ラブピースクラブはフェミニズムの視点でセックスグッズを売り始めた日本で最初のトーイショップです。Since 1996

騙された理由?

北原みのり2009.11.06

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 不思議すぎて、もう釘付けだ。のりぴー報道が完全に「婚活詐欺女」で塗り替えられた。のりぴー事件って、「のりぴーが覚醒剤をやっていた」以上の“新事実”は出ようもないし、また「男選びを完全に間違えた」以上の“原因究明”もない。物語としては完全に終わっていたところに、この事件だ。現時点では、「彼女の周りで男性がボコボコ死んでる」という事実しかわかっていないわけだが、様々なことを想像するには十分な情報が毎日のように積み重なっていく。
 
 
 それにしてもこの事件、あまりにも理解不能じゃないか。たいてい女性の犯罪者に対しては、犯罪に共感こそしないが、「もしかしたら私も・・・」と“彼女”の立場に置きかえるとができたものなのだ。同僚の女性を殺害した福田和子にだって、DV夫をワインボトルで殴り殺したカオリンにだって、ヒラヒラさんと呼ばれた通り魔殺人の女性だって、私は全く自分と違う人生を生きている違う世界の人の事件、とは思えなかった。
 そういう意味でも、今回の34歳の女性は、私には、全く新しい時代の幕開けくらいの衝撃を受けている。
 
 
だいたい、なぜ、彼女には貯金がないのか。
 → これからも、この方法で稼ぎ続ける自信があったから? その自信はなぜ?
だいたい、なぜ、彼女はマンションの管理人のオジサンにまで手作りお菓子をプレゼントしたのか。
 → 次のターゲットにするための営業? マメすぎやしない?
だいたい、なぜ、「殺す」必要があったのか。(殺したと、決まっちゃいないけど)
 → 口封じにしては、リスク高すぎない?
だいたい、生い立ちが貧しく不幸だったわけでもない(というか、地元では名士だったというじゃないか)女性がもつ犯罪の動機はいったい何だったのだろう。
 → これは解明されないんじゃないか、ということも含めて、この事件は謎すぎる。これまで女性の犯罪者に持つことができた「女としての共感要素」というものが、彼女にはゼロだ。福田和子には、母親が売春宿を経営していて、自身は17歳で強盗、入った刑務所で強姦被害にあうという凄惨な過去があった。ワインボトルのセレブ妻には夫に対する激しい憎しみを募らせる過程というものがあった。ヒラヒラさんのことは忘れている方も多いかもしれないが、彼女は近所で有名な美人で、老いることに激しい恐怖を抱いている女性だった。10代からクラブでホステスとして働き、20代後半に風俗をし、30代はパトロンをみつけて生活をしていた。生きる術が「美しい女であること」でしかなかった彼女が、老いていくなかで自らの精神を傷つけていくのは私は簡単に想像できる。
 
 
 私が今回、一番納得いったのは、彼女が「不美人」だったことだ。
 メディアの定石として、女性犯罪者(被害者にも)には必ず「美人」という冠をつけたがるものだが(平凡な容姿であっても、美人、とつけられることが普通だ)、今回、加害者の特徴は「不美人」である。メディアの方々はさぞかし「困惑」したのではないだろうか。
 雑誌等で高校時代のもっさりした制服姿が公開されたが「可愛さ」というものからはほど遠く、とても高校生にはみえない老けた印象だった。最近の彼女を知る近所の人の証言の多くも、「小太りで、40代くらいにみえた」というものだ。公開された写真と現在進行形の彼女の印象は、そう変わらないのだろう。
 メディアからは、なぜこの容姿の女性が? というあからさまではないが、そういう戸惑いを感じる。が、この点は、断じて、不思議なことじゃない。むしろ、私は今までの女性詐欺師の事件でもっとも合点がいく点ですらある、と思う。
 
 
 なぜか。だってそれは、この国の男たちが心の底から求めている女、それは、「気だてのいいぶす」だから。
 俺のことだけを愛し、理解し、世話をしてくれる女、他の男にとられる心配もなく、他の男を愛しちゃう可能性もなく、俺だけのために生きてくれる、都合のいい女として、「不美人」を求めているんだよ。
 今回逮捕された女性と直前まで暮らしていた男性がテレビで言っていた。気づいたら自宅の火災報知器一切合切なくなっていたのがわかった後なのに。
「今でも、いい子だったな・・・って思うんです」
 掃除洗濯料理、家事一般を素晴らしくこなしていき、身の回りの世話をしてくれる女性。しかも、自分以外の男にとられる心配がない(と勝手に男が思う)女性。男が最も騙されるのは、「美人詐欺師」なんかではなく、彼女のように「警戒心を相手に与えない容姿」の女性なんだよね。
 
 ただ、そうわかっていても、やはり不思議なのは、彼女が敢えて確信的に「ぶす」でいつづけたようにみえることだ。敢えて小太りのまま、敢えて整形などの「美」を求めず、アリノママに男たちに出会っていったこと。こんな女性の犯罪者が、今までいただろうか。いったいどんな「現代感覚」なのだろう。34歳の女性。いったい、彼女は何者で、どんな思考回路をしていたのか。・・・今までの犯罪者のように、自分にひきつけて考えるようなそういう糸口が、一切見つからない。きれいな色のベンツを選び、シーズーを二匹飼い、ビーフシチューを何時間もコトコト煮込み、マンションの最上階に住み、おいしいケーキを食べに遠出する労力を惜しまず、マンションの管理人にマドレーヌをつくるくらいマメなのに、自らの容姿は放置。これ、ものすごく、変、なことじゃないか。ぶすで小太りを、商品、として考えていたということ? 彼女にとって「自分」は、どんな人だったの?
 
 戦車プラモデルのオタク男性は本当に気の毒だと思う。「実は婚活中でしてwつか今日相手のご家族と会うのです」というブログがテレビや雑誌で発表される度に、いたたまれなさで苦しくなる。「w」も「つか」も「婚活」という単語も、41歳の男性が放った言葉として考えるに、もう哀しくてしかたない。男性被害者にここまで同情するのも、私には初めての経験だ。どちらかというと、彼女に求めた男性の「ファンタジー」の方が私にはわかりやすいのかもしれない。
 わからないのは、女の方だ。いったい、彼女は、何者なのか。
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北原みのり

ラブピースクラブ代表
1996年、日本で初めて、女性だけで経営するセックスグッズショップ「ラブピースクラブ」を始める。
著書に「はちみつバイブレーション」(河出書房新社1998年)・「男はときどきいればいい」(祥伝社1999年)・「フェミの嫌われ方」(新水社)・「メロスのようには走らない」(KKベストセラーズ)・「アンアンのセックスできれいになれた?」(朝日新聞出版)・「毒婦」(朝日新聞出版)など。佐藤優氏との対談「性と国家」(河出書房新社)・最新刊は香山リカ氏との対談「フェミニストとオタクはなぜ相性が悪いのか」(イーストプレス社)など。

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