでもないので、一種の記憶障害なのかと思うほどです。

オーラちゃんは三回以上同じことを聞かれると眩暈がして気分が悪くなるそうです。なのに、丁寧に同じ回答を繰り返すので、「途中で切ってしまえばいいのに」と私は言います。でもどうやって切ればいいのかわからないそうです。

相手が障害を持っている人だとすると申し訳ない気もしますが、私はだいたい二回目で切ってしまいます。丁寧な口調ではありません。どちらかというとおばちゃん口調で「また入るから!」と強めに言い切ってしまいます。

こちらの話を聞いてくれない「リフレイン」・・彼が求めている答えはただひとつ、「二月号はこちらにございます」だけなのです。それ以外の答えは聞こえなくなってしまうのです。だから何度も尋ねてくるのでしょう。相手に同調してしまうとエンドレスになりかねないので、「私は私」の波長を出し続けることも必要かと思われます。

ある日、夜の九時をまわりレジの中で仕事をあがる準備をしていたら、酔っ払ったおじさんが入ってきて、「この辺で安くて朝まで飲めるところないかー」と聞いてきました。
「知りません」と、もうこのごろは問答無用です。
「そんなこと言わないで教えてくれよー。誰に聞いても知らねえって言われんだよ」
「ここではそういう紹介はしていません」
「なんで教えてくれないんだよーホントはいい店知ってんだろ? な、ちょっと言ってくれよ」
しつこいなー、と思いながら、「ダメなものはダメ、無理なものは無理!」とそっぽを向きました。するとおじさんは驚いて、「おー、兄ちゃん、怒ってんのかよ。なんで怒ったんだ?」と言いました。その素直な様子に可笑しくなってしまって、つい私は答えてしまいました。
「教えない、って言っているのにしつこいし、尋ね方も横柄に感じたからよ」
「あー、そりゃオレが悪かった。謝るからよー教えてくれよ」
ちっとも伝わっていません。最後には「無理だって言っているでしょう、もう出て行って!」と追い払ってしまいました。

五十代後半の小さいおじさんでした。外では彼より年配のおじさんが待っていて、私に向かって手を合わせてしきりに謝っていました。あなたは謝っているけどツレの言動は止めないのか・・と疑問が浮かびます。

外から戻ってきたオーラちゃんが、彼がそのあとも道端で誰彼問わずに聞きまくっては無視をされたり、「知らない」とか「アッチ」とか適当に指を差されたりしている、と報告してくれました。

なぜ誰も教えてくれないでしょうか。それは、彼らがノンケで見知らぬ人で嫌がられるような声のかけかたをしているからだ、と思いました。

タイムカードを押しに本店へ行くと、店の前で年配のほうが一人で立っています。
「さっきは悪かったな」と言うので、「いいけど、おっちゃんら、ここがホモの町だってわかってる?」とダイレクトに聞いてみます。するとうなずきながら、「ワシは好かんけど、アレが好きで」と苦い顔しました。そうかー、と笑っていると、アレが本店からも追い出されてきました。もうどうしようもなく不信な目つきになっています。
じゃあね、とそこで軽く無視して放っておけばよかったものを、つい魔が差してしまい、私はアレに、時々行くオオバコのゲイバーを紹介してしまいました。
とたんにアレは目を輝かせました。そして私の手をつかんで、「一緒に行こう、今夜は朝までだぞー!」とはしゃぎ始めました。

「痛い。はなせ。行かない。勝手に行け」と振り払うと、「じゃあ、ジャンケンしよ。オレが勝ったらオレ達と朝までだー」と飛びはねだしました。
なぜここまで意志の疎通の図れない生き物なのか。私は「いっしょには行かない、けれど礼儀守って飲むんだよ。お金もちゃんと払うんだよ」と二人を送り出しました。
そのあと友達と飲んで別れた私は、アレたちが気になって紹介してしまったゲイバーへ様子を見に行くことにしました。するとアレはカウンターで焼酎のボトルを下ろしてご機嫌で飲んでいます。年配は後ろのソファーでひっくり返って寝ていました。
閉店の時間が二時だと聞いた私は、アレに向かってもう一度、「迷惑かけるんじゃないよ、ちゃんと二時でお開きにするんだよ」と念を押しました。その様子が怒っているように見えたのでしょうか(まあ、怒っていますが)、アレが私にいちゃもんをつけたのでは、と勘違いした店員の子がすっ飛んできて私に謝ってくれます。店員の子が五人くらいいましたが、みんなさすがにこの新規の客の言動に目を光らせていたようです。
「違うの、私がコレらをこちらに紹介してしまって、申し訳なくて・・」としどろもどろになって、「よろしくお願いします」と頭を下げて店を出ました。
翌日、ちゃんとおとなしく帰ったかしら、とまだ気になっていた私は、その夜その店に行って、昨日の話を聞くことにしました。
「閉店になってごねたわよー。でも大丈夫。三人がかりで説教して両手両足つかんで放り出したから。お金も一番最初にもらっておいたから問題ないわ」
ガタイのいい店員の男子は、かっかっ、と私の謝罪を笑い飛ばしてくれました。
それは説教しても通じなかったという結果の力技だったのだな、と思いました。
自分が悪いと永遠に思わないような自己中心的な男には、やはり力技で対応するしかないのか、力技を持てないときは相手の主張を無視するしかないのか、悩むところです。と言いつつ、最近では閉店時間を過ぎても居座り、会計時には値切っている私が悩む話ではありませんが。

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茶屋ひろし

茶屋ひろし(ちゃや・ひろし)

書店員
75年、大阪生まれ。 京都の私大生をしていたころに、あたし小説書くんだわ、と思い立ち書き続けるがその生活は鳴かず飛ばず。 環境を変えなきゃ、と水商売の世界に飛び込んだら思いのほか楽しくて酒びたりの生活を送ってしまう。このままじゃスナックのママになってしまう、と上京を決意。 とりあえず何か書きたい、と思っているところで、こちらに書かせていただく機会をいただきました。 新宿二丁目で働いていて思うことを、「性」に関わりながら徒然に書いていた本コラムは、2012年から大阪の書店にうつりますますパワーアップして継続中!

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